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6章.回道プレイスホーム

01.

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私が帰るところ。

『お前が帰るとこは、ここだろ』

ななせが触れた腕から温もりが浸透して身体中を巡る。ななせの澄んだ瞳には私だけが映っている。

ななせ。
あんなにひどい言葉を投げつけてななせを傷つけたのに、まだその目に私を映してくれている。まだその手で私に触れてくれている。

帰ってきてもいい、って、言われたような、幸せな勘違いをしそうになる。

世界中に懺悔して回りたい気分になった。

何でもします。どんな罰も受けます。ごめんなさい。ごめんなさい。
もう一度。ななせの元に帰りたいです。

「…つーちゃん、婚約者さんがいるんだよね。その人が待ってるんじゃない? ね?」

オリビアちゃんがやんわりと私の腕をつかむななせの手を引いた。ななせは私の腕から手を離し、オリビアちゃんの手も振り払うと、

「お前がそれで納得するなら待ってやろうと思ってたけど、…」

その手で、長い指先で、私の頬の1ミリ外側を撫でた。
多分、ちょうど、火傷したあたり。

「お前、嘘つくの下手過ぎる、…」

ななせの甘くかすれた声が私の心をつかむ。ななせが撫でた外側の空気が頬を優しく包む。それだけで何もかもが癒される。

ななせに見つめられたら目を逸らせない。ななせに触れられたら溢れ出す気持ちを止められない。

ななせが好き。どうしても。ななせが好き。

「…そんな顔されたら俺だって待てなくなる」

コツンと。
軽く握りしめた手でななせに頭を小突かれた。

「な、…」

ヤバい。
それでようやく現実に立ち返った。

なに。ななせ。何て、…?
え。私、今、何考えてた?

「ナナっ、無理強いしてるの、ナナじゃん! お姉さんには婚約者さんがいるんだから…‼︎」

オリビアちゃんが、再びななせの手を引いた。けど、ななせはそれには応えず、心の底まで照らし出すような瞳で私を見つめているので、

「あ、…じゃあ、あの。また、…」

動揺したままリビングを逃げ出した。
ななせの顔を見れない。私は嘘ばかり。自分の気持ちさえも貫き通せない。世界一自分勝手な最低野郎だ。

「つぼみ、…」

ドア口までななせの声が追いかけてきて、足を止めた。

「早く連絡しろよ。じゃないと俺、気が変わっちゃうかもよ?」

振り返ったら、少し意地悪な顔で緩やかに口角を上げているななせが見えた。

早く。早く、…
気が変わっちゃうって何?

無駄に目を瞬かせながら、全然回らない頭を無理矢理追い立てて、

あ。穂積さん。

そもそもここに来た目的をどうにか思い出した。

「すぐ、に、…連絡するっ」

答えた声が弾んでいなかったことを祈る。

逃げるように玄関ドアを出て、その場にへたり込んだ。

もう。私は愚か過ぎて救いようがない。ななせに連絡出来ることが死ぬほど嬉しい。
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