38 / 103
3章.歪曲インフォメーション
09.
しおりを挟む
「お前にそんな器用なこと、出来るわけないだろ」
データ改ざんの疑いをかけられた件について、侑さんはたった一言で切り捨てた。侑さんと二人、暮れがかった屋上で、壁面に背を向けて並んで座り込んでいる。
「遅くなって悪かった」
やっと涙が止まったけど、私はまだみっともなくしゃくり上げていて、頭の上に置かれた侑さんの大きな手がなだめるように弾んでいる。状況も顧みずに泣いてしまった自分が恥ずかしい。でも、侑さんの広い胸が優し過ぎた。絶対的に信じてくれる人がいるということが、こんなに嬉しいことだと思わなかった。
「メインコンピュータのカルテは厳重に管理されている。医師同士でも担当外のカルテにはアクセス出来ない。それを打ち破ってるんだから相当高度なコンピュータスキルを持ってる奴の仕業だ」
侑さんの声が静かに響く。
無実を信じてもらえて何よりなんだけど、要するに、お前にそんなスキルはないと断定されている。…ような気もしないでもない。いや、まあ、事実その通りなんだけど。
「患者を狙った犯行に内部の人間が手を貸した。スタッフルームのパソコンに時限ウイルスを仕込んだ可能性が高いと思う。ふざけやがって、俺の病院でそんな勝手をさせてたまるか。絶対に犯人を捕まえる」
隣をそっと伺い見ると、侑さんが相当な怒りを静かに燻らせているのが分かった。
「時限ウイルス、…」
つまり。
スタッフルームのパソコンで私がデータ入力した時間帯に、同じパソコンからカルテの改ざんが行われた訳だけど、実際にはもっと前に改ざんのウイルスが仕込まれていた、ってこと?
「医師が患者のカルテを記入したのは、昨日。それ以降、あのパソコンを使ったのは、医療チームのチーフ繁田智花と研修のお前、そして、…」
侑さんは言葉を切って少し痛そうに顔を歪めた。
スタッフルームの状況を思い返してみる。あのパソコンは通常繁田チーフにアクセス権限があり、今回のインターンシップで私とセレナが研修のために触らせてもらっている。
普通に考えれば、仕込んだのは私かチーフか、…セレナ?
頭から冷水を浴びせられたような。心臓が冷たい手に搾り取られたような。嫌な悪寒が背筋を登った。
「セレナはそんなこと、…」
するはずがない、と言いかけて言葉を飲んだ。侑さんの表情は凍えるほど冷たく苦悩に満ちて見えた。
恐らく、侑さんは犯人に心当たりがあって、それは疑うのが辛い人なんだ。
データ改ざんの疑いをかけられた件について、侑さんはたった一言で切り捨てた。侑さんと二人、暮れがかった屋上で、壁面に背を向けて並んで座り込んでいる。
「遅くなって悪かった」
やっと涙が止まったけど、私はまだみっともなくしゃくり上げていて、頭の上に置かれた侑さんの大きな手がなだめるように弾んでいる。状況も顧みずに泣いてしまった自分が恥ずかしい。でも、侑さんの広い胸が優し過ぎた。絶対的に信じてくれる人がいるということが、こんなに嬉しいことだと思わなかった。
「メインコンピュータのカルテは厳重に管理されている。医師同士でも担当外のカルテにはアクセス出来ない。それを打ち破ってるんだから相当高度なコンピュータスキルを持ってる奴の仕業だ」
侑さんの声が静かに響く。
無実を信じてもらえて何よりなんだけど、要するに、お前にそんなスキルはないと断定されている。…ような気もしないでもない。いや、まあ、事実その通りなんだけど。
「患者を狙った犯行に内部の人間が手を貸した。スタッフルームのパソコンに時限ウイルスを仕込んだ可能性が高いと思う。ふざけやがって、俺の病院でそんな勝手をさせてたまるか。絶対に犯人を捕まえる」
隣をそっと伺い見ると、侑さんが相当な怒りを静かに燻らせているのが分かった。
「時限ウイルス、…」
つまり。
スタッフルームのパソコンで私がデータ入力した時間帯に、同じパソコンからカルテの改ざんが行われた訳だけど、実際にはもっと前に改ざんのウイルスが仕込まれていた、ってこと?
「医師が患者のカルテを記入したのは、昨日。それ以降、あのパソコンを使ったのは、医療チームのチーフ繁田智花と研修のお前、そして、…」
侑さんは言葉を切って少し痛そうに顔を歪めた。
スタッフルームの状況を思い返してみる。あのパソコンは通常繁田チーフにアクセス権限があり、今回のインターンシップで私とセレナが研修のために触らせてもらっている。
普通に考えれば、仕込んだのは私かチーフか、…セレナ?
頭から冷水を浴びせられたような。心臓が冷たい手に搾り取られたような。嫌な悪寒が背筋を登った。
「セレナはそんなこと、…」
するはずがない、と言いかけて言葉を飲んだ。侑さんの表情は凍えるほど冷たく苦悩に満ちて見えた。
恐らく、侑さんは犯人に心当たりがあって、それは疑うのが辛い人なんだ。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
47
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる