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入り口に信楽焼タヌキの置物がある料亭は、裏通りを少し歩いた先に隠れ家的に存在していた。
日本庭園らしきものも設えられていて、着物姿の仲居さんに迎えられる。
自分じゃ絶対入れないであろう格式の高さが絶妙に辛い。
っていうか、
美雨さんが私に話っていうのがそもそも、…帰りたい。
「このお椀、香りもすごくいいけど、器の模様も味がありますね」
「こちら日月模様の汁椀でして、使うほどに漆の透明度が増して模様が鮮やかになるんです」
コース料理が運ばれてくると、桐生さんが仲居さんと和やかに会話していた。
…大人だなぁ、桐生さん。
座椅子のある畳敷きの個室で、
私と桐生さんの向かいに、美雨さんとマネージャーの氷室さんという男性が並んで座っている。
「突然お呼び立てして申し訳ありません」
仲居さんが中座すると、マネージャーさんが改めて頭を下げた。
「あ、…いえ」
もごもごと相槌を打つが、正直何だか胃が痛い。
向かいに座る美雨さんはやっぱり際立って小顔でスタイルが良く、もともと色白な顔は少し蒼白に見えた。
両手を強く握り、身を硬くして口を引き結んでいた美雨さんだったが、突然顔を上げて私を見た。
「紘弥を返してください!」
「美雨…」
マネージャーさんが落ち着かせるように美雨さんの肩を抱く。
美雨さんはその大きな瞳いっぱいに涙を浮かべた。
「紘弥はフジクラの要なんです! 紘弥がいないと困るんです!」
大粒の涙が一粒落ちると、次から次へと溢れ出し、
「紘弥はあたしの、…っ」
美雨さんは肩を震わせてしゃくりあげた。
「僕も詳しいお家事情はわからないんですが、…」
涙で話が出来なくなってしまった美雨さんに代わり、マネージャーの氷室さんが話を引き取る。
「紘弥くんが作ったプログラムデータを藤倉グループが持っているんですけど、ライバルグループや海外企業が競って手に入れようとしていて、ハッキングや産業スパイのようなことが起きているらしいんです」
な、…なんか難しそうな話になってきた。
「情報自体は最悪奪われても紘弥くんがいれば再生できるんで、紘弥くんの奪い合いも起きていて、藤倉グループ内でも内部分裂状態にあるようなんです」
柚くんが、私には遠く及ばない世界で、一人で戦っているような気がした。
世の中の全てが敵のような、あの目をして。
胸の奥がぎゅっとつかまれたみたいに痛い。
日本庭園らしきものも設えられていて、着物姿の仲居さんに迎えられる。
自分じゃ絶対入れないであろう格式の高さが絶妙に辛い。
っていうか、
美雨さんが私に話っていうのがそもそも、…帰りたい。
「このお椀、香りもすごくいいけど、器の模様も味がありますね」
「こちら日月模様の汁椀でして、使うほどに漆の透明度が増して模様が鮮やかになるんです」
コース料理が運ばれてくると、桐生さんが仲居さんと和やかに会話していた。
…大人だなぁ、桐生さん。
座椅子のある畳敷きの個室で、
私と桐生さんの向かいに、美雨さんとマネージャーの氷室さんという男性が並んで座っている。
「突然お呼び立てして申し訳ありません」
仲居さんが中座すると、マネージャーさんが改めて頭を下げた。
「あ、…いえ」
もごもごと相槌を打つが、正直何だか胃が痛い。
向かいに座る美雨さんはやっぱり際立って小顔でスタイルが良く、もともと色白な顔は少し蒼白に見えた。
両手を強く握り、身を硬くして口を引き結んでいた美雨さんだったが、突然顔を上げて私を見た。
「紘弥を返してください!」
「美雨…」
マネージャーさんが落ち着かせるように美雨さんの肩を抱く。
美雨さんはその大きな瞳いっぱいに涙を浮かべた。
「紘弥はフジクラの要なんです! 紘弥がいないと困るんです!」
大粒の涙が一粒落ちると、次から次へと溢れ出し、
「紘弥はあたしの、…っ」
美雨さんは肩を震わせてしゃくりあげた。
「僕も詳しいお家事情はわからないんですが、…」
涙で話が出来なくなってしまった美雨さんに代わり、マネージャーの氷室さんが話を引き取る。
「紘弥くんが作ったプログラムデータを藤倉グループが持っているんですけど、ライバルグループや海外企業が競って手に入れようとしていて、ハッキングや産業スパイのようなことが起きているらしいんです」
な、…なんか難しそうな話になってきた。
「情報自体は最悪奪われても紘弥くんがいれば再生できるんで、紘弥くんの奪い合いも起きていて、藤倉グループ内でも内部分裂状態にあるようなんです」
柚くんが、私には遠く及ばない世界で、一人で戦っているような気がした。
世の中の全てが敵のような、あの目をして。
胸の奥がぎゅっとつかまれたみたいに痛い。
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