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「……次は王妃様、ですか。お父様、私の心臓はもう限界に近いですわ」
国王陛下との面談を終え、精根尽き果てた私を待っていたのは、王妃イザベラ様からの招待状だった。
国王陛下が「猛獣の飼い主」を求めていたのに対し、王妃様は「静かにお茶を楽しみましょう」という。
だが、あのアルフォンス殿下の母親である。まともなはずがない。
「……失礼いたします、王妃様。シュバルツ公爵令嬢、カタリーナにございます」
私は王妃の私的サロンへと足を踏み入れた。
そこは甘いバラの香りに満ち、美しい刺繍や絵画に彩られた、いかにも高貴な女性の隠れ家といった趣だった。
「まあ、よく来てくれたわね、カタリーナ。さあ、そこへ座って。堅苦しい挨拶は抜きにしましょう」
ソファに座る王妃イザベラ様は、聖母のような慈愛に満ちた微笑みを浮かべていた。
……おかしい。普通すぎる。
「昨夜の騒動、アルフォンスが本当に迷惑をかけたわね。あの子ったら、昔から思い込みが激しくて……」
「いえ、王妃様。殿下のご温情(?)には、私も困惑しきりでございます」
私は緊張を隠すため、あえて冷徹な表情を作り、背筋を伸ばした。
「ふふっ……。その顔よ。まさに噂通りね」
王妃様が、扇子で口元を隠してクスクスと笑った。
「噂、でございますか?」
「ええ。アルフォンスから毎日届く手紙に書いてあったわ。『今日のカタリーナ様の蔑みの視線は、初夏の雷鳴のように鋭く、私の魂を震わせました』って」
「……その手紙、今すぐ焼却処分していただけませんこと?」
私は頭を抱えた。あの王子、母親にまでそんなポエムを送りつけていたのか。
「いいのよ、気にしなくて。実はね、カタリーナ。私からもあなたに謝らなければならないことがあるの」
王妃様は急に真剣な顔になり、周囲の侍女たちを下がらせた。
室内には私と王妃様の二人きり。
王妃様は立ち上がり、壁に飾られた大きな風景画の後ろに手を伸ばした。
カチリ、という音がして、壁の一部がスライドする。
「……隠し扉?」
「さあ、入って。ここが私の『秘密の部屋』よ」
私は困惑しながらも、王妃様に促されてその小部屋に入った。
そして、絶句した。
部屋の壁一面に、私のスケッチが貼られていたからだ。
「……これ、は……」
「アルフォンスが描いたものもあるけれど、半分は私が描いたのよ。見て、この『泥棒猫を見るような冷ややかな目』! この角度、この陰影! 完璧だわ!」
王妃様の瞳が、アルフォンス殿下と同じ怪しい輝きを放ち始めた。
「王妃様……あなたもでしたのね」
「あら、驚いた? 私、こう見えて『強い女性』が好きなの。でも王宮にはお淑やかな方ばかりで……。そこに現れたのが、あなたよ!」
王妃様は私の両手を握りしめ、顔を近づけた。
「あの卒業パーティーでの高笑い! あれを録音……いえ、魔石に記録できなかったことが一生の不覚だわ。カタリーナ、お願い。今ここで、もう一度やってみてくれないかしら?」
「……。……おーっほっほっほ(棒読み)」
「あああ! そのやる気のない、心底私を馬鹿にしたような高笑い! 最高だわ! アルフォンスが夢中になるのも無理ないわね!」
王妃様はうっとりと自分の頬を染めた。
「カタリーナ。国王はあなたに『猛獣使い』を頼んだようだけど、私は違うわ」
王妃様は、私の耳元で楽しげに囁いた。
「私は、あなたに『最高の悪役令嬢』として、この退屈な王宮をかき乱してほしいの。私が全力でバックアップするわ。衣装も、宝石も、あなたが一番『悪女』に見えるものを用意させるから」
……。
私は悟った。
この国の王室は、上から下まで、私の「悪役令嬢」という属性をしゃぶり尽くそうとしている。
「……王妃様。一つ、よろしいでしょうか」
「何かしら?」
「……この部屋のスケッチ、一枚残らず没収させていただいてもよろしいかしら? 恥ずか死んでしまいますわ」
「ふふふ。嫌よ。これは私の大事なコレクションなんだから!」
王妃様の無邪気な笑い声が、私の絶望と共にサロンに響き渡った。
どうやら私の敵は、ミリア様のような小悪党ではなく、この国の支配者たちそのものであるらしい。
