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5. アレクとなった俺、暗殺者に会う
―― 新たな陰謀 ――
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王国議会が近ずくにつれ、俺は、忙しくなった。グレイ伯が中立に戻ったいま、ニコライ殿下の議会での優位は揺るがない。
そう心配することはないと思うのだが、アリシアから頻繁に連絡があり、議員たちのなかの有力貴族の動向を探り、ニコライ殿下の視察や裏ビジネスに護衛としてつきそい、反対派の貴族の説得に脅しとして使われたり、気を抜く暇がなかった。
議会が始まる一週間ほど前、またニコライ殿下から伝言があった。
伝言役であるアリシアが来たとき、ちょうどテレーズが来ていた。
テレーズの家で、アレクの母のマリアさんと会ってから、しょっちゅうここに来る。
何度か鍵のかかった家の前でじっと待っていたので、鍵のコピーを渡していた。もちろん、鍵は魔法で、テレーズしか利用できないようにしてある。
特定の人間にのみ開けられるようにする、ドアにかける魔法もあるが、魔法をかけた本人がいつでも解除できるので、人間不信気味の俺は、信用できる魔法使いはアリアたちしかおらず、早々にあきらめた。
アリシアは入ってくると、おやっという顔をした。
「――いらっしゃいませ」
応接室の椅子に腰かけ、俺の作ったスープを飲みながら、本を読んでいたテレーズは、素早く立ち上がって、にこやかな顔であいさつした。
王都の中央卸市場の店で店員として働いているので、接客にはそつがない。
「誰でしょう?」
朝食の片づけをしていた俺は、一瞬考えたあと、隠すことでもないと思い、普通に答えた。
「妹だ」
アリシアは、眼をまるくして、
「あなたに妹がいたなんて、聞いたことがありません」
そりゃあ、話してないし、アレクの母の王宮を出た後のことなんて、国王以外、誰も気にしていない。というか、20年も前のことだから、国王自身も忘れているかもしれない。ましてや、アレクの母の嫁ぎ先に、娘がいるかどうかなど、知らなくて、当たり前だろう。
「母の嫁ぎ先の娘さんだ。義理の妹だ」
「……そうなんですか」
アリシアは、自分も椅子に座ると、
「……よろしく。アリシア・モントレーです」
「こちらこそ。テレーズ・モルドーです」
俺は、テレーズに目配せした。
テレーズは、つまらなそうに、
「じゃ、帰るね。……また来る」
本を棚に戻し、手を振りながら、アリシアにもおじぎをして、帰っていった。
「かわいい方ですね。ちょっと、意外――」
俺が、アレクの母を援助していることは、情報伝達をになうアリシアなら知っているはずだ。義理の妹がいることは知らなかったとしても、説明したのだから、屋敷に訪ねてきていても、不思議はないはずだ。なにが、意外なんだろう?
「あなたでも、家族と食事したりするんですね」
俺が食事のあと片づけをしているのを、目ざとくチェックしていたらしい。
「そりゃあ、するさ。ひとりの食事は、味気ないからな」
アリシアは、また眼をまるくした。
アレクの性格的に、妹といっしょに飯を食うのはやめたほうがよかったか? いや、どうせバレるのなら、あけっぴらに公開しておいたほうがいい。テレーズは、これからも、この屋敷にくるだろうから、隠すようなことをすれば、アリシアやニコライ殿下に不信感を持たれるかもしれない。
「それで、殿下から何か?」
「グレイ伯爵の2番目のお嬢さま、グスタフ殿の妹御の、エミリー様のことです」
そう心配することはないと思うのだが、アリシアから頻繁に連絡があり、議員たちのなかの有力貴族の動向を探り、ニコライ殿下の視察や裏ビジネスに護衛としてつきそい、反対派の貴族の説得に脅しとして使われたり、気を抜く暇がなかった。
議会が始まる一週間ほど前、またニコライ殿下から伝言があった。
伝言役であるアリシアが来たとき、ちょうどテレーズが来ていた。
テレーズの家で、アレクの母のマリアさんと会ってから、しょっちゅうここに来る。
何度か鍵のかかった家の前でじっと待っていたので、鍵のコピーを渡していた。もちろん、鍵は魔法で、テレーズしか利用できないようにしてある。
特定の人間にのみ開けられるようにする、ドアにかける魔法もあるが、魔法をかけた本人がいつでも解除できるので、人間不信気味の俺は、信用できる魔法使いはアリアたちしかおらず、早々にあきらめた。
アリシアは入ってくると、おやっという顔をした。
「――いらっしゃいませ」
応接室の椅子に腰かけ、俺の作ったスープを飲みながら、本を読んでいたテレーズは、素早く立ち上がって、にこやかな顔であいさつした。
王都の中央卸市場の店で店員として働いているので、接客にはそつがない。
「誰でしょう?」
朝食の片づけをしていた俺は、一瞬考えたあと、隠すことでもないと思い、普通に答えた。
「妹だ」
アリシアは、眼をまるくして、
「あなたに妹がいたなんて、聞いたことがありません」
そりゃあ、話してないし、アレクの母の王宮を出た後のことなんて、国王以外、誰も気にしていない。というか、20年も前のことだから、国王自身も忘れているかもしれない。ましてや、アレクの母の嫁ぎ先に、娘がいるかどうかなど、知らなくて、当たり前だろう。
「母の嫁ぎ先の娘さんだ。義理の妹だ」
「……そうなんですか」
アリシアは、自分も椅子に座ると、
「……よろしく。アリシア・モントレーです」
「こちらこそ。テレーズ・モルドーです」
俺は、テレーズに目配せした。
テレーズは、つまらなそうに、
「じゃ、帰るね。……また来る」
本を棚に戻し、手を振りながら、アリシアにもおじぎをして、帰っていった。
「かわいい方ですね。ちょっと、意外――」
俺が、アレクの母を援助していることは、情報伝達をになうアリシアなら知っているはずだ。義理の妹がいることは知らなかったとしても、説明したのだから、屋敷に訪ねてきていても、不思議はないはずだ。なにが、意外なんだろう?
「あなたでも、家族と食事したりするんですね」
俺が食事のあと片づけをしているのを、目ざとくチェックしていたらしい。
「そりゃあ、するさ。ひとりの食事は、味気ないからな」
アリシアは、また眼をまるくした。
アレクの性格的に、妹といっしょに飯を食うのはやめたほうがよかったか? いや、どうせバレるのなら、あけっぴらに公開しておいたほうがいい。テレーズは、これからも、この屋敷にくるだろうから、隠すようなことをすれば、アリシアやニコライ殿下に不信感を持たれるかもしれない。
「それで、殿下から何か?」
「グレイ伯爵の2番目のお嬢さま、グスタフ殿の妹御の、エミリー様のことです」
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