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「……最短経路の計算は終わりましたわ。新婦の入場から宣誓、そして退場まで合計十五分。これなら参列者の皆様の貴重な時間を無駄に奪うこともありませんわね」
私は執務机の上に、分厚い「結婚式工程表(タイムチャート)」を広げた。
そこには秒単位で刻まれたスケジュールと、無駄を削ぎ落とした動線が完璧に描かれている。
「……メアリー。……十五分というのは、通常の結婚式の平均時間の約八分の一だが。……神父の説教はどうするつもりだ?」
隣で同じくスケジュールを精査していたサイラス様が、不思議そうに尋ねる。
「あんな情緒的で内容のない長話、録音した魔道具を三倍速で再生すれば十分ですわ。……それから、披露宴の料理もすべて『一口サイズ』に統一いたしました。……フォークとナイフを使い分ける時間は、そのまま国家予算の審議に充てられますもの」
「……。……。……君の徹底ぶりには、財務卿である私ですら畏怖を覚えるな。……だが、メアリー。……この項目……『新婦の衣装替え(お色直し):ゼロ』というのは、どういう計算だ?」
サイラス様のペンが、ある一点で止まった。
「あら。……一度着たものを脱いで、また別のものを着る。……その作業に付随する着付け師の人件費、および中座による時間の空白(ブランク)。……合理的(ロジカル)に考えて、非生産的すぎますわ」
私は淡々と答えた。
ウェディングドレスなど、白ければ何でも同じ。
いかに動きやすく、かつ儀礼上の最低ラインをクリアしているかが重要なのだ。
「……。……。……メアリー。……私の話を聞いてくれ」
サイラス様が、珍しく書類から目を離し、私の両肩を掴んで正面から見つめてきた。
その瞳には、仕事上の情熱ではなく、もっと個人的で、切実な響きがあった。
「……何ですの? 予算の追加申請なら、今は受け付けておりませんわよ」
「……予算の話ではない。……感情の話だ。……私は、君のドレス姿を……世界で最も美しいはずのその姿を、せめて一分一秒でも長く、この目に焼き付けたいのだ」
「……。……。……。……サイラス様?」
「……これは、効率の問題ではない。……私の精神的安定(メンタルケア)、および一生涯にわたる幸福な記憶資産の形成において、不可欠なコストなのだ。……中座の時間は私が繋ぐ。……だから、君の最も気に入ったドレスを、三回……いや、五回は着替えてほしい」
私は思わず、目を丸くした。
あの「鉄仮面」が、国家予算よりも優先して、私のドレス姿を「独占したい」と、これほど熱く語るなんて。
「……サイラス様。……五回も着替えるのは、物理的なタイムロスが……」
「……私が手伝う。……あるいは、瞬間換装の魔法を開発させよう。……とにかく、君の美しさを省略することだけは、断固として拒否する。……これこそが、私の譲れない『聖域』だ」
サイラス様は、私の手を握りしめ、かつてないほど「デレ」た表情を見せた。
その耳の端が、隠しきれない情熱で真っ赤になっている。
「……。……。……。……完敗ですわ。……財務卿の『聖域』とまで言われては、特別顧問として退(しりぞ)くしかありませんわね」
私は、スケジュール表の「十五分」という数字をペンで消し、大きく書き直した。
「……分かりましたわ。……式の時間は、貴方の満足度(ROI)が最大化されるまで延長いたします。……ただし、その分、新婚旅行中の移動時間は私の計算通りに短縮させていただきますからね?」
「……ああ。……移動中も、君をずっと抱きしめていられるのなら、どんな高速移動でも構わない」
「……。……。……サイラス様、今のは流石に……甘すぎますわ」
私は赤い顔を隠すように、新しいドレスのカタログを開いた。
効率を何よりも優先してきた私の人生。
けれど、この不器用な仕事人間にだけは、私の「無駄な時間」をすべて捧げてもいいと、本気で思えてしまう。
「……さて。……では、この『スパンコール一万個使用』のドレスの重さと、移動速度の相関関係について、今すぐ検証を始めましょうか」
「……ああ。……私がすべてを支えるから、君は一番輝くものを選んでくれ」