国王陛下との面談を終え、精根尽き果てた私を待っていたのは、王妃イザベラ様からの招待状だった。
国王陛下が「猛獣の飼い主」を求めていたのに対し、王妃様は「静かにお茶を楽しみましょう」という。
だが、あのアルフォンス殿下の母親である。まともなはずがない。
「……失礼いたします、王妃様。シュバルツ公爵令嬢、カタリーナにございます」
私は王妃の私的サロンへと足を踏み入れた。
そこは甘いバラの香りに満ち、美しい刺繍や絵画に彩られた、いかにも高貴な女性の隠れ家といった趣だった。
「まあ、よく来てくれたわね、カタリーナ。さあ、そこへ座って。堅苦しい挨拶は抜きにしましょう」
ソファに座る王妃イザベラ様は、聖母のような慈愛に満ちた微笑みを浮かべていた。
……おかしい。普通すぎる。
「昨夜の騒動、アルフォンスが本当に迷惑をかけたわね。あの子ったら、昔から思い込みが激しくて……」
「いえ、王妃様。殿下のご温情(?)には、私も困惑しきりでございます」
私は緊張を隠すため、あえて冷徹な表情を作り、背筋を伸ばした。
「ふふっ……。その顔よ。まさに噂通りね」
王妃様が、扇子で口元を隠してクスクスと笑った。
「噂、でございますか?」
「ええ。アルフォンスから毎日届く手紙に書いてあったわ。『今日のカタリーナ様の蔑みの視線は、初夏の雷鳴のように鋭く、私の魂を震わせました』って」
「……その手紙、今すぐ焼却処分していただけませんこと?」
私は頭を抱えた。あの王子、母親にまでそんなポエムを送りつけていたのか。
「いいのよ、気にしなくて。実はね、カタリーナ。私からもあなたに謝らなければならないことがあるの」
王妃様は急に真剣な顔になり、周囲の侍女たちを下がらせた。
室内には私と王妃様の二人きり。
王妃様は立ち上がり、壁に飾られた大きな風景画の後ろに手を伸ばした。
カチリ、という音がして、壁の一部がスライドする。
「……隠し扉?」
「さあ、入って。ここが私の『秘密の部屋』よ」
私は困惑しながらも、王妃様に促されてその小部屋に入った。
そして、絶句した。
部屋の壁一面に、私のスケッチが貼られていたからだ。
「……これ、は……」
「アルフォンスが描いたものもあるけれど、半分は私が描いたのよ。見て、この『泥棒猫を見るような冷ややかな目』! この角度、この陰影! 完璧だわ!」
王妃様の瞳が、アルフォンス殿下と同じ怪しい輝きを放ち始めた。
「王妃様……あなたもでしたのね」
「あら、驚いた? 私、こう見えて『強い女性』が好きなの。でも王宮にはお淑やかな方ばかりで……。そこに現れたのが、あなたよ!」
王妃様は私の両手を握りしめ、顔を近づけた。
「あの卒業パーティーでの高笑い! あれを録音……いえ、魔石に記録できなかったことが一生の不覚だわ。カタリーナ、お願い。今ここで、もう一度やってみてくれないかしら?」
「……。……おーっほっほっほ(棒読み)」
「あああ! そのやる気のない、心底私を馬鹿にしたような高笑い! 最高だわ! アルフォンスが夢中になるのも無理ないわね!」
王妃様はうっとりと自分の頬を染めた。
「カタリーナ。国王はあなたに『猛獣使い』を頼んだようだけど、私は違うわ」
王妃様は、私の耳元で楽しげに囁いた。
「私は、あなたに『最高の悪役令嬢』として、この退屈な王宮をかき乱してほしいの。私が全力でバックアップするわ。衣装も、宝石も、あなたが一番『悪女』に見えるものを用意させるから」
……。
私は悟った。
この国の王室は、上から下まで、私の「悪役令嬢」という属性をしゃぶり尽くそうとしている。
「……王妃様。一つ、よろしいでしょうか」
「何かしら?」
「……この部屋のスケッチ、一枚残らず没収させていただいてもよろしいかしら? 恥ずか死んでしまいますわ」
「ふふふ。嫌よ。これは私の大事なコレクションなんだから!」
王妃様の無邪気な笑い声が、私の絶望と共にサロンに響き渡った。
どうやら私の敵は、ミリア様のような小悪党ではなく、この国の支配者たちそのものであるらしい。
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