タケノコの里とキノコの山

たけ

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ニ章 

第三十九話 雰囲気が台無し

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 振り下ろされる剣に
 ハルは死を確信し
 眼の前にはあふれる血が映った

(ああ、死んだ…)

 だが、そうはいかなかった

「ーーーッ!?」

乾いた音と残響が残り

静まり返った空気が充満する


 後にいた仲間たちが、自分を庇っていたのだ





「うっっ…ぎゃあああああああああああああああああッ!!!」


 ハルを庇ったキノコ軍が悲鳴をあげる
 その悲鳴の先には、つながっていない右腕が宙を待っていたのだった


「……!!?」


そこから吹き出た血がハルたちの顔に降り注ぎ
腕は見るも無惨に地面に叩きつけられた


「ーーーほう?なかなか…良いものですね
 少し、傍観しましょうか」


「は…、は… 俺、救世主、だよなァ…」


「なっ……!なんでぇ…!」


 自分のせいで、仲間が負傷した。それも、二度と戻らない傷を負わされて


「なんでぇ!!!そんなこと!!!」


 ハルは涙目になり気持ちをぶつける
 その悲鳴を、名も知らない仲間は無い右腕を抑え、綺麗に受け止める

「お前とレイさんが来た時、本ッとうに安心した。なのにレイさんは来た道を戻ってお前が"ここは任せて、みんなは下がってて"なんていうからよぉ、もしかして、お前がアデルを倒せる計画があるのかと思ったよ」


「…………………」


「けど、違った」


「…………………」


「ーーーー全ッ!!!!然!!!!弱えじゃねぇか!!!!!!!!」


「……………う」

 先程の状態とは打って代わり、男が感情的に叫ぶ

 その通りだった。

 ここで活躍できると、思っていた

「………ごめん、俺、やっぱ全然……」


「俺が言うことはそういうことじゃねぇ、
 お前、レイさんの後継者候補なんだろ?ハルだろ?有名人になってるぜ、お前を見てるとさ……
 重い任務を任されたから、一人でやらなきゃとか、誰も死なせ無いとか、訳分からん重圧のなか仕事してるだろ?」


