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blue.77
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車が走り出したら終わりだ。
この一瞬を逃したら終わりだ、と思った。
背後のドアはロックされていて中からは開かない。
「あんたをいたぶって、和泉に絶望を味わわせてやる」
「俺たちをコケにしやがって」
憎悪が宿ったギラギラした目で私の隣に座りかけた谷口の顔めがけて通勤バックを叩きつけた。
「うわっ」
少しだけひるんだ谷口の股間を意識して、パンプスのつま先に人生最大の力を込めて蹴り上げた。
「いっ、…!!」
谷口がどさっと座席に倒れ込んで出来た隙間抜けて、ドアに飛びつき、身体ごと外に転がり出た。
横尾が走らせかけた車を急停車させて、アスファルトに身体を打ち付けた私を排気ガスが包む。
「くそっ!」
「待てっ!!」
横尾と谷口の険しい声と背後からつかみかかられそうな気配を感じたけれど、起き上がって振り向かずに全力で山の斜面を駆け下りた。
暗くて前も足元もまるで見えない山の中、何かに引っかかって転がり落ちながら、必死で走った。
顔や手足に小枝が当たって跳ね返り、岩肌に擦り切られて傷を作ったけれど、痛みは感じなかった。
捕まったら殺される。
追いかけてくる足音と荒い息遣いが恐怖で、少しでも遠ざかることだけを願った。
気が付くと、踏み出した足の下に地面がなかった。
崖から落ちたのかも、と頭が理解する前に、虚空をさまよった身体が固い地面に叩きつけられた。
激しい衝撃と痛みに一瞬息が出来なくなった。
逃げなきゃ、と思ったけど、身体に力が入らない。動けない。
「どこだ!?」
「落ちたか!?」
横尾と谷口の声が遠くの方で聞こえた。
どうか。どうか見つかりませんように。
暗闇の中おぼろげに浮かび上がる切り立った岩。微かな水音。
風に揺れる草木の影。背中から伝わるひんやりした感触。
奏くん。
頭が割れそうに痛い。息をするたび胸に痛みが走る。
ちゃんと会いに行くって約束したのに。
行けなくてごめんね。
視界が狭まる。生理的な涙が落ちるのを頬に感じた。
素直に好きって言いたかったのに。
言えなくてごめんね。
「…大好き」
言葉は声にならず崖下を渡る風の音に消えていった。
この一瞬を逃したら終わりだ、と思った。
背後のドアはロックされていて中からは開かない。
「あんたをいたぶって、和泉に絶望を味わわせてやる」
「俺たちをコケにしやがって」
憎悪が宿ったギラギラした目で私の隣に座りかけた谷口の顔めがけて通勤バックを叩きつけた。
「うわっ」
少しだけひるんだ谷口の股間を意識して、パンプスのつま先に人生最大の力を込めて蹴り上げた。
「いっ、…!!」
谷口がどさっと座席に倒れ込んで出来た隙間抜けて、ドアに飛びつき、身体ごと外に転がり出た。
横尾が走らせかけた車を急停車させて、アスファルトに身体を打ち付けた私を排気ガスが包む。
「くそっ!」
「待てっ!!」
横尾と谷口の険しい声と背後からつかみかかられそうな気配を感じたけれど、起き上がって振り向かずに全力で山の斜面を駆け下りた。
暗くて前も足元もまるで見えない山の中、何かに引っかかって転がり落ちながら、必死で走った。
顔や手足に小枝が当たって跳ね返り、岩肌に擦り切られて傷を作ったけれど、痛みは感じなかった。
捕まったら殺される。
追いかけてくる足音と荒い息遣いが恐怖で、少しでも遠ざかることだけを願った。
気が付くと、踏み出した足の下に地面がなかった。
崖から落ちたのかも、と頭が理解する前に、虚空をさまよった身体が固い地面に叩きつけられた。
激しい衝撃と痛みに一瞬息が出来なくなった。
逃げなきゃ、と思ったけど、身体に力が入らない。動けない。
「どこだ!?」
「落ちたか!?」
横尾と谷口の声が遠くの方で聞こえた。
どうか。どうか見つかりませんように。
暗闇の中おぼろげに浮かび上がる切り立った岩。微かな水音。
風に揺れる草木の影。背中から伝わるひんやりした感触。
奏くん。
頭が割れそうに痛い。息をするたび胸に痛みが走る。
ちゃんと会いに行くって約束したのに。
行けなくてごめんね。
視界が狭まる。生理的な涙が落ちるのを頬に感じた。
素直に好きって言いたかったのに。
言えなくてごめんね。
「…大好き」
言葉は声にならず崖下を渡る風の音に消えていった。
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