7 / 7
こちら御山ダンジョン管理局鑑定部生物部門調理班です
お疲れさま!
しおりを挟む
「今日はみんな頑張ったね!」
高橋がそう言うと、自然と拍手が沸き起こった。この場にいる全員を称える拍手だ。誰も彼もが達成感に満ちた顔をしていた。
夜がとっぷり更けた頃、調理班によるマジックベアの肉の仕込みはようやく完了した。ほとんどの肉が適切に処理を施されて食用に回せたという。肉は今後燻製や大和煮にして食堂のメニューとして提供されるそうだ。また、食堂の夜の営業も──エルは皿洗いに従事していただけであったが──今回の騒ぎでかえって来客が少なく大きな問題も起こらなかったと鈴木が教えてくれた。
「それじゃあご褒美だ。みんなこれを持って帰りなさい」
そう言って高橋が掲げたものを見て皆が歓声を上げる。エルは目を凝らした。何かの包みだ。高橋の手にすっぽりと収まるくらいに小さい。
「鈴木先輩、あれは?」
「マジックベアの燻製だよ!」
彼女もまた大興奮だ。
「いつも魔物の肉が入ると切れ端を燻製にしてみんなで分けて食べるの。燻製ってやり方の種類がいくつかあって、大きいお肉は日持ちがするようにって時間をかけて乾燥させるんだ。でもどうしても形整えたりすると切れ端が出ちゃうから、そういうのはぱぱっと味付けてぱぱっと燻製しちゃうの。水分抜けきってないから今日中に食べなきゃダメなんだけど、すっごく美味しいだよ!」
鈴木がうっとりと目を細める。その間にも小さな袋がどんどん配られていった。なんの飾り気もないビニール袋であるが、誰も彼もが嬉しそうに大事そうに受け取っていた。中にはすぐに袋を開けて食べている者もいる。エルも真似して袋を開けてみた。入っていたのは確かに小さな肉片で、あのおぞましい色は今や旨味の凝縮された深みのある赤色に仕上がっている。彼は恐る恐る一番小さな肉の欠片つまんだ。そっと口に入れる。
燻製独特の香ばしさ。舌に響く胡椒の辛さ。噛めば噛むほど溢れる肉の旨味。「美味しい!」と思わず大きな声が出た。それを見て鈴木は満足そうに笑った。
「調理班自慢の燻製だからね! 大人の人だとお酒のおつまみにするのかな。あたしはサラダにするの。レタスとかパプリカと一緒に合えてシーザードレッシングで食べるんだ」
いいことを聞いた、とエルは興奮した。彼は料理が好きだ。もっと言えば食べることが大好きだった。食への飽くなき探求心がムクムクと芽生えて「他にはどんなアレンジを?」と彼女に前のめりで聞いてしまう。すると山田と吉田、山本も集まり、いつの間にか彼の周りには人だかりができてレシピ談議に花が咲いた。
「パンに挟んじゃうといいわよ。からしマヨネーズを塗ってレタスも挟んでさ」
「時間があるときはポテトサラダ作るわ。キュウリも玉ねぎも入れて具沢山にしちゃうの」
「ベーコン代わりにペペロンチーノに入れるの最高だぜ。味付け適当でも肉が旨いからどんどん食べられるんだよなあ」
「コラ、こんな時間に立ち話しないの!」
高橋が手を叩く。すると彼らは蜘蛛の子を散らすようにさっと解散してしまった。忙しく働いていたおかげですっかり目が覚めてしまっているが、時刻はすでに深夜だ。食堂の昼食担当組は明日も午前8時始業である。今から帰宅して夕食をとって就寝、となれば睡眠時間はあまり確保できまい。
エルは比較的徹夜に慣れていた。前の職場では突発的な仕事が入ってしまい帰宅できないことなど日常茶飯事だった。しかし普通の人間はそうはいかないだろう。彼は思わず「鈴木先輩は大丈夫ですか?」と尋ねる。
「慣れちゃった! こういうのよくあるんだ」
「よくあるんですか」
「急に魔物肉が入っちゃって残業になるのはよくあるよ! でも安心して! その分ちゃんとお給料出るから!」
鈴木が自信たっぷりに胸を叩く。どうやら高橋の「もぎ取ってやる」という発言は本当らしい。
「そこの二人、最後にちょっと頼まれてほしいんだけど」
高橋がのっそりと近づいて来る。手には肉の入った包みが三つ握られていた。
