ひきこもぐりん

まつぼっくり

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翼ハグをください

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「そういうわけで、晴れて相思相愛のつがいになりましたので。」

「はいはいはいはい、おめっとさん。」

 この流れは二度目。隊長は返事も投げやり。
 僕はそっとジズの羽を捲って、降りるアピールをして隊長に向き合う。

「ジズの事、幸せにするね。」

 だから隊長も幸せにおなり。良い受けになってね。アイ君にはガチムチ上司を組み敷く大型わんこ系部下の漫画貸しておいたからね。…無理矢理組み敷いて体に快感を覚えさせてから本気出すタイプのお話だけど…隊長なら出来ると信じてる。

「おー、お前がいるだけでこいつは幸せだろ。ジズお前は…ちゃんとリューとつがうなら父上たちにも挨拶しないとだなぁ…」

「はぁ、それはどうでも良いのですが…」

「どうでも良くねぇだろ。」

「この騎士団の寮は単身者向けなので、どうしようかと。リューの言う、漫喫?とやらを造りたいので王都でやるか、このまま辺境でやるか…そもそも移動が心配ですし。」

「俺の領地やろうか?」

「管理が面倒なのでいりません。辺境だと客層も限られるでしょうし…かといって王都ではシャルのような気の置けない者と離れてしまいますし…」

「あー、まぁな。ってかお前はどうするんだ?」

「王都に行くなら第一騎士団か近衛に移動か…そもそもここへは隊長に合わせて付いて来ただけですし、文官か何かしますかねぇ。」

「…兄上の護衛騎士何てどうだ?」

「命がいくつあっても足りなそうなので嫌です。何故愛するリューがいるのに態々危険な仕事をしないといけないんですか。」

「…だよなぁ。」

 ぽんぽんと飛び交う会話を驚きながら聞く。
 ジズは漫喫を作ってくれようとしているのか…えええ…すごい…ジズすごい。

「僕、頑張ってジズの事養うよ!」

 エロ本で世界は救えないかもだけど、僕とジズの食い扶持は稼げるかもしれない…!がんばれるかもしれない…!
 意気揚々と告げれば二人ともきょとん顔。その後隊長は爆笑。むぅ、なんだよぉ。がんばるもん…!たくさん描くもん…!

「ふふ、ふは!もう、可愛いです。ありがとうございます。私が一文無しになって路頭に迷っても一緒に居てくれますか?」

「いるよ!外で似顔絵描いて売ってでも僕が養うよ…!これでも男だからね…!」

「ぶはは!うけるな!」

 隊長はゲラゲラ笑ってる。なんだよぉ…なんだよもぉ…

「はぁ、笑い過ぎて腹いてぇ。ジズの外面と資産に惹かれて、落とそうと必死になる奴ははいて捨てるほど居たが、養おうとする奴は初めてだな。」

「愛おし過ぎます。」

「リュー、あのな、こいつこんなとこに居るけどこの国の六番目の王子だから。三番目以下はスペアにもならんし、割と自由にしているが資産も領地も困らん程度にはある。だから、まぁ、王族がどうにかなる以外は路頭に迷うことはない。父上も兄上も立派に国を治めているからな!」

「………」

 べったべたなベタな流れじゃん…もはやテンプレ…王族とか知ってる…召喚とか転移とかしたあとは王族と出会うよね…やっぱり。王子に求婚されるよね…やっぱり。運命感じちゃうよね…やっぱり。あーもー!!壁になって眺めたい。このベタな展開を壁になってただただ眺めていたい。王子様みたいにキラキラしてると思ってたけど、本当に王子様だった。え…いいの?王子様の相手がエロ本作家でいいの?びーえるだけど、いいの?

「たいちょーは?」

「俺?俺は5番目。王宮は堅苦しくてこっち来たらジズまで付いてきて、居心地良くてこのままここに居たい所存。」

「…なるほど。良いの?」

 そんなに適当で良いの…?もっと…こう…厳しいんじゃないの?

「いーいー。俺とジズの母親は高位貴族でもねぇし、父上や兄弟たちとの仲も良好。ジズは母親の姓を名乗ってるくらいだしな。」

「……言ってよ!」

「すみません、面倒な生まれなだけですし、リューが肩書きで釣られてくれるとも思わなかったので。」

「うっかりエロ漫画家になっちゃったじゃん!しかもびーえる!」

 王子様の相手が引きこもりびーえる漫画家は許して貰えないでしょ!

「うわぁ…ぜったい寄生ニートのがマシだった…」

 ううう、もうジズといられないかもしれない…せっかく好きって言ったのに。う、うわぁん。あれこれもベタな感じでいきます?手切れ金ちらつかされて、お断りして姿消します?うーん、なし!姿消す系は好きじゃないんだってぇ…いなくなった後の攻めが不憫過ぎる…ハッピーエンドなら、まぁ良いけどさ。でも可哀想だよね…勝手にいなくなる系はだめだよね…ってか無理だと思う。

「僕、もうジズの翼ハグがないと眠れないのに…」

「……何だこの可愛い生き物。意味はわからねぇけど。」

「見ないで貰えます?…ほら、リューも涙を拭いてください。隊長になんて泣き顔を見せないで?」

「つ…翼ハグ、ください。」

「はい、どうぞ。」

 バサリと途端に真っ暗。真っ暗で暖かい。ジズの胸に涙を押し付けてめそめそ。

「ぼく、かってには、いなくならないからね…」

「それは当たり前です。宣言していなくなるのも、止めてくださいね。」



「何か勘違いしてるけど、リュートは辺境騎士団の事務員て事にしてあるぞ。お前の本、ギルドに持ち込んでるのはアイだし顔バレしてねぇだろ。」

「…え?」

「ジズが暫くはリュートの事を徹底的に隠したいと言っていたからな。新しい事務員として登録しといた。」

「……隠したい?」

 隠したいと思うようなつがいだという事でしょうか?

「勿論、異世界から来たと知ったら自分が召喚したと言い出す糞共が湧き出て来そうだからです。何度も言いますが、こんなに可愛いのだから自覚してくださいね?」

「ふは!そんなこと言うの家族とジズくらいだよ。」


 苦労するなってジズの肩を叩く隊長。おいこら、こっち見てため息つかないで…!

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