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第一部―カナリアイエローの下剋上―

ep.20 宝箱? チャーム以外興味ないっす!

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 ところで、もう夜が明けそうだな。


 この世界の時の流れは、とても早い。
 現実の地球基準でいうと、ここの1日は現実の20分だ。体内時計混乱不可避。

 さて、そんな日の出が迫っているとなると、問題がほかヒト型の種族たちである。

 「あらやだ! もう帰らないと!!」
 「陛下! 我々はお先に失礼します!!」
 と、ドワーフ族は急いで建築資材を置き、すたすたと森の奥へ走り去っていった。

 「あらぁ、もう夜明けね。結局今日もオールして、今から農作業だわぁ」
 「まぁいいだろぉ~。ヒック、ソースラビットたちのエサやりの時間だぞぅ~」
 と、ハーフリングは少し酔っ払いながらも、手にくわや種をもって平地へと歩いていった。

 そう。彼らは陽が昇ると、ともに大人しく元いた場所へ戻る所が、共通しているのだ。



 こうして、この噴水前に残ったのは僕たち、人間の5人。
 サリイシュの2人は先に帰宅しているので、今いるのは異世界人だけである。

 「さて。この後の予定だけど、アキラいけるよね? 海での探索」

 早朝。アゲハは何を思ってか、ここで気を引き締め、東の方角へと歩いた。

 「うん。確か『土に埋まっていたなら、海中にも沈んでいるだろう』理論。だっけ?」

 と、僕は思い出した表情でアゲハの後を追う。アゲハは頷いた。
 「そう。リリーにとっては不謹慎な案になるけど、先の前例をみてしまった以上、もうどこにチャームが転がっていたっておかしくない。かつ、この星には昔から多くの文献や、宝物の地図が存在していて、今回はその中の1つへ向かおうと考えている」

 「ふむ。つまり、これから海へ行って、クリスタルチャームがないか探るために潜ると」

 「そういうこと。先人が残してきた謎を解き、少しでもチャームの発見に繋がればいいなと思ってて… あれ? そういえばあの2人」

 と、ここでアゲハの目に留まったもの。
 それは、リリーとルカが会話をしている姿だ。だけど、何だか神妙な空気。

 特に、リリーの方が少し戸惑っている様子が見受けられた。

 少し離れているから、会話の声は聞こえないけど… ルカが、励ましを送っている?

 「誘おう」

 アゲハがそう提案し、リリー達の元へ歩いていった。

 …今は、深く考えたって仕方がない、という事か。
 僕はアゲハのエスコートに従い、気を取り持ったリリーとルカ同伴で、海へと向かった。



 ――――――――――



 海はとても穏やかで、美しく澄んだ青緑色をしていた。
 非常に透明度の高い、絶景のビーチだ。現実世界ほど文明が進んでいないアガーレールで、これだけゴミ一つない綺麗なビーチにお目にかかれるのだから、幸運である。
 ところで、

 「これだけ綺麗だから、誰かが海水浴や釣りをしていても、おかしくない気がするけど」

 僕は問う。するとアゲハの答えは、

 「『母神ははがみ様の逆鱗に触れるから』――と、先住民は昔から誰一人海に入ろうとしなかった。だから、この国には泳げる住民がいないんだ」

 である。
 こんなにキレイな海に、入らないなんてもったいない! なんて最初は思ったけど、もしかして水質的な問題があるのか?
 と思い、波に打ち付けられる海水に触れたが、特に現実のそれと変わらない様であった。

 普通に塩っぱいし、おかしな臭いもない。ちょっぴり磯臭さが漂うくらい。

 「よっと」
 ♪~
 アゲハがここで、広げた地図を持ったまま、背中に透過性のある蝶の翼を生やした。
 そして、助走をつける様に飛び立つと、その宝箱が沈んでいるらしい場所まで浮遊し、羽ばたいたまま僕へと手を振ったのであった。

