Le Palais Vide/ル・パレヴィッド

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リスナー編

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 AicaihongがM24でちよこれchを倒した
 前張り低国民が八九式小銃でasashi_2015を倒した
 匿名(221)がヴェールに消えた


 キルログが続々と流れる。
 プレイヤーは縮小の中心地を目指した。


 この配信者杯では、後半まで生き残ったプレイヤーをキルするほど高得点が狙える。
 Danteは地下鉄日比谷線を迂回していた。
 敵がポイントを稼いで肥え太るまでは潜伏するつもりだろう。


 東銀座駅のプラットフォーム端の階段から線路に降りる。
 真っ暗の中、タクティカルライトの光だけを頼った。
 人間の気配はないが、そうやって油断していたのがさっきの奇襲なので警戒しまくっている。


『ホラゲより怖えよ……』


 Danteが視聴者に向けて愚痴をこぼす。
 みんな笑った。不正行為防止のため、試合中はチャット表示がオフになっている。
 だから、Danteは配信の様子を見れない。
 なのに語りかけてきたのは、本当に心細かったからだろう。


 けっきょく交戦することなく、築地駅までやってきた。


 あとは地上への階段の折り返しを登るだけというとき、Danteの視点が突如虚空に向いた。装備をM16からMP5に切り替える。一部の視聴者曰く、僅かに足音がしたらしいのを聞き咎めたのだ。


 階段は、一本道になっている。
 遮蔽物がなく、行動を制限される。
 そこをカモ撃ちされる未来しか見えない。


 というより、一〇〇%いる。
 といって、足音の他にまだ根拠がなかった。


『……』


 場数を踏んできたDanteをして、この階段を前に二の足を踏んでいる。
 メニュー画面を見たら、もうヴェールはDanteのすぐ背後まで迫ってきていた。


 確信がない。
 そこでDanteはアタッシュケースから錫杖を取り出した。


 シャラン、と特有の金属音が鳴る。
 貴重なインベントリーを消費してまで錫杖などという無用の長物を持ってきただけの理由が呼び出された。


『餓亜ッ!』


 影炎の痩身、獰猛な紅眼……影の猟犬、シャドーハウンドが姿を現した。


 杖、あるいは錫杖は、LPV唯一の魔法要素といっていい。
 といっても、炎や雷を出す杖ではない。
 シャドウという、影の存在を使役するための武器として扱われている。
 初期装備『二釻真鍮錫杖』では、影の猟犬、シャドウハウンド一体を使役することができた。


 おそらく、出入口を斥候させたいのだ。


 シャドウは影という儚い存在なだけに防御力が低い。
 シャドウハウンド単体では容易に対処される。
 が、待ち伏せがいるかどうかという囮目的程度なら、充分な役割を果たしてくれるだろう。


 そのはずだった。


 シャドウハウンドが期待に反して、目先の地上ではなく、何故か背後の地下に駆け下りていかなければ。


『どこ行くねーん!』


 その命令に聞く耳持たず、地下に消えていった。
 魔法の存在とはいっても、犬は犬なので、飼い主の意を完全に汲み取ってくれるわけではないのだ。


 作戦を狂わされる。
 仕方無しに、次なる一手として、スモークを投げた。
 視界を遮る白煙が瞬時に拡散していく。


 この手は一見、周囲に自分の存在を晒す愚策に見えた。
 もしも敵が待ち伏せていなかったら? いまからここを通りますよ、と知らせているも同然ではないか。


 どうやら、Danteのような熟練プレイヤーは思考回路からして素人とは違うらしい。


 全てが杞憂かもしれない――そうやって「期待」という名の運否天賦に自分の命を預けた途端、敵に生殺与奪権を委ねているのだ。
 その苦い味を知っているからこそ、経験者ほど「待ち伏せされている」という前提で動く。そこにいるかもしれない敵から身を隠すためなら、周囲に存在を知られようと構わない、というわけだ。


 スモークが充分に拡散したころ、満を持してオーバーピークしようとしたまさにそのとき、案の定、敵の雄たけびが聞こえてきた。


『呉亜亜亜亜ッ!』


 シャドウベアが襲来する。
 自らのスモークで視界不良になったせいで、Danteは状況把握に一手遅れていた。
 仕切り直すために地下に戻ろうとしてMP5で牽制したまではよかった。
 それが攻撃・防御とも優れたシャドウベアとあっては九ミリパラベラム弾では火力不足に終わる。


