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「ん? 行こう」
絡められた指が優しく私を導く。
かろうじて足を踏み出すけれど、
自分の足じゃないみたいに力が入らない。
「え、と、…あの、…」
喉がカラカラに乾いてうまく声が出せない。
まばゆく輝くネオンサイン。空に映えるビル街の明かり。
海から届く湿った風。耳を鳴らす街路樹の葉花。
恋人繋ぎ。
それって、恋人同士が繋ぐから、そう呼ばれているわけで。
つまり、これは。この状況は。
「…桐生さん。誤解、される、…ような」
時々肩が触れ合って、どうしようもなく桐生さんを感じる。
近すぎて、隣を向けない。
「ん? やきもち焼きの彼氏に怒られる?」
ぎゅ。
繋ぐ手に力を込めて、桐生さんが私をのぞき込む。
見上げると、瞳にからかうような色を宿している。
「そうでなく!」
私に彼氏がいないのなんて百も承知でひどい。
ていうか、私だけ緊張していて何かずるい。
「今日会社で、私と桐生さんが付き合ってるとかあらぬ噂がたっちゃって。そんなの、桐生さん、奥様だっているのに困るから!だから!」
頭に血がのぼって一気にまくし立てた。
「ははっ」
桐生さんは優しく笑って、息を切らしている私の頭をポンポンなでた。
え、なにそれ、笑うとこ?
いまだ鼻息の荒い私の内心を知ってか知らずか、
「じゃあ」
桐生さんは目尻に笑いの跡を残したまま、身をかがめて
「秘密にする?」
耳元で甘く囁いた。
桐生さんの吐息が耳にかかる。
動いたら、触れそうなほど近くに桐生さんの端正な顔がある。
桐生さんの大きな影が、前方から私を包み込む。
繋いだ手が熱い。
全身が心臓になったようにどくどくと脈打つ。
秘密。
秘密って、何?
何が秘密?
秘密って、秘密って、…付き合ってるってこと?
あれ? 付き合ってる?
付き合うってなんだっけ。
自慢ではありませんが、私は恋愛経験が乏しすぎて、
30歳を目前にして恋愛スキル皆無です。
桐生さんと私。
職場の先輩と後輩。
一緒に食事に行った。2人で呑んだ。
車で送ってもらった。横抱きにされた。手を繋いだ。
1つベットで朝まで一緒に寝た。
え―――、付き合ってる!?
色気をまとった寝起きの桐生さんと身体に回された腕の温もりがよみがえり、衝撃で頭が破裂した。
「じ、…」
「ん?」
首を傾げて私を見つめる桐生さんを渾身の力で突き飛ばして走った。
「実家に帰らせてください!」
「…橘?」
どこに向かっているのか何をしているのか何も考えられず、ただひたすらに走る。
「…あー、もう、…可愛いすぎるだろ」
後に残された桐生さんのつぶやきは、勿論知る由もない。
絡められた指が優しく私を導く。
かろうじて足を踏み出すけれど、
自分の足じゃないみたいに力が入らない。
「え、と、…あの、…」
喉がカラカラに乾いてうまく声が出せない。
まばゆく輝くネオンサイン。空に映えるビル街の明かり。
海から届く湿った風。耳を鳴らす街路樹の葉花。
恋人繋ぎ。
それって、恋人同士が繋ぐから、そう呼ばれているわけで。
つまり、これは。この状況は。
「…桐生さん。誤解、される、…ような」
時々肩が触れ合って、どうしようもなく桐生さんを感じる。
近すぎて、隣を向けない。
「ん? やきもち焼きの彼氏に怒られる?」
ぎゅ。
繋ぐ手に力を込めて、桐生さんが私をのぞき込む。
見上げると、瞳にからかうような色を宿している。
「そうでなく!」
私に彼氏がいないのなんて百も承知でひどい。
ていうか、私だけ緊張していて何かずるい。
「今日会社で、私と桐生さんが付き合ってるとかあらぬ噂がたっちゃって。そんなの、桐生さん、奥様だっているのに困るから!だから!」
頭に血がのぼって一気にまくし立てた。
「ははっ」
桐生さんは優しく笑って、息を切らしている私の頭をポンポンなでた。
え、なにそれ、笑うとこ?
いまだ鼻息の荒い私の内心を知ってか知らずか、
「じゃあ」
桐生さんは目尻に笑いの跡を残したまま、身をかがめて
「秘密にする?」
耳元で甘く囁いた。
桐生さんの吐息が耳にかかる。
動いたら、触れそうなほど近くに桐生さんの端正な顔がある。
桐生さんの大きな影が、前方から私を包み込む。
繋いだ手が熱い。
全身が心臓になったようにどくどくと脈打つ。
秘密。
秘密って、何?
何が秘密?
秘密って、秘密って、…付き合ってるってこと?
あれ? 付き合ってる?
付き合うってなんだっけ。
自慢ではありませんが、私は恋愛経験が乏しすぎて、
30歳を目前にして恋愛スキル皆無です。
桐生さんと私。
職場の先輩と後輩。
一緒に食事に行った。2人で呑んだ。
車で送ってもらった。横抱きにされた。手を繋いだ。
1つベットで朝まで一緒に寝た。
え―――、付き合ってる!?
色気をまとった寝起きの桐生さんと身体に回された腕の温もりがよみがえり、衝撃で頭が破裂した。
「じ、…」
「ん?」
首を傾げて私を見つめる桐生さんを渾身の力で突き飛ばして走った。
「実家に帰らせてください!」
「…橘?」
どこに向かっているのか何をしているのか何も考えられず、ただひたすらに走る。
「…あー、もう、…可愛いすぎるだろ」
後に残された桐生さんのつぶやきは、勿論知る由もない。
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