 「ここだよ! ここまで泳いできてー! アキラが海に潜っている間に、私は近くに危険な魚が泳いでこないよう虹色蝶で誘導するから、今のうちに!」
 「…わかった!」

 僕は服を脱いだ。
 もちろん、パンツはちゃんと履いている。
 アゲハが蝶の羽根で浮遊している地点まで、泳ぐのに少し距離はあるけど、まぁ仕方がない。身長148cmの(胸以外は)小柄な女王様に、僕のような体重64kgの男を背負って沖合まで飛んで運ぶなんて、流石に無理があるからね。



 こうしてアゲハの真下、問題の沖までクロールで泳ぎ切ったところ。
 「はっ!」
 僕は心の中で呪文を唱え、目の前に5m四方の大きく棘々したガラス玉を生成した。

 このガラス玉は、いうなればリリーの黒百合ガラスを、テープボールのようにぐるぐる丸めて1つの巨大な球体にしたもの。
 ガラスは、水の2.5倍重い。
 だから、そいつの重さを利用して、僕もしがみ付いて一緒に底へ沈もうという寸法だ。

 ブクブクブク~

 すると僕の予想通り、大きなガラス玉は泡を立てながら、グングン底へ沈んでいった。
 僕も球の中の一房に掴まっているから、下へ引っ張られる様に下降していく。
 わざわざ海底まで泳いでエネルギーを消費するより、遥かに効率的な移動方法だ。

 ドーン…!

 ガラス玉は、すぐに海の底へと到着した。
 僕はすぐにそれらをフェードアウトさせ、早速宝箱がないかを探す。すると…

 ――あった!

 地図をみて、アゲハが予見していた通り、サンゴ礁の一角にその宝箱はあった。
 僕はそれを開けようと、泳ぎにいったが… あれ? その奥の、また別のサンゴ礁の中から、何かが光ってる?


 ――あれは、チャームじゃないか!!

 まさかの! 宝箱の中ではなく、その隣のサンゴに、目的のものが引っかかっていたのだ。
 チャームのロゴは、見た感じクラゲ… じゃなくてメンダコ。

 ということは!? このチャームの中の人は、人魚に変身できる“あの御方”か!



 ――よし! ここの宝探しの続きは、あとで解放した人魚ちゃんに任せようっと!
 ――てゆうか、これ以上潜ってると息が出来なくて死ぬー! 僕は先に離脱だぁー!!



 僕はすぐさまチャームを持って、心の中で“にんにん”を唱えた。

 海底の砂地から、大量の巨大カサブランカを魔法で発芽させる。
 それらを束にして掴み、根本を切って、僕もチャームも一気に浮上していった。
 植物に含まれている空気と、元々の比重の軽さを利用した、これまた効率的な移動方法。



 ザッバーン!!
 「ぶはぁ…!」

 無事、海面へと浮上できた。あ゛ー、生きてるって感じがする。
 アゲハが、空を飛んでいる真上からこちらを見ていた。

 「アキラおかえり! 収穫はあった?」
 「あったー! クリスタルチャーム、ったどー!!」
 「うそ!? 他に何か転がってなかった?」
 「宝箱があった!」
 「そうか。開けて中は確認してみた?」
 「そんな余裕ないから見てない!」
 「えぇ!?」

 なんてやりとりが海上で木霊しているが、一番欲しいものが手に入ったのだから、ヨシとしよう。
 僕はカサブランカをフェードアウトさせ、元のビーチへと泳いでいったのであった。

(つづく)



※2022年9月に作成された、StableDiffusion(AI)のイラストと、そのトレースリメイク。
 旧作「夢の世界でサーガライフ!」の文字列でAIに依頼した結果、出来上がった画像であり(左)、
 そこから今作「夢の世界とアガーレール!」執筆の切欠、およびサリイシュやソースラビット誕生の元となった(右)。
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