 すぐにM16に切り替えたのは歴戦のゲーマーの直感だろうか、九ミリ弾の数倍の威力一二五〇フットポンドの五・五六ミリNATO弾であれば、LPVに存在するであろう理論上最強のレベルⅣクラスのアーマー以外には完全な防御はできない。


『虞亜ッ!』


 さしものシャドウベアも堪らず、数発の射撃で影に溶けた。
 その陰に、稲妻の速度で肉薄してくる影がいる。


 なんと敵だった。


 その右手にはすでに抜刀済みの日本刀が構えられている。
 一部弾丸がコート越しにダメージを負わせたものの致命傷には至らずーー逆に敵の刃先はDanteに鋭い一閃を浴びせた。
 対銃弾を想定したケプラー繊維は対刃性は低いため、あえなくキルされる。


『どわー!』


 他ゲームでは凄腕プレイヤーといっても、やられるときはあっけなくやられる。
 キル後の真っ赤な画面越しに勝者の様子を見ていると、さっきDanteがそうだったように、物資漁りにふけっていた。Danteと同じようにマルボロに火をつける。キル状態のDanteに副流煙を吹きかけるさまは露骨に煽ってきていた。


『てめえええええ!』


 視聴者用に大袈裟な字幕がテロップされるが、勿論キル後のDanteの怒声は敵には聞こえていない。


 三越銀座店にリスポーンされる。
 あとは次の試合まで待つしかない。


 それまで自由時間であるが、解除されたチャット欄を見つつ、みっともなく言い訳を並べ立てていた。


『どうしようもないっていまのは~』


 ぽりぽりと頭部を搔いている。
 日本刀なんてショットガンの完全下位互換なのに見事に魅せプレイされたのが癪に障るに違いない。


 チャット欄では、同情的なコメントのほかに、相手への誹謗中傷が目についた。
 これという根拠もなしに「Danteってわかってたな」と決めつけている。
 あの煽りを有名配信者を利用した売名行為と解釈する者まで出てきた。


 なんだか荒れている。


 そこに拍車をかけたのが、その敵プレイヤーの容姿が明らかに十代中頃の子供だったことだ。ようは「子供なのに喫煙ってどうなの?」という揚げ足取りに近い中傷である。


 Xcoreは従来と異なり、五感を使うゲーム性のため、煙草を吸えば現実と同じ爽快感があるし、お酒を飲めば酩酊状態になる。道徳性の是非についてはハードが革新すぎるあまり法整備が追いついておらず、無法地帯というのが現状だった。


 だが、それがプレイヤーを叩くための方便というのは、みんなわかっている。
 本音は「子供のくせにプレイできてズルい」なのだ。


 その革新性のあまり、Xcoreが税込百十九万七千円という超高価格でなければ、そういう嫉妬が生まれることもなかった。
 昨今のゲームハードの高騰を踏まえてなお、桁違いに高額なXcoreはそう安々とは手が出せないのだ。
 いくらなんでも、ゲームハードのために百万円も出せるのは金持ちの道楽と叩かれて仕方ないだろう。


 動画勢の反応が気になった。


 コメント欄までスクロールしてみたところ、「キッズがプレイすんな」とか「今度のためにもここは徹底的に叩け」とか、投稿三時間にしては荒れていた。


 予想以上の熱量で怒っている。
 Danteが怒って見せたのはあくまでエンターテインメントとして盛り上がるからだったのに、多様な視聴者はDanteのためという錦の御旗のもと憤慨していた。


 その大会は優勝できずに終わった。
 どんな小規模大会であれ、優勝は難しい、ということだ。


 後日、プチ炎上した未成年喫煙疑惑について切り抜き動画を見たところ、「ああいうのもエンターテインメントとして見ろよ」とさりげなく相手を擁護していた。


 理解ある視聴者は「おめえも吸ってたもんな」とDante自身の過去の未成年時喫煙疑惑に触れつつ矛先を逸らす。Danteはアイコスを口にしつつ「うるせえなタバコなんて吸ったことねえよ」と朦々と煙を吐き出していた。
 おもしろい。
 ゲームスキル以外にも、こういう火種をうまく消せるトークスキルもまた、Danteの魅力だと思う。
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