二人の結婚準備は、合理的な計画の中に、甘い「例外」をたっぷりと含みながら、着実に進んでいくのだった。
私は執務机の上に、分厚い「結婚式工程表(タイムチャート)」を広げた。
そこには秒単位で刻まれたスケジュールと、無駄を削ぎ落とした動線が完璧に描かれている。
「……メアリー。……十五分というのは、通常の結婚式の平均時間の約八分の一だが。……神父の説教はどうするつもりだ?」
隣で同じくスケジュールを精査していたサイラス様が、不思議そうに尋ねる。
「あんな情緒的で内容のない長話、録音した魔道具を三倍速で再生すれば十分ですわ。……それから、披露宴の料理もすべて『一口サイズ』に統一いたしました。……フォークとナイフを使い分ける時間は、そのまま国家予算の審議に充てられますもの」
「……。……。……君の徹底ぶりには、財務卿である私ですら畏怖を覚えるな。……だが、メアリー。……この項目……『新婦の衣装替え(お色直し):ゼロ』というのは、どういう計算だ?」
サイラス様のペンが、ある一点で止まった。
「あら。……一度着たものを脱いで、また別のものを着る。……その作業に付随する着付け師の人件費、および中座による時間の空白(ブランク)。……合理的(ロジカル)に考えて、非生産的すぎますわ」
私は淡々と答えた。
ウェディングドレスなど、白ければ何でも同じ。
いかに動きやすく、かつ儀礼上の最低ラインをクリアしているかが重要なのだ。
「……。……。……メアリー。……私の話を聞いてくれ」
サイラス様が、珍しく書類から目を離し、私の両肩を掴んで正面から見つめてきた。
その瞳には、仕事上の情熱ではなく、もっと個人的で、切実な響きがあった。
「……何ですの? 予算の追加申請なら、今は受け付けておりませんわよ」
「……予算の話ではない。……感情の話だ。……私は、君のドレス姿を……世界で最も美しいはずのその姿を、せめて一分一秒でも長く、この目に焼き付けたいのだ」
「……。……。……。……サイラス様?」
「……これは、効率の問題ではない。……私の精神的安定(メンタルケア)、および一生涯にわたる幸福な記憶資産の形成において、不可欠なコストなのだ。……中座の時間は私が繋ぐ。……だから、君の最も気に入ったドレスを、三回……いや、五回は着替えてほしい」
私は思わず、目を丸くした。
あの「鉄仮面」が、国家予算よりも優先して、私のドレス姿を「独占したい」と、これほど熱く語るなんて。
「……サイラス様。……五回も着替えるのは、物理的なタイムロスが……」
「……私が手伝う。……あるいは、瞬間換装の魔法を開発させよう。……とにかく、君の美しさを省略することだけは、断固として拒否する。……これこそが、私の譲れない『聖域』だ」
サイラス様は、私の手を握りしめ、かつてないほど「デレ」た表情を見せた。
その耳の端が、隠しきれない情熱で真っ赤になっている。
「……。……。……。……完敗ですわ。……財務卿の『聖域』とまで言われては、特別顧問として退(しりぞ)くしかありませんわね」
私は、スケジュール表の「十五分」という数字をペンで消し、大きく書き直した。
「……分かりましたわ。……式の時間は、貴方の満足度(ROI)が最大化されるまで延長いたします。……ただし、その分、新婚旅行中の移動時間は私の計算通りに短縮させていただきますからね?」
「……ああ。……移動中も、君をずっと抱きしめていられるのなら、どんな高速移動でも構わない」
「……。……。……サイラス様、今のは流石に……甘すぎますわ」
私は赤い顔を隠すように、新しいドレスのカタログを開いた。
効率を何よりも優先してきた私の人生。
けれど、この不器用な仕事人間にだけは、私の「無駄な時間」をすべて捧げてもいいと、本気で思えてしまう。
「……さて。……では、この『スパンコール一万個使用』のドレスの重さと、移動速度の相関関係について、今すぐ検証を始めましょうか」
「……ああ。……私がすべてを支えるから、君は一番輝くものを選んでくれ」
二人の結婚準備は、合理的な計画の中に、甘い「例外」をたっぷりと含みながら、着実に進んでいくのだった。
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