「他の部署もどうせ残業してるだろうから差し入れしてやろうと思ってね。悪いんだけど、これを鉱石部門に届けてくれ」
鈴木が「分かりました!」と元気よく返事をして受け取った。エルは鉱石部門、という言葉に聞き覚えがあった。
「確か、食堂によく来る鉱石部門の方がいるんでしたっけ」
「そう! ちょうど今朝話したよね。篠山さんがいるところだよ!」
怒涛の一日だったせいで朝の出来事がすでに遠い昔のように思える。エルはゆっくりと記憶を辿った。若白髪で、優しくて、いつも保安部の柊と一緒にいる人。
「篠山さん絶対残業してるから会えると思うよ」
鉱石部門の事務所兼作業場は帰り道の途中にある。二人は最後に頼まれた鉱石部門への差し入れを手に食堂を後にした。
高橋がそう言うと、自然と拍手が沸き起こった。この場にいる全員を称える拍手だ。誰も彼もが達成感に満ちた顔をしていた。
夜がとっぷり更けた頃、調理班によるマジックベアの肉の仕込みはようやく完了した。ほとんどの肉が適切に処理を施されて食用に回せたという。肉は今後燻製や大和煮にして食堂のメニューとして提供されるそうだ。また、食堂の夜の営業も──エルは皿洗いに従事していただけであったが──今回の騒ぎでかえって来客が少なく大きな問題も起こらなかったと鈴木が教えてくれた。
「それじゃあご褒美だ。みんなこれを持って帰りなさい」
そう言って高橋が掲げたものを見て皆が歓声を上げる。エルは目を凝らした。何かの包みだ。高橋の手にすっぽりと収まるくらいに小さい。
「鈴木先輩、あれは?」
「マジックベアの燻製だよ!」
彼女もまた大興奮だ。
「いつも魔物の肉が入ると切れ端を燻製にしてみんなで分けて食べるの。燻製ってやり方の種類がいくつかあって、大きいお肉は日持ちがするようにって時間をかけて乾燥させるんだ。でもどうしても形整えたりすると切れ端が出ちゃうから、そういうのはぱぱっと味付けてぱぱっと燻製しちゃうの。水分抜けきってないから今日中に食べなきゃダメなんだけど、すっごく美味しいだよ!」
鈴木がうっとりと目を細める。その間にも小さな袋がどんどん配られていった。なんの飾り気もないビニール袋であるが、誰も彼もが嬉しそうに大事そうに受け取っていた。中にはすぐに袋を開けて食べている者もいる。エルも真似して袋を開けてみた。入っていたのは確かに小さな肉片で、あのおぞましい色は今や旨味の凝縮された深みのある赤色に仕上がっている。彼は恐る恐る一番小さな肉の欠片つまんだ。そっと口に入れる。
燻製独特の香ばしさ。舌に響く胡椒の辛さ。噛めば噛むほど溢れる肉の旨味。「美味しい!」と思わず大きな声が出た。それを見て鈴木は満足そうに笑った。
「調理班自慢の燻製だからね! 大人の人だとお酒のおつまみにするのかな。あたしはサラダにするの。レタスとかパプリカと一緒に合えてシーザードレッシングで食べるんだ」
いいことを聞いた、とエルは興奮した。彼は料理が好きだ。もっと言えば食べることが大好きだった。食への飽くなき探求心がムクムクと芽生えて「他にはどんなアレンジを?」と彼女に前のめりで聞いてしまう。すると山田と吉田、山本も集まり、いつの間にか彼の周りには人だかりができてレシピ談議に花が咲いた。
「パンに挟んじゃうといいわよ。からしマヨネーズを塗ってレタスも挟んでさ」
「時間があるときはポテトサラダ作るわ。キュウリも玉ねぎも入れて具沢山にしちゃうの」
「ベーコン代わりにペペロンチーノに入れるの最高だぜ。味付け適当でも肉が旨いからどんどん食べられるんだよなあ」
「コラ、こんな時間に立ち話しないの!」
高橋が手を叩く。すると彼らは蜘蛛の子を散らすようにさっと解散してしまった。忙しく働いていたおかげですっかり目が覚めてしまっているが、時刻はすでに深夜だ。食堂の昼食担当組は明日も午前8時始業である。今から帰宅して夕食をとって就寝、となれば睡眠時間はあまり確保できまい。
エルは比較的徹夜に慣れていた。前の職場では突発的な仕事が入ってしまい帰宅できないことなど日常茶飯事だった。しかし普通の人間はそうはいかないだろう。彼は思わず「鈴木先輩は大丈夫ですか?」と尋ねる。
