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「……セバス。これ、本物ですの?」
私は、朝食のテーブルに置かれた一枚の金貨を、震える指先でつまみ上げた。
そこには、確かに私の横顔が刻まれていた。それも、驚くほど精巧に。
少しだけ顎を引き、冷徹に相手を見下すような、私特有の「緊張による威圧顔」が、黄金の輝きの中で永遠の命を得ている。
「はい、お嬢様。今朝、王立銀行より届いた試作品にございます。殿下曰く、『カタリーナの尊さは、万国共通の価値基準になるべきだ』とのことで」
「……。……。……」
私は無言で、金貨を床に転がした。
チリン、と高い音が響く。これが来月から、この国の経済を回すのか。
私がパンを買うたびに、私の顔が刻まれた金属を店主に手渡す。店主は私の顔を見て、私にパンを渡す。
……地獄ですわ。
「もう限界ですわ、セバス。このままでは、私がこの国を滅ぼしてしまいます」
「お嬢様? 滅ぼすとは、穏やかではありませんな」
「殿下の暴走ですわ! 私のために国家予算を使い、私のために通貨を作り、私のために隣国と戦争しそうな勢いですわ! これでは、私は『悪役令嬢』ではなく、ただの『傾国の美女』になってしまいます!」
私は立ち上がり、拳を机に叩きつけた。
本当は、ただの不器用な公爵令嬢として、ひっそりと生きていきたかっただけなのに。
「殿下の目を覚まさなくてはなりません。あの方は、私という幻想を追いかけすぎているのです。……実物の私は、もっと地味で、緊張しぃで、可愛げのない女だということを分からせなければ」
「左様でございますか。……では、具体的にどのような策を?」
私は、窓の外でせっせとバラの手入れをしている庭師たちを眺め、一つの「禁じ手」を思いついた。
「……偽の恋人を作りますわ」
「……は?」
冷静なセバスが、今日二度目の驚きを見せた。
「殿下のプライドは高いはずです。もし私が、別の殿方と親密な関係にあることを見せつければ、いくらあの方でも愛想を尽かすに違いありません」
「お嬢様……それは、火に油を注ぐどころか、王宮に爆薬を投げ込むような行為では……」
「背に腹は代えられませんわ! 殿下が私を諦めれば、通貨のデザインも元に戻り、巨大な私の像も取り壊されるはず。それが、この国を救う唯一の道ですわ!」
私は、自室のクローゼットから一番「悪女」に見える、露出度の高い(といっても鎖骨が見える程度の)ドレスを引っ張り出した。
「さあ、まずは候補者選びですわよ。殿下と並んでも遜色ない……いえ、殿下が思わず嫉妬で正気を失うような、そんな素敵な男性を捕まえなくては」
「……お嬢様。正気を失った殿下が何をなさるか、想像したことはございますか?」
「……。……考えないことにいたしますわ」
私は震える足取りで、公爵邸の広大な庭へと繰り出した。
まずは、身近なところから。
殿下の息がかかっていない、純朴で、かつ私の「鋭い視線」に耐えられる屈強な精神の持ち主を探さなくてはならない。
「見ていなさい、アルフォンス殿下。私はあなたの思い通りにはなりませんわよ!」
私は夕日に向かって、決意のポーズを決めた。
だが、その背後の茂みが、カサリと不自然な音を立てたことには、全く気づいていなかった。
私の「偽の恋人作戦」。それは、この物語をさらなる混沌へと突き動かす、最悪の一手になろうとしていたのである。
私は、朝食のテーブルに置かれた一枚の金貨を、震える指先でつまみ上げた。
そこには、確かに私の横顔が刻まれていた。それも、驚くほど精巧に。
少しだけ顎を引き、冷徹に相手を見下すような、私特有の「緊張による威圧顔」が、黄金の輝きの中で永遠の命を得ている。
「はい、お嬢様。今朝、王立銀行より届いた試作品にございます。殿下曰く、『カタリーナの尊さは、万国共通の価値基準になるべきだ』とのことで」
「……。……。……」
私は無言で、金貨を床に転がした。
チリン、と高い音が響く。これが来月から、この国の経済を回すのか。
私がパンを買うたびに、私の顔が刻まれた金属を店主に手渡す。店主は私の顔を見て、私にパンを渡す。
……地獄ですわ。
「もう限界ですわ、セバス。このままでは、私がこの国を滅ぼしてしまいます」
「お嬢様? 滅ぼすとは、穏やかではありませんな」
「殿下の暴走ですわ! 私のために国家予算を使い、私のために通貨を作り、私のために隣国と戦争しそうな勢いですわ! これでは、私は『悪役令嬢』ではなく、ただの『傾国の美女』になってしまいます!」
私は立ち上がり、拳を机に叩きつけた。
本当は、ただの不器用な公爵令嬢として、ひっそりと生きていきたかっただけなのに。
「殿下の目を覚まさなくてはなりません。あの方は、私という幻想を追いかけすぎているのです。……実物の私は、もっと地味で、緊張しぃで、可愛げのない女だということを分からせなければ」
「左様でございますか。……では、具体的にどのような策を?」
私は、窓の外でせっせとバラの手入れをしている庭師たちを眺め、一つの「禁じ手」を思いついた。
「……偽の恋人を作りますわ」
「……は?」
冷静なセバスが、今日二度目の驚きを見せた。
「殿下のプライドは高いはずです。もし私が、別の殿方と親密な関係にあることを見せつければ、いくらあの方でも愛想を尽かすに違いありません」
「お嬢様……それは、火に油を注ぐどころか、王宮に爆薬を投げ込むような行為では……」
「背に腹は代えられませんわ! 殿下が私を諦めれば、通貨のデザインも元に戻り、巨大な私の像も取り壊されるはず。それが、この国を救う唯一の道ですわ!」
私は、自室のクローゼットから一番「悪女」に見える、露出度の高い(といっても鎖骨が見える程度の)ドレスを引っ張り出した。
「さあ、まずは候補者選びですわよ。殿下と並んでも遜色ない……いえ、殿下が思わず嫉妬で正気を失うような、そんな素敵な男性を捕まえなくては」
「……お嬢様。正気を失った殿下が何をなさるか、想像したことはございますか?」
「……。……考えないことにいたしますわ」
私は震える足取りで、公爵邸の広大な庭へと繰り出した。
まずは、身近なところから。
殿下の息がかかっていない、純朴で、かつ私の「鋭い視線」に耐えられる屈強な精神の持ち主を探さなくてはならない。
「見ていなさい、アルフォンス殿下。私はあなたの思い通りにはなりませんわよ!」
私は夕日に向かって、決意のポーズを決めた。
だが、その背後の茂みが、カサリと不自然な音を立てたことには、全く気づいていなかった。
私の「偽の恋人作戦」。それは、この物語をさらなる混沌へと突き動かす、最悪の一手になろうとしていたのである。
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