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2章.憂鬱インターンシップ

06.

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「チーム医療における栄養管理士の業務は様々ありますが、まずは外来・入院を含む患者様の栄養摂取状況等、栄養管理上必要な情報収集と確認から始めます」

スタッフルームのパソコンを前に、テキパキとマウスを操りながら説明をしてくれるのは管理栄養士の繁田さん。栄養管理チームのチーフを務めているという。パソコン上には個人個人の病状に応じた細やかな食事の形態がデータ化されてずらりと並んでいる。

約500名の患者様の栄養状態を的確に把握し、栄養管理計画を練り、情報を共有化する。調理スタッフに素早く情報伝達をして、食事内容と食札を決めなければならない。献立は、季節や行事、旬の食材に配慮して予め立ててあるらしいが、天候や流通状況によって直前の変更にも対応する必要がある。食事は基本の3食+補食。それを体調や食べる力に合わせて、きざみ食やミキサー食、流動食など、負担なく美味しく食べられるよう工夫する。

なんというか。
現場は目の回る忙しさだった。

患者様の命と健康をお預かりしているという意識が徹底されていて、それぞれの役割を担うスタッフが、刻一刻と変わる状況に臨機応変に対応している。厳密な衛生管理が施された敷地内を、繁田さんに従ってメモを取る間もないほど慌ただしく動き回り、…

やっと一息付けたのは、職員用の地下食堂で遅い昼食休憩をとらせてもらった時だった。

「現場って大変だね」
「緊張感が半端ない」

さすがのセレナも朝の浮かれた感じはみじんもない。
医療従事者への尊敬が改めて高まり、看護師として働く母のことも誇りに思った。

「ねえねえ、院長先生じゃない?」「会えるなんてラッキー」
「いつ見ても麗しい」「できる男の色気に溢れてるっ」

黙々とワカメそばを啜っているとにわかに食堂内が騒がしくなり、

「あ、ケイくんっ」

顔を輝かせて入り口付近を見たセレナの視線を追いかけて、…

驚愕のあまりワカメを吹いた。

な、… なんでここに。

「セレナ、お疲れ」

にこやかに笑うセレナのNew彼氏ケイくんを偉そうに従えて、

「よう、つー。またすぐ会えたな」

鬼のオニヤンマがわざとらしく爽やかな白衣姿で片頬を上げながら近づいてきた。
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