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「……本日これより、来年度の『王宮特別広報予算』に関する緊急査定会議を執り行う。説明者は、魔法省および王宮儀礼局の代表だ」
サイラス様の低く冷徹な声が会議室に響くと、列席した役人たちの背筋が一斉に凍り付いた。
その隣で、私は「特別顧問」としての初仕事に胸を躍らせていた。
正確には、無駄な数字をペン一本で斬り捨てるという「断捨離の快感」に、だ。
「……あ、あの、ヴォルガード侯爵。本日の査定ですが、なぜアディントン公爵令嬢がそこに?」
魔法省の担当官が、震える声で尋ねる。
私は最高に洗練された、そして最高に「圧」のある微笑みを返した。
「ご心配なく。私はただの『効率化の専門家』として、皆様の不透明な数字を透明化(クリア)するお手伝いに参っただけですわ。……さあ、時間は一分につき金貨三枚分の価値があります。早くプレゼンを始めていただけます?」
「ひ、一分で金貨三枚……!? ……ええい、始めます! 今回の予算案は、ルル・ピピン様の『真実の愛』を国民に知らしめるための、国を挙げた祝賀パレードおよび、魔法投影機による記念映像の制作費であります!」
出てきた。
エドワード殿下の差し金による、私的流用同然の予算請求。
パレード一回に、地方都市の半年分の予算がつぎ込まれようとしている。
「……以上が、国民の士気を高めるために必要な経費でございます! これぞ王室の威光!」
担当官が胸を張って言い終えると同時、私は手元の資料を「パラリ」と放り投げた。
「……却下ですわ。一ギルたりとも出す価値がありません」
「な、なんですと!? これは次期王妃候補であらせられるルル様の――」
「まず第一に。その『士気向上』という無形資産の評価根拠が不明確です。過去、同様のパレードを行った際の経済波及効果はマイナス三パーセント。国民は祝うどころか、交通規制と騒音に多大なるストレスを感じているというデータが出ておりますわ」
私は懐から取り出した別の資料を、机に叩きつけた。
これは昨夜、私が独自に算出した「国民の不満指数」の予測グラフだ。
「さらに、この魔法投影機。……最新型の購入費用が計上されていますが、魔法省の倉庫には三年前のモデルが五台も眠っていますわよね? それをメンテナンスして使えば、この項目の予算は九割削減可能です」
「そ、それは……最新型でないと、ルル様の肌の質感が美しく再現できないと殿下が……」
「殿下の美意識に国庫を付き合わせないでいただけます? 肌の質感など、照明魔法の工夫一つでどうにでもなりますわ。……それとも魔法省の皆様は、三年前の魔道具すら使いこなせない無能の集まりでいらっしゃるのかしら?」
「ぐっ……! そ、そんなことは……!」
私は立ち上がり、会議室の温度が五度ほど下がったのではないかと思わせる冷笑を浮かべた。
「この予算案、全体で八割の無駄があります。残りの二割も、現状では『娯楽費』としての承認が限界です。……サイラス様、私の査定にご異論は?」
サイラス様は、腕を組んだまま、一度だけ深く頷いた。
「……異論はない。魔法省、および儀礼局。明日までに、今の指摘をすべて反映させた修正案を持ってこい。……一箇所でも『美しさ』という抽象的な言葉が含まれていたら、来期の部署予算そのものを凍結する」
「そ、そんなぁ……!」
役人たちが泣き崩れながら退室していく。
静寂が戻った会議室で、私は小さく息を吐き出し、元の椅子に座り直した。
「……ふう。お疲れ様でしたわ、サイラス様。あの方たち、説明能力が低すぎて理解させるのにコストがかかりすぎます」
「……見事な手際だった。特に魔法省の在庫まで把握していたのには驚いたな。いつ調査したんだ?」
「就任初日の昼休み、暇つぶしに地下倉庫を視察しましたの。整理整頓がなされていない場所には、必ず『埋蔵金(無駄)』が眠っていますから」
サイラス様が、ふっと口元を緩めた。
彼は椅子を私の方へ向け、少しだけ声を低くした。
「……君が私の助手になってくれてから、財務省の権威が別の意味で上がりすぎている。他省の連中が、廊下で君とすれ違うだけで財布を隠すようになったぞ」
「あら、光栄ですわ。……でも、私は別に彼らの個人資産には興味ありません。……興味があるのは、国家の健全なキャッシュフローと……それから、」
私は言葉を切り、サイラス様の瞳を見つめた。
「……閣下が、いつ私に『最高に効率的な休憩時間』を提案してくださるか、ですわ」
サイラス様は一瞬、不意を突かれたように目を見開いた。
そして、彼は自分の懐中時計を確認すると、立ち上がって私の背後に回った。
「……今からだ。……次の会議まで、ちょうど四十分ある。……王宮の中庭に、一箇所だけ誰にも邪魔されず、かつ移動距離が最も短い喫茶スペースを見つけた」
「……移動距離まで計算済みですの? サイラス様、貴方という方は……」
「君の影響だ。……さあ、行こう。……私の『貴重な時間』を、君に浪費(プレゼント)したい」
差し出された彼の手を取る。
