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01.
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翌日。
退院前検査や診察、手続きなどを終えて、実際に病院を後にしたのは夕方近くになってからだった。佑京くんが検査などを受けている間、集中治療室にいる佑京くん(の身体?)に会いに行ってきた。
透明な壁の向こうで佑京くんが静かに眠っている。こちら側からではほとんど動いていないように見える。モニターが示す軌跡だけが佑京くんが生きている証。
なんだけど。
この佑京くんの中身(精神?)は、今、季生くんの身体の中にいる。
こうして見ていると、やっぱり信じられないような気がしてくる。
季生くんと佑京くんの身体と心が入れ替わっているなんて。
でも、季生くんの姿をした佑京くんは、佑京くんとしか思えない言動をする。
佑京くんしか知らないことを知っていたり、佑京くんしか答えられないことを答えてくれたり。
『…好きな人は?』
『…いる』
「ねえ、季生くん。そこにいる?」
2人が入れ替わっているのなら、季生くんの精神は今、佑京くんの中にいるかもしれなくて。静かに眠っている佑京くんの身体に語りかけてみる。
「佑京くん、結婚してないんだって。だけど、好きな人がいるんだって」
季生くんがいたら、なんて言ってくれただろう。
あの後。佑京くんはこう言った。
『だから安心しな。お前に手出したりしないから』
つまりは。
行きがかり上、私をそばに置いているけれど、佑京くんの思いは別の所にあって、過去はあくまでも過去でしかないということで。
『お前まだあいつが好きなの?』
いつまでも過去に囚われ続けているのは、私だけ。
季生くんを守るためとはいえ、こんな気持ちのまま今後も佑京くんと行動を共にするなんて。
『…いいよ。任せな。俺の羽はお前と飛ぶためにあるから』
季生くん、早く戻って来て。
「…ゆりのちゃん、ここにいたんだ」
集中治療室の前で季生くんに語りかけていたら、思いがけず声をかけられて驚いた。
「…南条さん。来てくれたんですか」
振りむくと、職場の先輩かつ議員ジュニアである南条さんが立っていた。
「ioくん。具合はどう?」
「…えーと、もうすぐ退院です」
具合は大変複雑なんですが。と、心の中で付け加える。
季生くんの中身は佑京くんの中でこん睡状態で、季生くんの外身に佑京くんが入っていて、季生くんとして佑京くんが退院するという、…
ちょっと自分でも訳が分からない。
「そうか。大事なくて良かった。彼のおかげだね」
南条さんが壁の向こうにいる佑京くんに切な気な視線を向けた。
「…はい」
いずれにしても、季生くんの中身がいるであろう佑京くんの身体が、快方に向かうことを願うばかりだ。
「ゆりのちゃんはこれからどうするの? 仕事には戻れそう?」
「あ、はい。それはそのつもりなんですけど、…」
仕事を休むと課の皆さんに多大な迷惑をかけてしまうので、出来れば明日からでも行くつもりなんだけど、当座の問題は、今日これからどこに帰るか、だ。
「俺の家だろうな。お前の家は奴らに知られてるし、お前一人にするわけいかないだろ」
佑京くんは軽くそう言ったけど、なんだかさらに複雑な状況に向かっているような気がする、…
退院前検査や診察、手続きなどを終えて、実際に病院を後にしたのは夕方近くになってからだった。佑京くんが検査などを受けている間、集中治療室にいる佑京くん(の身体?)に会いに行ってきた。
透明な壁の向こうで佑京くんが静かに眠っている。こちら側からではほとんど動いていないように見える。モニターが示す軌跡だけが佑京くんが生きている証。
なんだけど。
この佑京くんの中身(精神?)は、今、季生くんの身体の中にいる。
こうして見ていると、やっぱり信じられないような気がしてくる。
季生くんと佑京くんの身体と心が入れ替わっているなんて。
でも、季生くんの姿をした佑京くんは、佑京くんとしか思えない言動をする。
佑京くんしか知らないことを知っていたり、佑京くんしか答えられないことを答えてくれたり。
『…好きな人は?』
『…いる』
「ねえ、季生くん。そこにいる?」
2人が入れ替わっているのなら、季生くんの精神は今、佑京くんの中にいるかもしれなくて。静かに眠っている佑京くんの身体に語りかけてみる。
「佑京くん、結婚してないんだって。だけど、好きな人がいるんだって」
季生くんがいたら、なんて言ってくれただろう。
あの後。佑京くんはこう言った。
『だから安心しな。お前に手出したりしないから』
つまりは。
行きがかり上、私をそばに置いているけれど、佑京くんの思いは別の所にあって、過去はあくまでも過去でしかないということで。
『お前まだあいつが好きなの?』
いつまでも過去に囚われ続けているのは、私だけ。
季生くんを守るためとはいえ、こんな気持ちのまま今後も佑京くんと行動を共にするなんて。
『…いいよ。任せな。俺の羽はお前と飛ぶためにあるから』
季生くん、早く戻って来て。
「…ゆりのちゃん、ここにいたんだ」
集中治療室の前で季生くんに語りかけていたら、思いがけず声をかけられて驚いた。
「…南条さん。来てくれたんですか」
振りむくと、職場の先輩かつ議員ジュニアである南条さんが立っていた。
「ioくん。具合はどう?」
「…えーと、もうすぐ退院です」
具合は大変複雑なんですが。と、心の中で付け加える。
季生くんの中身は佑京くんの中でこん睡状態で、季生くんの外身に佑京くんが入っていて、季生くんとして佑京くんが退院するという、…
ちょっと自分でも訳が分からない。
「そうか。大事なくて良かった。彼のおかげだね」
南条さんが壁の向こうにいる佑京くんに切な気な視線を向けた。
「…はい」
いずれにしても、季生くんの中身がいるであろう佑京くんの身体が、快方に向かうことを願うばかりだ。
「ゆりのちゃんはこれからどうするの? 仕事には戻れそう?」
「あ、はい。それはそのつもりなんですけど、…」
仕事を休むと課の皆さんに多大な迷惑をかけてしまうので、出来れば明日からでも行くつもりなんだけど、当座の問題は、今日これからどこに帰るか、だ。
「俺の家だろうな。お前の家は奴らに知られてるし、お前一人にするわけいかないだろ」
佑京くんは軽くそう言ったけど、なんだかさらに複雑な状況に向かっているような気がする、…
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