「………………まぁ…」


 何も言い返すことは出来ない
 全て図星であり、気にしていた事だった


「それじゃだめだ。"軍"の意味ねーだろ?
 俺はさ、全然戦えねぇけど、4級の中でも成績上位なんだぜ?なんでかっていうと……

 皆を、頼ってるから」


「……!」

そう、格好つけて言ったのだった



 ハルは気付く、自分は馬鹿だと、あまりにも、馬鹿だ、
 哀れで、孤独。恥ずべき人間。


 人は、弱い、一人で出来ることなど、ほとんどない。
 ソレが出来るのは、本当に優れた"本物"のみ

 自分はそんな人間ではない
 一人で抱え込んでいた。タケノコ軍2級に一人で勝てるわけなどなかった。
 自分がやらなくちゃいけないと、思い込んでいた




「…………腕!!!!ごめん!!」

「ああ、いいぜ、こんくらい、さっき死んじまった奴らの苦しみに比べりゃマシだ」

「………名前は?」


「シン」


「………シン、皆…俺と一緒に、戦ってくれ………っ!」


 ぞろぞろと足を震わせながら、それでも、自分の意思で、後に下がっていた仲間たちが
 歩き出す

「くそ…やってやるよ」
「皆で死んでやろう」

ここにいるキノコ軍は、死者を除き8名

別の地区からの増援は要請しない
被害を広げるのを抑えるためだ

 この人数でも皆、同じ気持ちなのだ。そして、
タケノコ軍に対抗せんとする気持ちも、同じ



「ーーもうすこし、もうすこし、で、レイさん達が来るはずだ。それまで、皆…」


パチパチパチパチパチパチパチ………

途端に拍手が鳴り響く

「素晴らしい…なんと素晴らしい……私はここに居る全てに、誇り高き死を与えたい……ッ
なんと…ッ!高貴…ッ!」

不気味な物言いに、皆が恐怖する
死が直前に迫っていることを、強く実感する感覚だった。


声の主はアデル。先程の会話は隙まみれだったが、あえて攻撃しなかったのだろう


「アデル!!」

ハルが叫ぶ


「ーーもう少しで、増援が来る。レイさんや、上級がお前を倒しに来る!!……逃げるなら、今のうちだ…!」


「なぜ私が逃げるのですか…?まだ戦力を十分に削れてない。その状態で帰るだと…?不死鳥様になんとおっしゃれば…ッ」

「ーー帰る意思は、ないんだな…」

「…ええ、強き者を狩りに来たのです。増援は大歓迎ですよ?」


「……くっそ…!」


その強き者たちが来るまで、戦うしか無い


「……いくぞ、皆…!」

疲労困憊した体を持ち上げ剣を構える、今こそ、リベンジが

始まらなかった



「その戦い!!ちょっと待ったぁぁぁぁぁっ!!」

「ん!?」


ドタドタと、足音が聞こえる。その先はアポロ村へレイが帰った道と同じだった

つまりは…

「雰囲気が台無し!!!」

シンが叫ぶ

呼んできた増援が、遂に来てくれたのだ

「おおい…この勇気の、意味っ…うぅ……」

一時的とはいえ恐怖が緩和されたシンに涙が浮かぶ、それにつられて周りも表情が緩み始める

ハルもつられかけた程だ

「レイさん…!皆…!」


「おいおい、何だこの惨状ォ!?」

パアワの一言にアデルが反応する


「クク…よくぞ来てくれました……これはあなた達が来たときのための特別なステージですよ。
大体?1年ぶりでしょうか?お会い出来て嬉しいです。」

「………アデル、お前は…」


不気味な物言いにイアンが冷たい目を向ける
その空気を切り裂くかのように、レイが叫ぶ

「アデル!相手が私達だけだと思うなよ!この状況…!逃げるなら今のうちだッ!」

「…やあやあ」

その言葉でドス黒く、そして透明なあの男が前に出る

アガレズである

(アガレズも来てくれたのか!)



「おっと…これはこれは……アポロ族……でしたでしょうか?お初にお目にかかります、私は…」



「…む、なぁんで俺達の事を知っているのかなぁ?
君とあった覚えなんてないんだけどねえ~?」



「ーーー失礼、つい先日、有識者からアポロ村の存在を聞いたところで、あまり詳しいことはわかっていませんよ」

 

「………有識者、ねぇ…?」


二人の会話にカイムが口を漏らす。
それにキクが反応した

「内通者的な感じか?」

「いや…そんなことってあり得るか?俺達にスパイが潜り込んでるとでも?」

「さぁ…」


「………まぁ、細かい事は剣を交えてからでも、宜しいでしょう?
私は今日、あなた達…上級を誰か一人殺し、撤退します。ヤミの仇、というやつですね」


「誰が死ぬかよ…ッ!私達はまだやらなくちゃいけないことが馬鹿みたいにあるんだよ!!
ハル!そっちの人達と後に下がってて!ここは一旦私達が引き受ける!」


「……っ!はい!!!(いやタイミングが悪い!)」


アデルを警戒しながらハルたちが村の影に身を隠す、このうちにシンの腕の止血でもして置かなければならない


「どうぞどうぞ。私もここをすこし荒らし過ぎました。ステージの整地くらいはあなた達に権利を与えなければ、対等じゃぁ、ありませんよね?

もちろん、ここで戦う間別の地区にタケノコ軍を送り込んでいるということも一切ないですよ、先程の通り、戦力を削りたいだけですからね。そこの心配はせず、じっくり、集中して戦いましょう」


そして、まるで勝を確信しているような舐めた態度でこちらに向かって歩き出した歩き出した


唯一の4級キク、カイムはかなり動揺しているが、強者が周りにいるので、他の4級より緊張は緩やかだった。

周りが戦闘態勢に入り 乾いた唇を濡らしながら
ジリジリと距離を詰め合う


その間も、アデルは不気味な笑みを絶やさない
まるでそうしなければ生きていけないのかというほど



「アデル………本当に、てめぇはキチガイだ。」

イアンは、そうこぼした








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