仕事(断捨離)の後の紅茶は、きっとどんな贅沢なパレードよりも、私に最高の満足感(ROI)を与えてくれるに違いない。
サイラス様の低く冷徹な声が会議室に響くと、列席した役人たちの背筋が一斉に凍り付いた。
その隣で、私は「特別顧問」としての初仕事に胸を躍らせていた。
正確には、無駄な数字をペン一本で斬り捨てるという「断捨離の快感」に、だ。
「……あ、あの、ヴォルガード侯爵。本日の査定ですが、なぜアディントン公爵令嬢がそこに?」
魔法省の担当官が、震える声で尋ねる。
私は最高に洗練された、そして最高に「圧」のある微笑みを返した。
「ご心配なく。私はただの『効率化の専門家』として、皆様の不透明な数字を透明化(クリア)するお手伝いに参っただけですわ。……さあ、時間は一分につき金貨三枚分の価値があります。早くプレゼンを始めていただけます?」
「ひ、一分で金貨三枚……!? ……ええい、始めます! 今回の予算案は、ルル・ピピン様の『真実の愛』を国民に知らしめるための、国を挙げた祝賀パレードおよび、魔法投影機による記念映像の制作費であります!」
出てきた。
エドワード殿下の差し金による、私的流用同然の予算請求。
パレード一回に、地方都市の半年分の予算がつぎ込まれようとしている。
「……以上が、国民の士気を高めるために必要な経費でございます! これぞ王室の威光!」
担当官が胸を張って言い終えると同時、私は手元の資料を「パラリ」と放り投げた。
「……却下ですわ。一ギルたりとも出す価値がありません」
「な、なんですと!? これは次期王妃候補であらせられるルル様の――」
「まず第一に。その『士気向上』という無形資産の評価根拠が不明確です。過去、同様のパレードを行った際の経済波及効果はマイナス三パーセント。国民は祝うどころか、交通規制と騒音に多大なるストレスを感じているというデータが出ておりますわ」
私は懐から取り出した別の資料を、机に叩きつけた。
これは昨夜、私が独自に算出した「国民の不満指数」の予測グラフだ。
「さらに、この魔法投影機。……最新型の購入費用が計上されていますが、魔法省の倉庫には三年前のモデルが五台も眠っていますわよね? それをメンテナンスして使えば、この項目の予算は九割削減可能です」
「そ、それは……最新型でないと、ルル様の肌の質感が美しく再現できないと殿下が……」
「殿下の美意識に国庫を付き合わせないでいただけます? 肌の質感など、照明魔法の工夫一つでどうにでもなりますわ。……それとも魔法省の皆様は、三年前の魔道具すら使いこなせない無能の集まりでいらっしゃるのかしら?」
「ぐっ……! そ、そんなことは……!」
私は立ち上がり、会議室の温度が五度ほど下がったのではないかと思わせる冷笑を浮かべた。
「この予算案、全体で八割の無駄があります。残りの二割も、現状では『娯楽費』としての承認が限界です。……サイラス様、私の査定にご異論は?」
サイラス様は、腕を組んだまま、一度だけ深く頷いた。
「……異論はない。魔法省、および儀礼局。明日までに、今の指摘をすべて反映させた修正案を持ってこい。……一箇所でも『美しさ』という抽象的な言葉が含まれていたら、来期の部署予算そのものを凍結する」
「そ、そんなぁ……!」
役人たちが泣き崩れながら退室していく。
静寂が戻った会議室で、私は小さく息を吐き出し、元の椅子に座り直した。
「……ふう。お疲れ様でしたわ、サイラス様。あの方たち、説明能力が低すぎて理解させるのにコストがかかりすぎます」
「……見事な手際だった。特に魔法省の在庫まで把握していたのには驚いたな。いつ調査したんだ?」
「就任初日の昼休み、暇つぶしに地下倉庫を視察しましたの。整理整頓がなされていない場所には、必ず『埋蔵金(無駄)』が眠っていますから」
サイラス様が、ふっと口元を緩めた。
彼は椅子を私の方へ向け、少しだけ声を低くした。
「……君が私の助手になってくれてから、財務省の権威が別の意味で上がりすぎている。他省の連中が、廊下で君とすれ違うだけで財布を隠すようになったぞ」
「あら、光栄ですわ。……でも、私は別に彼らの個人資産には興味ありません。……興味があるのは、国家の健全なキャッシュフローと……それから、」
私は言葉を切り、サイラス様の瞳を見つめた。
「……閣下が、いつ私に『最高に効率的な休憩時間』を提案してくださるか、ですわ」
サイラス様は一瞬、不意を突かれたように目を見開いた。
そして、彼は自分の懐中時計を確認すると、立ち上がって私の背後に回った。
「……今からだ。……次の会議まで、ちょうど四十分ある。……王宮の中庭に、一箇所だけ誰にも邪魔されず、かつ移動距離が最も短い喫茶スペースを見つけた」
「……移動距離まで計算済みですの? サイラス様、貴方という方は……」
「君の影響だ。……さあ、行こう。……私の『貴重な時間』を、君に浪費(プレゼント)したい」
差し出された彼の手を取る。
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