「慣れちゃった! こういうのよくあるんだ」
「よくあるんですか」
「急に魔物肉が入っちゃって残業になるのはよくあるよ! でも安心して! その分ちゃんとお給料出るから!」
鈴木が自信たっぷりに胸を叩く。どうやら高橋の「もぎ取ってやる」という発言は本当らしい。
「そこの二人、最後にちょっと頼まれてほしいんだけど」
高橋がのっそりと近づいて来る。手には肉の入った包みが三つ握られていた。
「他の部署もどうせ残業してるだろうから差し入れしてやろうと思ってね。悪いんだけど、これを鉱石部門に届けてくれ」
鈴木が「分かりました!」と元気よく返事をして受け取った。エルは鉱石部門、という言葉に聞き覚えがあった。
「確か、食堂によく来る鉱石部門の方がいるんでしたっけ」
「そう! ちょうど今朝話したよね。篠山さんがいるところだよ!」
怒涛の一日だったせいで朝の出来事がすでに遠い昔のように思える。エルはゆっくりと記憶を辿った。若白髪で、優しくて、いつも保安部の柊と一緒にいる人。
「篠山さん絶対残業してるから会えると思うよ」
鉱石部門の事務所兼作業場は帰り道の途中にある。二人は最後に頼まれた鉱石部門への差し入れを手に食堂を後にした。
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
異世界ランドへようこそ
来栖とむ
ファンタジー
都内から車で1時間半。奥多摩の山中に突如現れた、話題の新名所――「奥多摩異世界ランド」。
中世ヨーロッパ風の街並みと、ダンジョンや魔王城を完全再現した異世界体験型レジャーパークだ。
26歳・無職の佐伯雄一は、ここで“冒険者A”のバイトを始める。
勇者を導くNPC役として、剣を振るい、魔物に襲われ、時にはイベントを盛り上げる毎日。
同僚には、美人なギルド受付のサーミャ、エルフの弓使いフラーラ、ポンコツ騎士メリーナなど、魅力的な“登場人物”が勢ぞろい。
――しかしある日、「魔王が逃げた」という衝撃の知らせが入る。
「体格が似てるから」という理由で、雄一は急遽、魔王役の代役を任されることに。
だが、演技を終えた後、案内された扉の先にあったのは……本物の異世界だった!
経営者は魔族、同僚はガチの魔物。
魔王城で始まる、まさかの「異世界勤務」生活!
やがて魔王の後継問題に巻き込まれ、スタンピードも発生(?)の裏で、フラーラとの恋が動き出す――。
笑えて、トキメいて、ちょっと泣ける。
現代×異世界×職場コメディ、開園!
異世界配信〜幼馴染みに捨てられた俺を導く神々の声(視聴者)
葉月
ファンタジー
コルネ村で、幼なじみであり恋人でもあったユリアナと、ささやかな幸福を分かち合って生きていたロイド。
だがある日、ユリアナは女神の愛子として目覚め、国王の命により王都へと連れ去られる。
突然、日常を奪われ、運命に引き裂かれたロイドは、抗う術も持たぬまま、否応なく大きな流れへと呑み込まれていく。
これは、奪われたものを取り戻すため、そして理不尽な運命に抗おうとする、一人の少年の物語である。
聖女を追放した国は、私が祈らなくなった理由を最後まで知りませんでした
藤原遊
ファンタジー
この国では、人の悪意や欲望、嘘が積み重なると
土地を蝕む邪気となって現れる。
それを祈りによって浄化してきたのが、聖女である私だった。
派手な奇跡は起こらない。
けれど、私が祈るたびに国は荒廃を免れてきた。
――その役目を、誰一人として理解しないまま。
奇跡が少なくなった。
役に立たない聖女はいらない。
そう言われ、私は静かに国を追放された。
もう、祈る理由はない。
邪気を生み出す原因に目を向けず、
後始末だけを押し付ける国を守る理由も。
聖女がいなくなった国で、
少しずつ異変が起こり始める。
けれど彼らは、最後まで気づかなかった。
私がなぜ祈らなくなったのかを。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる