夢の世界とアガーレール! 第二部 ―青空かすむ怠惰の魔女―

Haika(ハイカ)

文字の大きさ
30 / 36
第二部 ―青空かすむ怠惰の魔女―

ep.30 Packaged Reboot 1.0

しおりを挟む
 僕達が先のスマホの件で、束の間の談笑に和んでいるその頃。
 当のアゲハはというと、王宮にて和室にいるマニーと、覇気のない表情で向かい合って座っていた。
 その横では、ヒナが2人分のお茶を淹れている。

「自分を倒すこと―― それが、彼女の求めていた『救い』だった。吸血鬼として生きる彼女のことだから、そんな『救い』もあるのだろうと、予想はしていたけど…」

 あの暗黒城での失態を引きずり、落ち込んでいるアゲハを、マニーが静かに見つめる。
 お茶を淹れ終えたヒナも、なんだか悲しげだ。

「私は、相手の手札を見誤った。失踪事件の激減もブラフで、実際は彼女の慈悲深さが招いた別件被害者の間引きであり、それらを自らの養分としてためていた・・・・・。だからあんなに余裕だったんだ… 護衛に来てくれたアキラ達には、申し訳ない事をしたと思っている」

「…そういうのは、考えたくもないが、実際に白黒ついた時に本人達に直接謝るべき事だろう。今はまだ、完全に負けが決まったわけじゃない。それに」

「?」

「『無駄な争いをしたくない』という理由で、未開の地を後回しにしてきた結果、本来なら早く見つかるはずのクリスタルも見つけられなかった。これは、相手の勢力を甘く見ていた俺にも責任がある。もちろん、今でも十分な勢力とは言えないけど、皆諦めずに『次こそ戦いに勝つ』と意気込んでいるんだ。
 次の暗黒城出陣は、俺が参戦するよ。あの襲撃の日、皆を守るために必死に戦った時の感覚を忘れたくない」

 そういって、マニーが自身の両手の平を掲げながら、しかめっ面で視線を下ろした。
 アゲハが更に歯痒そうな表情を浮かべる。

 すると見かねたのだろう、ヒナがスッと立ち上がった。

「アゲハさんも、本当はもう一度、暗黒城に出陣したいんじゃない? ケリをつける為に」
「え… 今の私に、そんな信用なんて」
 と、もう完全に自信を喪失している。ヒナは天を仰いだ。

「もう~。言い出しっぺで上手くいかなかったからって、アゲハさんが自分を責める事はないでしょ。今日まで国の為に頑張ってきたことは、周りを見れば一目瞭然なのだから。誰にだって失敗はあるんだし、今回を糧に次へ活かせばいいよ」
「あぁ、俺もヒナの意見に賛成だ。アゲハ。今は君主としてではなく、1人の人間として、自分がどうしたいのかをハッキリさせた方がいい。もっと俺達に頼ったっていいんだよ」
「っ…」

 スーッ
「失礼する。キャミとノアからの報告だ」

 と、ここで国内のパトロールをしているマイキがふすまを開けてきた。
 彼女の耳には、あの有名なリンゴ社にありそうな白いワイヤレスイヤホンが嵌められている。ケモ耳用のパッキンで固定されているが、もちろん人間用もあるので心配無用。

「たった今テストプレイが終了し、Packagedパッケージ Rebootリブートが正式にローンチした。チュートリアルを兼ねて私達全員が装着し、感覚を覚えしだい、暗黒城への再突入準備だ」
「了解。にしても早いな、もうパッケージが完成したのか」
「ねー、本当に仕事が早くてビックリ! アゲハさんも一緒に行こう。元気だそうよ」

 と、ヒナがアゲハを励ます。
 今は落ち込んでいたって仕方がないのだから、まずは皆の所へ顔を出し、発明品に触れていく事が先である。ぼんやりとした視線だが、ここはアゲハも静かに立ち上がった。



 ――――――――――



 冒険者ギルド内にて、上界にいる人達を除き、今日まで解放された仲間全員が集合した。
 みんなの手には、かつて夢の世界で使ってきたものと酷似した、白いイヤホンが配られている。そしてその集まりの中央に、方舟の形をした50cm四方の機械が置かれていた。
 ベージュ基調の、稼働用の歯車や緩衝材かんしょうざい代わりの羽毛が取り入れられた、ちょっぴりスチームパンクなデザインだ。そう、「パッケージ」の完成である。

