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【コーラのリッター瓶】
しおりを挟むそれは、もう、今から35年も前の、僕が中学の頃のはなしだ。
随分と前のはなしだと思うだろうが、僕にはまるで、昨日のことの様に鮮明な記憶ではなすことができるし、それほど僕のメンタルエイジは、そこからほとんど変わっていない。
僕は確かに小学生の頃から、金魚と呼ばれる肺まで吸い込まない喫煙をしたり、店のレジから金を奪うとか、盗んだものを売って金を稼ぐとか、叔父に頼んで車を運転するなど、ちょっとした悪さはしていたけれど、親の影響か、健康に対する頓着は強く、シンナー吸引や覚醒剤、大麻には手を出さないようにしようと決めていた。
ほとんど通わず在籍だけしていた中学校の校舎から、徒歩でほんの1・2分のところに、なかなか大きな空き家があった。外壁の剥がれや、密集して巻き付いたツルの様子から察するに、相当以前から空き家になっている感じだったが、その頃にはまだ、朽ち果てることなく構えていた。
空き家の内部には、すべての部屋に高級そうな家具類が置かれたままで、それほどホコリも積もらず、そのまま住むことさえ出来そうだった。
きっと、お金持ちが事業に失敗でもして、着の身着のまま、手荷物だけ掴んで借金取りから夜逃げをしたんだろうと、先輩たちと勝手な空想を膨らませていた。
その空き家は、中学校のすぐ近くと言う好立地なお陰で、各方面から学校に通う不良仲間には利便性の高い溜まり場になっていた。
ほとんどの先輩たちはシンナーを吸ったり、盗んで来たものを親や警察にばれないように隠す基地のような場所としていたが、僕には、1つの慰安の場でも有った。
親も教師も兄も近隣の人々も、僕を否定し罵倒と打擲を繰り返すのだから、僕には、自宅も学校も通学路も苦痛の場でしかなかったからだ。
その日、晴彦先輩と、同級生の亜由美と共に、僕らは空き家に向かった。
晴彦先輩は、少年院と娑婆を往き来してばかりの余り交流がない先輩だったが、たまに出会うととても優しくて僕は気安い仲で過ごしていた。
よくシンナーの入った‘ジャケット’を掴んだ手を口にあて、学校の廊下を叫びながら歩いていた。そうゆう時にはまったく別人の様になるから、皆は近付かない様にしていた。
亜由美は、僕と保育所からずっと同じの幼馴染みで、いつも学級委員や生徒会に属していたが、どうした訳か、ある時期から金髪に丈の長いスカートを履いて通学する様になり、すっかりスケバンになってしまった。
僕には、憧れの優秀で美しい女の子であったから、少しは驚いたが、僕だって生まれた時から極道志向ではなかった。
亜由美は、他のスケバンたちに負けじと、必死に意気がってはいたけれど、年季の入った僕の悪さと比べて、俄拵え(にわかごしらえ)のそれは、どこかぎこちなく、僕は内心、いつも心配していた。
噂では、生徒会のメンバーだった時に、10人位の女の先輩たちに拐われて神社裏で陰部に何度もコーラのリッター瓶を突っ込まれて、人生が変わってしまったのだと聞いていた。
僕が、僕の人生で一番荒れて心身が不安定だった小学5年生の時に、やはり当時も生徒会に属していた学級委員の亜由美と、クラスの席が隣になったことがあった。
僕は日頃、あまり通学していなかったし、仮に通学しても教室には給食の時間にしか行かなかったけれど、亜由美と隣の席になったのを期に出席日数が増えた。
亜由美は綺麗だった。そして優秀で優しくもあった。
大きな目に白い肌、少しウェーブのかかった栗色の髪の毛からは、shampooの甘い香りがした。
亜由美をそっと見詰めていたら、僕は座ったまま立ち眩みがして倒れたことがある。それ位に亜由美が好きだった。
晴彦先輩と三人で空き家に入り込むと、近隣にはばれないように、静かな声で会話をした。
