上 下
25 / 92
iiyori.03

07.

しおりを挟む
穂月と会って初の週末には、穂月と卯月の生活に必要なものを購入がてら、大型遊具があってバーベキューも出来るような広い公園に行ってみた。わくわくが押さえきれない卯月は、幼児たちで混み合う中に突入していき、無邪気な子供そのものの顔で周囲に溶け込んで大はしゃぎしている。

「ち、…ちちうえっ、ちちうえっ、おちまするっ」
「ハハ、下を見るな。しっかりつかまって進め」

利発な卯月も大きく揺れるアスレチック遊具には恐怖心が煽られるようで、ひたすら穂月を呼んでしがみついている。聞き分けがよく、なんでも出来てしまう卯月の年相応な顔が見れて、なんだかちょっと安心してしまう。

「ねえ、あの子カッコいいね」「若いパパ?」
「まさかー、年の離れたお兄ちゃんでしょ」
「いや、欲しいわあ。あんな麗しいお兄ちゃん」

美しい容姿と品のあるたたずまいで、穂月はどこにいても目立っている。

ちょっと離れたところから遊具で遊ぶ二人を見守っていたら、周りの奥様方が俄然華やいでいた。まあ、穂月はどこにいてもモテる。学校でも死ぬほどモテてたし、取り巻かれるのにも慣れてるみたいだった。戦国時代なのかどこか、前の時代でもさぞかしモテていたんだろう。

…ん?

なんかちょっと胸の奥がチクリとするのと同時に気づいた。
その頃って確か、一夫多妻制じゃないか?
え? それなりの若侍だったなら、穂月は妾なり側室なり、より取り見取りだったんじゃ、…

『俺は他の女子おなごと睦ぶつもりはない。お前だけだ』

もしかしてあれって、今の時代よりずっと特殊でずっと難しいことだったんじゃないだろうか。例えば、穂月がお家を継がなければならない立場だったりしたら。

『俺となえは、祝言をあげられなかったが、夫婦だ』

穂月が婚礼を挙げられなかったのは、何か反対とか壁があったからなのかもしれない。教師の立場で生徒と恋愛することが許されないように、結婚を許されない何かがあったのかもしれない。

それでも『なえ』を選んで、時代を超えて来るって。相当な、…

「ほーう、若いお父さんは日曜日に公園で家族サービスですか」
「ひぃっ」

穂月の思いの強さになんだかソワソワしていたら、急に声をかけられて、分かりやすく飛び上がってしまった。

「出た、…っ!」
「なんですか、人を妖怪みたいに」

そこには溶けかけた雪だるま妖怪、東丸マモルが相変わらず縦より横に大きい姿で立っていた。

「…溶けかけたってなに? 崩れてるってことですか?」

…多くは語るまい。
しおりを挟む

処理中です...