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ヌアージュ 雲
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午前六時。
静まり返った部屋。
またトイレに起きた。
夜中の十二時、二時、四時にも目が覚めていたから、まだ体が寝ぼけていた。
用を足す。「なんで“足す”っていうんやろ。出すだけやのになぁ」
そんなことを思いながら寝床に戻り、
布団に沈んだ。
次に目が覚めたのは八時。
わずか二時間の眠りだったが、妙に鮮やかな夢を見ていた。
そんな夢の話。
私は作家だった。今日は、自分が書いた劇の脚本の発表会と祝賀会が行われる日だ。
会場はざわついていたが、どこか浮きたっている。
タイトルは四文字の横文字。
んんと……
そう、「クラウド」。
雲。
ヌアージュ。ジャンゴ・ラインハルトの優雅な旋律が、会場の空気の中に満ちていた。
舞台に上がるのは慣れている。
これまでにも何度も挨拶をしてきたし、今回も同じだと思っていた。
円卓に座りながら、子どもたちが踊るミュージカル用のパンフレットをめくった。
緑色の葉っぱが散りばめられた、美しいデザインの表紙。
その中には、自分が話す“作品の趣旨”を細かくメモしたページがある。
「では、作者の先生。ご挨拶をお願いします」
名前を呼ばれ、私はパンフレットを閉じて立ち上がった。
舞台の上は明るく、スポットライトに照らされて少し温かかった。
雲の形をした背景セットの向こうで、子どもたちがリハーサルをしているのが見える。
私はゆっくり深呼吸し、作品に込めた想いを語った。
雲のように形を変え、風に揺れ、いつか雨になって誰かを潤す物語。
そんな夢のような話。
拍手がまばらに、しかし優しく降り注いだ。
席に戻ると、さっきまで読んでいたパンフレットが、どこにもなかった。
「え? あれ……?」
テーブルの上にも、椅子の下にも落ちていない。円卓の仲間に尋ねても首をかしげられるばかりだった。
あの緑の葉っぱのパンフレットには、大事なメモが挟んであったはずだ。
けれど、その紙切れは――雲のように、ふっと消えてしまっていた。
私は、八時の布団の中で目を覚ました。
夢の余韻が、まだまぶたの裏に残っている。
パンフレット。
クラウド。
子どもたちのミュージカル。
そして消えたメモ。
それらはすべて、あのわずか二時間の夢の中で見た光景だった。
でもどこかで、私は思った。
雲のように消えるもの
だからこそ、
夢は美しいのだ。
静まり返った部屋。
またトイレに起きた。
夜中の十二時、二時、四時にも目が覚めていたから、まだ体が寝ぼけていた。
用を足す。「なんで“足す”っていうんやろ。出すだけやのになぁ」
そんなことを思いながら寝床に戻り、
布団に沈んだ。
次に目が覚めたのは八時。
わずか二時間の眠りだったが、妙に鮮やかな夢を見ていた。
そんな夢の話。
私は作家だった。今日は、自分が書いた劇の脚本の発表会と祝賀会が行われる日だ。
会場はざわついていたが、どこか浮きたっている。
タイトルは四文字の横文字。
んんと……
そう、「クラウド」。
雲。
ヌアージュ。ジャンゴ・ラインハルトの優雅な旋律が、会場の空気の中に満ちていた。
舞台に上がるのは慣れている。
これまでにも何度も挨拶をしてきたし、今回も同じだと思っていた。
円卓に座りながら、子どもたちが踊るミュージカル用のパンフレットをめくった。
緑色の葉っぱが散りばめられた、美しいデザインの表紙。
その中には、自分が話す“作品の趣旨”を細かくメモしたページがある。
「では、作者の先生。ご挨拶をお願いします」
名前を呼ばれ、私はパンフレットを閉じて立ち上がった。
舞台の上は明るく、スポットライトに照らされて少し温かかった。
雲の形をした背景セットの向こうで、子どもたちがリハーサルをしているのが見える。
私はゆっくり深呼吸し、作品に込めた想いを語った。
雲のように形を変え、風に揺れ、いつか雨になって誰かを潤す物語。
そんな夢のような話。
拍手がまばらに、しかし優しく降り注いだ。
席に戻ると、さっきまで読んでいたパンフレットが、どこにもなかった。
「え? あれ……?」
テーブルの上にも、椅子の下にも落ちていない。円卓の仲間に尋ねても首をかしげられるばかりだった。
あの緑の葉っぱのパンフレットには、大事なメモが挟んであったはずだ。
けれど、その紙切れは――雲のように、ふっと消えてしまっていた。
私は、八時の布団の中で目を覚ました。
夢の余韻が、まだまぶたの裏に残っている。
パンフレット。
クラウド。
子どもたちのミュージカル。
そして消えたメモ。
それらはすべて、あのわずか二時間の夢の中で見た光景だった。
でもどこかで、私は思った。
雲のように消えるもの
だからこそ、
夢は美しいのだ。
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