「これが、これから皆が使っていくものの母機だ。魔法を自分達のオブジェクトフラワーに変換する機能も備えてある。これだけあれば、次こそ暗黒城攻略に貢献できるだろう」
「この発明品の存在は暫くの間、俺達だけの秘密にしたい。敵に仕組みを知られては、元も子もないからだ。失くしたらすぐに報告、もしイヤホンの存在を先住民に訊かれても『音楽鑑賞用だ』といって通してくれ」

 僕達はノアとキャミ、それぞれの説明をしかと聞き入れ、イヤホンを耳に嵌めた。
 中には装着後、すぐに仲間同士試し打ちで効果のほどを確認したり、心の声で会話をしたりしたものだ。僕も例外ではない。

 ――この感覚、懐かしいな。無言で犯人捜しをしていた頃を思い出すよ。これで、次こそ…

 僕は心の中で、そう意気込みを語った。
 その声をイヤホン越しで聞いたみんなが、コクリと頷く。


 やがて1人の声掛けから、みんなが輪になって集まり、円陣を組んだ。
 囚われた仲間を解放し、敵に好き勝手させないためにも、僕達は誓ったのだ。

 もう、今までの自分達とは違うと。もう、敵の数の暴力に怯えるだけの集まりではないと。


「俺達で必ず暗黒城を攻略し、シアンを解放するぞ!」
「「「おー!!!」」」



 ――――――――――



 そして、時は夜。人々が家で過ごし、寝静まる頃。

 不気味な程に暗い暗黒城では、今日もチアノーゼが静かにソファで寛いでいた。
 まるで、先の大乱闘なんてなかったかのよう。


「チアノーゼ様。総統代理から伝言を預かりました」

 そんな中、外へ出向いていた手下の悪魔が部屋に入室し、跪く。
 チアノーゼは「なんて?」ときいた。

「『もうじき休暇が明ける。先日、あの蛮族が城で暴れたとの情報を耳にしたが、必要であれば国ごと排除に踏み切ろう。どうしたい?』との仰せです」

「ふん。そこまでしなくていいわ。放っておけば、いずれ私達に屈服する」

「承知致しました。では、どの様なお返事を?」

「『首脳会談でお茶をした』とだけ伝えて。大丈夫。もしまた次にあのような事があれば、その時は、そんなお茶会トモダチ・・・・・・・からの“裏切り”に遭ったと上に報告する」

 悪魔は「ハッ」と返事をし、すぐに部屋を去っていった。
 休暇とは、かのモデル業のことだろう。もうじきフェブシティへ戻る頃合いか。



 こうして再び、チアノーゼは1人になった。


「女王も、自分というガラスが割れる前に、大人しく従うが賢明だと思い知ったようね。割れたガラスは、元には戻らない。ただ、人を傷つけるだけの『凶器』と化す。そんなものを振り回されても、迷惑でしかない。
 だから、ゴミはさっさとゴミ箱へ。育ちの悪い芽は間引いて、潰して――

 それが、生きとし生ける者達の『運命』なのよ」


 その余裕は一体、いつまで続くのだろう?

 なんて、前まで彼女自身が言っていた台詞を、今度は僕達が言う番である。
 まさかそうやって裏で準備が進められているとも知らず、呑気に夜空を眺めていた。が…


 ドーン!!
「! …なに!?」

 城の一角から、とてつもない爆音が鳴り響いた。
 チアノーゼはすぐに立ちあがり、バルコニーへと飛び出す。すると城の外壁の一部が破壊され、そこから煙が上がっていたのだ。

「あなた達は…!」

 チアノーゼは城の入口となる石橋へと睨んだ。
 そこには、前回以上に武装した僕達が、アゲハを先頭に立ちはだかっていたのである。

 この時のアゲハはもう、今朝までの落ちこぼれ女王の顔ではない。彼女は叫んだ。


「約束通り、チャームを返してもらおう! それが『救い』だというのなら、受けて立とうではないか!」



 【クリスタルの魂を全解放まで、残り 13 個】



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

追放料理人とJKの異世界グルメ無双珍道中〜ネットスーパーは最強です〜

音無響一
ファンタジー
わーい、異世界来ちゃった! スキルスキル〜何かな何かな〜 ネットスーパー……? これチートでしょ!? 当たりだよね!? なになに…… 注文できるのは、食材と調味料だけ? 完成品は? カップ麺は? え、私料理できないんだけど。 ──詰みじゃん。 と思ったら、追放された料理人に拾われました。 素材しか買えない転移JK 追放された料理人 完成品ゼロ 便利アイテムなし あるのは、調味料。 焼くだけなのに泣く。 塩で革命。 ソースで敗北。 そしてなぜかペンギンもいる。 今日も異世界で、 調味料無双しちゃいます!

