ファンタジー/ストーリー

雪矢酢

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第一章

十五話 対話

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レフトとシフは機械墓地へ向かっている。

「シフ、先に言っておくよ」

「はい」

うわ~さそりを殲滅するとか言うのかなぁ~と想像するシフ。

「相手の出方次第だけどあくまでも話し合いにより双方納得して終戦させたい」

「わかりました。ですが話が通じない連中もいます。武力により虐げられるのはいつも市民です」

シフの主張はレフトに十分伝わっている。戦うことはなるべく避けたいレフトの意志もシフには十分伝わっている。そんな微妙な重苦しい空気が漂う。

墓地の入り口周辺はさそりの構成員が待機している。

「我々は復興機関とシーキヨ国の使者です。鋼鉄さそりの幹部に取り次いでいただきたい」

突然の訪問にざわついてる。
鋼鉄のさそりがただの武力集団ならばここで戦闘となるだろう。

「さて、どうなるかな」

「戦闘になったら、門番の殲滅くらいが限界ですよ~」

シフは苦笑しながら言う。

「お待たせして申し訳ない」

奥から以前会ったことのある男が走ってくる。

この人はおそらく四将軍のスコーピオンだろう。

「使者、ご苦労であるが鋼鉄のさそりのすべきことはただ一つなのだ。シーキヨをかつての栄光ある都市に再建することだけだ」

スコーピオンは体育会系、ガテン系に分類されるだろう。屈強な肉体に根性論などがそれらを想像させる。

「シーキヨは十分復興しており、治安は良かった。それを突然鋼鉄のさそりとかいう自警団が出現して武力により市民の不安を煽った」

普段冷静なシフだが、いきなり大声でスコーピオンに反論する。

「今の平和はまやかしにすぎないのだ。我らが主に会うとよい」

レフトはガトリンのような一方的なサイボーグや弱者をいたぶる団員などから、この団体は調査する必要があると判断していた。

「国家の使者とは言いましたが、彼は正式に任命されたわけではありません」

「えっ」

「!」

レフトの発言に双方が驚く。

「彼は国家の使者ではないが、今のシーキヨに住んでいる市民。スコーピオンさん、これが何を意味するのかお分かりですか」

レフトは謎かけのようにスコーピオンへ問う。
この問い、シフはすぐさま理解したようだ。

「ふむ、住まう者か…つまり市民の代表としてこの場へ来た、そうであろうか?」

「はい、その通りです。無礼な物言いをして申し訳ない。国家も自警団も時には市民を苦しめる場合があるのです。もちろん市民とて国家や権力に甘んじてはいけない。全てはバランスであり、文明が復興するまではこのバランスを重視しなくてはならないんだ」


珍しくレフトが熱く語る。


しかし…
さそりの構成員はあくびをしている。
シフやスコーピオンも眠そうにしている。

…。


もはや言葉では解決しない。
いや、元々言葉で解決するのがムリだったのであろう。

「我々は相容れぬようだな。我らが主へ会いたいのであればこのスコーピオンにうち勝ってみせよ」

スコーピオンは短剣を取り出し戦闘態勢になる。短剣の刀身には液体が塗られており剣には細工があるようだ。

「くっ、やはりこうなってしまうのね…」

そんなスコーピオンを気にもせず説得に失敗したレフトは残念そうにしている。

「どうやら毒っぽいですね…あの短剣は厄介ですよ、ここは協力して…」

シフはレフトに共闘を願い出る。
だが…。
レフトは衝撃波を発生させてスコーピオンを攻撃。
かまいたちのような風の刃がスコーピオンに命中して、短剣や武装していた鎧は砕け散った。
その衝撃で身体は吹き飛び、彼は一瞬で戦闘不能になった。
そしてゆっくりとスコーピオンに近づくレフト。
その顔に慈悲は無い。
シフは急展開とレフトの想像を絶する実力に恐怖を感じガタガタと震えている。

「…う、ぅあ…」

スコーピオンは顎の骨が砕けたようである。
手足は変形し衝撃の威力が強烈だったのがよくわかる。起き上がることすらできない彼にレフトは剣を振り下ろす。
直撃の寸前で止めたが恐怖のあまりスコーピオンは気絶した。

「さあ全員かかってこい、相手になるぞっ!」

レフトは大声で構成員を挑発する。

「ちょ、レフトさん、さすがにそれはまずいですよ!」

「…やはりそうか…思った通り、構成員は許可なく戦わない、戦えないんだ」

「えっ」

「この集団の主はおそらく幻術使いだ」

「幻術?」

「強力な催眠術みたいなものだろう。仕組みはわからないが術を強化する道具のようなものがあり、それを破壊すれば術は解除されるはず。そしてこの戦争は終わる」

レフトはスコーピオンに治癒魔法をかける。そしてシフと墓地内部へ入っていった。
次回へ続く
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