その日も寂しがり屋の晴彦先輩は、僕を吸引仲間に引き入れようとシンナーを勧めて来たが、僕は頑として断り続けた。
亜由美は、とっくにラリっていて、どこかその横顔には、過去の栄光を払拭し、不良に成りきろうとする自棄(ヤケ)な雰囲気が感じられた。
僕は亜由美を見ると、いまも、襟を正して真面目だった頃の亜由美を思い出す。
シンナーを吸引する亜由美を横目に、一抹の寂しさを感じてはいたけれど、その頃の亜由美は、いつも暴走族や香具師(ヤシ)たちと遊んでいて、今さら何をいっても馬耳東風だった。
やがて晴彦先輩の幻覚がピークに差し掛かり、奇声をあげて暴れだした。シツコイ性格に拍車がかかり、僕がこのままシンナーを吸わないなら、と、ドクロの絵が書かれたブリーフケースからナイフを取り出し凄んできた。
仕方なく、ジャケットと口の間を5センチも離したままで僕が吸う真似をすると、とても嬉しそうに亜由美と共に奥の部屋に消えた。
それから、30分程も経った頃、気付けば僕は、5センチも離したジャケットから気化したシンナーを吸い込み若干ラリっていた。
隣の部屋から、ゴトゴトと間欠的な音が聞こえてくる。
また晴彦先輩が幻覚を見ながら暴れだしたのだろうと思いを巡らし立ち上がると、隣の部屋まで歩いて行って中を覗いた。
そこには、やはり豪華なWベットが置かれていて、薄明かりの中、ベットに横たわる亜由美の白い裸体の上に晴彦先輩が跨いで乗っかり腰を振っていた。
(なんだ、一定のリズムで繰り返される間欠的な音…、これだったのか…)
僕は心の中でそんなことを考え、じっとその様子を眺めていた。
亜由美は、たかだか13か14歳にして、ラリったまま喘ぎ声をもらしていた。
その内に先輩が覗き込む僕に気付くと、舌打ちとともに必死に掌を左右に振り僕を追い払おうとしたが、僕はそれを無視した。
先輩は、僕と亜由美を交互に見ては、気持ちが良いような悪いような、何とも形容しがたい顔で腰を振り続けていた。
僕はその頃、嫌になる位モテていて、朝寝床で目を覚ませば知らない女の子が横に寝ている程に、あらゆる方面からソノ誘いがあったが、まだ童貞だった。
その当時、きっと一緒に成ると信じてやまない一つ下の彼女がいて、決して裏切らないと決めていたし、その彼女自身には、「もう少し待ってね」、と言われ、その言葉を守り通していた。
その彼女が、ある夜、僕の友人と寝てしまい、それを聞いた僕が仲間を集めてソイツをリンチにした時にいた、僕を思いやる風を装っていた仲間の一人が、そのリンチ決行の晩に、彼女と寝て、その友人を一時間に渡り叩きのめした日から数年後、彼女は30人以上の男たちに抱かれていたと発覚したけど、やはり僕は、彼女の言葉を守り通していた。
気がおかしくなる程に辛く、自宅でコーラのリッター瓶を素手で割り潰して、血を流しながら泣いた。
そしてそれから数年後、僕が仕事を終えて彼女のもとへゆくと、彼女の自宅の部屋には、「さがさないでください」と書かれた置き手紙があり、家出をしていた。
彼女の両親から信頼を受けていたので、両親から捜索を依頼され、必死に探し回った。
結局、他の中学の、僕の友人のもとへ家出をしていることが判明し、彼女を親元へ送り届けた。
その友人は、とても女誑しの詐欺師の様な男で、その場を僕に見つかるや否や、「いやぁ参ったよ、あの好き者の豚女。あんなやつはやめておけよ」と彼女を侮辱した。
僕は無免許で乗っていたセドリックの後部座席からコーラのリッター瓶を取り出すと、その瓶が破片になるまで、そいつを殴り続けた。
そんな日々を経て僕が彼女と交わった時には既に、彼女はすっかり黒ずんだ大人の体になっていた。
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