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

【大賞・完結】地味スキル《お片付け》は最強です!社畜OL、異世界でうっかり国を改革しちゃったら、騎士団長と皇帝陛下に溺愛されてるんですが!?

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞で大賞をいただきました】→【規約変更で書籍化&コミカライズ「確約」は取り消しになりました。】 佐藤美佳子(サトウ・ミカコ)、享年28歳。死因は、過労。連日の徹夜と休日出勤の果てに、ブラック企業のオフィスで静かに息を引き取った彼女が次に目覚めたのは、剣と魔法のファンタジー世界だった。 新たな生を受けたのは、田舎のしがない貧乏貴族の娘、ミカ・アシュフィールド、16歳。神様がくれた転生特典は、なんと《完璧なる整理整頓》という、とんでもなく地味なスキルだった。 「せめて回復魔法とかが良かった……」 戦闘にも生産にも役立たないスキルに落胆し、今度こそは静かに、穏やかに生きたいと願うミカ。しかし、そんな彼女のささやかな望みは、王家からの突然の徴収命令によって打ち砕かれる。 「特殊技能持ちは、王宮へ出仕せよ」 家族を守るため、どうせ役立たずと追い返されるだろうと高をくくって王都へ向かったミカに与えられた任務は、あまりにも無謀なものだった。 「この『開かずの倉庫』を、整理せよ」 そこは、数百年分の備品や資材が山と積まれ、あまりの混沌ぶりに探検隊が遭難したとまで噂される、王家最大の禁足地。 絶望的な光景を前に、ミカが覚悟を決めてスキルを発動した瞬間――世界は、彼女の「お片付け」が持つ真の力に震撼することになる。 これは、地味スキルでうっかり国のすべてを最適化してしまった元社畜令嬢が、カタブツな騎士団長や有能すぎる皇帝陛下にその価値を見出され、なぜか過保護に甘やかされてしまう、お仕事改革ファンタジー。

異世界召喚されたけどスキルが地味だったので、現代知識とアイテムボックスで絶品料理を作ったら大商会になっちゃいました

黒崎隼人
ファンタジー
手違いで剣も魔法もない異世界に召喚された、しがない日本のサラリーマン、湊カイリ。 彼に与えられたのは、無限に物が入る【アイテムボックス】と、物の名前が分かる【鑑定】という、あまりにも地味な二つのスキルだけだった。 戦闘能力は皆無。途方に暮れるカイリだったが、異世界の食事が絶望的に不味いことを知り、大きなチャンスに気づく。 現代日本の「当たり前」の知識は、この世界ではとんでもない「宝」なのだと! 「醤油?味噌?そんなものがあれば、この世界の食文化はひっくり返るぞ!」 ひょんなことから出会った没落貴族の美少女・リリアナと共に、カイリは現代知識と地味スキルを駆使して屋台から商売をスタート。 絶品料理で人々の胃袋を掴み、さらには便利な生活用品を次々と発明していく。 伝説の神獣の幼体「フェン」やドワーフの鍛冶師など、頼れる仲間たちも加わり、彼らが立ち上げた「サンライズ商会」は瞬く間に大躍進! 迫り来る悪徳商会や腐敗した貴族の妨害も、現代のマーケティング術と知恵で痛快に打ち破る! これは、平凡なサラリーマンが異世界の常識を覆し、食と生活に革命を起こして一代で大商会を築き上げる、痛快成り上がりファンタジー! 美味しい料理と、もふもふな相棒、そして仲間との絆。 人生、逆転できないことなんて何もない!

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

家ごと異世界転移〜異世界来ちゃったけど快適に暮らします〜

奥野細道
ファンタジー
都内の2LDKマンションで暮らす30代独身の会社員、田中健太はある夜突然家ごと広大な森と異世界の空が広がるファンタジー世界へと転移してしまう。 パニックに陥りながらも、彼は自身の平凡なマンションが異世界においてとんでもないチート能力を発揮することを発見する。冷蔵庫は地球上のあらゆる食材を無限に生成し、最高の鮮度を保つ「無限の食料庫」となり、リビングのテレビは異世界の情報をリアルタイムで受信・翻訳する「異世界情報端末」として機能。さらに、お風呂の湯はどんな傷も癒す「万能治癒の湯」となり、ベランダは瞬時に植物を成長させる「魔力活性化菜園」に。 健太はこれらの能力を駆使して、食料や情報を確保し、異世界の人たちを助けながら安全な拠点を築いていく。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

処理中です...