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4章. 別離エンプティネス
15.
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「なあ、いちょう切りってなに?」
「それを言うなら、ささがきこそ謎」
現代社会でご活躍されているバリバリのアラサー社会人2名と共に、なぜかすいとん作りにチャレンジすることになった。侑さんのキッチンは、すりこぎからマルチブレンダー、土鍋まであらゆる調理器具が揃っていて、様々な料理に挑戦できる快適空間といえた。
…でも。
『俺の指はメスを握るためにある』
料理しないなら、これは宝の持ち腐れ? それとも誰か、料理してくれる人が、いる、とか…
「お前それ、細すぎないか」
「あんたこそ、太くね?」
余計な思考は隣同士で仲良く包丁を動かしている侑さんと創くんに遮られた。
人参、大根、椎茸、白菜、ごぼう、えのき、長ネギ、里芋、…
メスを操る華麗な指と、ピアノを奏でる繊細な指が、色鮮やかな新鮮野菜を巧みに切り刻んでいく。
この調理過程の音が好きだ。
お湯が沸く音、包丁で刻む音、食材が柔らかく煮えていく音。
そして、空気。
湯気が立って、匂いが漂って、頃合いを見計らい、味見をしたり無駄話をしたりしながら出来上がりを待つ空気。美味しいものを期待して、待ち遠しくて、心が躍る、楽しみ直前のわくわくする空気。
母校の調理部講師を後輩に譲り、クッキングサークルもあまり行けなくなってしまったから、和気あいあいと調理する機会が最近減ってしまっていた。
「すげえな、小麦粉がもちもちしてる」
「粉と塩と水だけで麺になるってミラクル、…」
だから。
すごく嬉しくて、張り切って、
「いや。もっとしっかり、力入れてこねて下さい‼」「それちょっと水入れ過ぎですっ」「あああ~~~、吹きこぼれてる―――っ‼」
大騒ぎしてしまった。
「…こえー」「オニ監督」
久しぶりに笑うことが出来て、ななせに牛すじ味噌煮込みそばを作ってあげたかったこととか、新作MVでメンバーと楽しそうに調理するななせを見て羨ましかったこととかを、思い出したけど、心の奥にしまっておけた。
「いただきまーすっ」「かんぱーい」
出来立て熱々のすいとんは美味しくて優しい味がした。やっぱり私は恵まれている。セレナに恨まれても仕方ないくらい、幸運なんだと思う。多分、侑さんは、一緒に作って食べるためにメニューをすいとんにして、創くんを呼んでくれた。御堂味噌の味がよく染みた里芋を頬張ったら、その可能性に思い当たって胸がいっぱいになった。
「…よく噛めよ」
頭に優しい重みを感じて隣を見ると、缶ビールを傾けながら私の頭を撫でる侑さんの視線とぶつかった。無防備に緩んだ目線と微かに動いた喉ぼとけが目の端に映って、なんだか急に、妙な緊張感に包まれて、思わず目の前のビールを一気飲みしてしまった。
「おい、…」
ここ最近の激動生活。からの、久々なアルコール摂取。
のためか、急激に酔いが回り、目が回って、
「…つぼみ?」
酒は飲んでも飲まれるな。気を付けよう。美味しいお酒と高級布団。
って、誓ったのはいつだったっけ、…と思いながら。
…飲まれてしまった。
「それを言うなら、ささがきこそ謎」
現代社会でご活躍されているバリバリのアラサー社会人2名と共に、なぜかすいとん作りにチャレンジすることになった。侑さんのキッチンは、すりこぎからマルチブレンダー、土鍋まであらゆる調理器具が揃っていて、様々な料理に挑戦できる快適空間といえた。
…でも。
『俺の指はメスを握るためにある』
料理しないなら、これは宝の持ち腐れ? それとも誰か、料理してくれる人が、いる、とか…
「お前それ、細すぎないか」
「あんたこそ、太くね?」
余計な思考は隣同士で仲良く包丁を動かしている侑さんと創くんに遮られた。
人参、大根、椎茸、白菜、ごぼう、えのき、長ネギ、里芋、…
メスを操る華麗な指と、ピアノを奏でる繊細な指が、色鮮やかな新鮮野菜を巧みに切り刻んでいく。
この調理過程の音が好きだ。
お湯が沸く音、包丁で刻む音、食材が柔らかく煮えていく音。
そして、空気。
湯気が立って、匂いが漂って、頃合いを見計らい、味見をしたり無駄話をしたりしながら出来上がりを待つ空気。美味しいものを期待して、待ち遠しくて、心が躍る、楽しみ直前のわくわくする空気。
母校の調理部講師を後輩に譲り、クッキングサークルもあまり行けなくなってしまったから、和気あいあいと調理する機会が最近減ってしまっていた。
「すげえな、小麦粉がもちもちしてる」
「粉と塩と水だけで麺になるってミラクル、…」
だから。
すごく嬉しくて、張り切って、
「いや。もっとしっかり、力入れてこねて下さい‼」「それちょっと水入れ過ぎですっ」「あああ~~~、吹きこぼれてる―――っ‼」
大騒ぎしてしまった。
「…こえー」「オニ監督」
久しぶりに笑うことが出来て、ななせに牛すじ味噌煮込みそばを作ってあげたかったこととか、新作MVでメンバーと楽しそうに調理するななせを見て羨ましかったこととかを、思い出したけど、心の奥にしまっておけた。
「いただきまーすっ」「かんぱーい」
出来立て熱々のすいとんは美味しくて優しい味がした。やっぱり私は恵まれている。セレナに恨まれても仕方ないくらい、幸運なんだと思う。多分、侑さんは、一緒に作って食べるためにメニューをすいとんにして、創くんを呼んでくれた。御堂味噌の味がよく染みた里芋を頬張ったら、その可能性に思い当たって胸がいっぱいになった。
「…よく噛めよ」
頭に優しい重みを感じて隣を見ると、缶ビールを傾けながら私の頭を撫でる侑さんの視線とぶつかった。無防備に緩んだ目線と微かに動いた喉ぼとけが目の端に映って、なんだか急に、妙な緊張感に包まれて、思わず目の前のビールを一気飲みしてしまった。
「おい、…」
ここ最近の激動生活。からの、久々なアルコール摂取。
のためか、急激に酔いが回り、目が回って、
「…つぼみ?」
酒は飲んでも飲まれるな。気を付けよう。美味しいお酒と高級布団。
って、誓ったのはいつだったっけ、…と思いながら。
…飲まれてしまった。
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