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― あなたが客になる日
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気がつくと、
雨は止んでいる。
でも、服は少し濡れたままや。
「こんな路地、あったっけ」
そう思った瞬間、
看板が目に入る。
摩訶不思議堂
古いのに、
なぜか“今の自分”にちょうどええ明るさ。
戸を開けると、
鈴が小さく鳴る。
「いらっしゃい」
カウンターの向こうに立っているのは、
洋服を着た女の人。
年齢は分からへん。
若くも、老いても見える。
――シェリーや。
「今日は、何をお探しで?」
そう聞かれて、
あなたは気づく。
自分が、何かを失いかけていることに。
言葉にできへんまま、
棚を眺める。
・使うと“あきらめられる”ペン
・鳴らすと“比べるのをやめられる”ベル
・飲むと“今日はこれでええ”と思えるコップ
値札は、どれにも付いてへん。
「お金は?」
と聞くと、
シェリーは首を振る。
「ここはね、
持ってる人ほど、買えないの」
あなたは、
無意識にポケットを確かめる。
時間。
後悔。
頑張りすぎた自分。
「……おすすめは?」
シェリーは、
何もない場所を指す。
「これ」
「何も、ないですけど」
「せやから」
彼女は笑う。
「今日は、何も起こらへん一日」
椅子を出される。
座る。
ただ、それだけ。
不思議なことに、
胸の奥で
ずっと鳴っていた音が、
少しだけ静かになる。
「これで、ええんですか」
「ええよ」
「帰って、
ちゃんと寝て、
明日また起きられたら」
「それ、立派な買い物や」
あなたは、
何も持たずに立ち上がる。
でも、
出る時に気づく。
靴が、
少し軽い。
外に出ると、
看板はもうない。
ただの路地。
ただの夜。
でも――
明日は、
ほんの少しだけ、
席を譲れる気がする。
それで十分や。
摩訶不思議堂は、
また必要になった時だけ、現れる。
戸は閉まる。
でも物語は、
あなたの今日に続いてる。
……
また来てもええで。
雨は止んでいる。
でも、服は少し濡れたままや。
「こんな路地、あったっけ」
そう思った瞬間、
看板が目に入る。
摩訶不思議堂
古いのに、
なぜか“今の自分”にちょうどええ明るさ。
戸を開けると、
鈴が小さく鳴る。
「いらっしゃい」
カウンターの向こうに立っているのは、
洋服を着た女の人。
年齢は分からへん。
若くも、老いても見える。
――シェリーや。
「今日は、何をお探しで?」
そう聞かれて、
あなたは気づく。
自分が、何かを失いかけていることに。
言葉にできへんまま、
棚を眺める。
・使うと“あきらめられる”ペン
・鳴らすと“比べるのをやめられる”ベル
・飲むと“今日はこれでええ”と思えるコップ
値札は、どれにも付いてへん。
「お金は?」
と聞くと、
シェリーは首を振る。
「ここはね、
持ってる人ほど、買えないの」
あなたは、
無意識にポケットを確かめる。
時間。
後悔。
頑張りすぎた自分。
「……おすすめは?」
シェリーは、
何もない場所を指す。
「これ」
「何も、ないですけど」
「せやから」
彼女は笑う。
「今日は、何も起こらへん一日」
椅子を出される。
座る。
ただ、それだけ。
不思議なことに、
胸の奥で
ずっと鳴っていた音が、
少しだけ静かになる。
「これで、ええんですか」
「ええよ」
「帰って、
ちゃんと寝て、
明日また起きられたら」
「それ、立派な買い物や」
あなたは、
何も持たずに立ち上がる。
でも、
出る時に気づく。
靴が、
少し軽い。
外に出ると、
看板はもうない。
ただの路地。
ただの夜。
でも――
明日は、
ほんの少しだけ、
席を譲れる気がする。
それで十分や。
摩訶不思議堂は、
また必要になった時だけ、現れる。
戸は閉まる。
でも物語は、
あなたの今日に続いてる。
……
また来てもええで。
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