ファンタジー/ストーリー

雪矢酢

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第一章

十七話 終戦

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嵐のような魔法が墓地内部を破壊していく。作業をしていた構成員は皆、我先にと逃亡する。

鋼鉄のさそりはもう終わりだ。

右腕を失ったゲーハは思う。

「強いことはわかっていた。レフトーラ、オメガ、ニナの三人は復興機関ではトップクラスの実力者だ。警戒していたし、なるべく戦闘は回避していた。これはもう科学の力でどうこうなる問題ではない」

カレンの精神は崩壊しており、この状況下でさえ説得らしきものを続けている。

「レフト、あなたの魔力が暴走しているわ、お願い、私はあなたを攻撃したくないわ」

「カレン、こうなる前になんとかしたかったのだが…」

レフトに迷いがあるのを察知したカレンは即座に攻撃態勢になり刃をレフトに向ける。
殺意ある突きがレフトを急襲する。

「よしっ!カレン」


ゲーハは歓喜する。


しかし
刃はレフトを覆う魔力のオーラを貫けず、剣はぼろぼろと崩れ落ちた。

「そんな…」

カレンは完全に戦意を喪失した。
レフトの前に崩れ落ちた。

「カレンとの決定的な違いを教えるよ」

崩れ落ち泣き顔の者にレフトは告げる。

「カレンは私に剣を向けない。どんな理由があろうがけっして…」

そういうとレフトは右手を上へあげる。
魔力に包まれてフワリと彼女は浮かび、そのまま壁に激突した。
その時の衝撃でいくつかの骨が砕け、ショックにより意識を失った。

「残るはお前たちだ」

レフトの視線はゲーハとソサリに向けられる。
ゲーハは胸元から怪しげな注射器を取り出す。

「このままでは終われない」

ゲーハは腕に注射器を刺すと、筋肉が隆起し巨大化。
薬品で失った腕は再生し爪が伸びモンスター化。
追いつめられた科学者の末路といったところだろうか。
化け物となったゲーハはその勢いでレフトに襲いかかる。素早い動きで魔力の嵐を突っ切り鋭利な爪をレフトの顔面に振り下ろす。

「なっ…」

カレンの突きと同様に魔力のオーラを貫通できず爪はぼろぼろと朽ちた。
レフトはすぐに反撃。
右手から炎を放ちゲーハは炎上する。
絶叫しながら悶え苦しみゲーハは灰になった。

連続して魔法を使用しているがレフトに衰えは一切なく、同じく魔法を使用するソサリはその圧倒的な戦力差を痛感していた。
四将軍は全滅し本拠地は崩壊。
魔法の杖は折れてしまい魔力を使えない。

「レフトよ、見事だ。我が鋼鉄のさそりはお前一人に殲滅された」

レフトはソサリに人差し指を向ける。
高速の光弾がソサリの左肩に刺さり、そのまま身体ごと壁に突き刺さる。

「ぐぁ…」

吐血するソサリ。
しかし、レフトはさらに光弾を放ちソサリを撃ち抜く。

「…レフトさん、やりすぎでは…」

シフは恐る恐るレフトの顔色を伺う。

「シフ、こいつは人ではない」

「えっ」

滅多打ちになったソサリは流血とダメージで人としての原型がない。
左肩に刺さった光弾が身体をかろうじて支えている状況だが眼は怪しく発光している。

「内側から魔力を感じた。モンスターが魔力で凶悪化したか、動物の類いが変異したのか…」

するとソサリは先ほどのゲーハと同じようにモンスター化する。
正体は白黒の巨大なさそりだ。

大きさは3mほどで強靭そうな白い尾が特徴的だ。 
巨大さそりは尾をレフトめがけて振り下ろす。しかし強靭な尾ですらオーラを貫けずぼろぼろに分解され音もなく朽ちた。
尾を失ったさそりは左右のハサミで攻撃するが全て回避されたあげくにカウンターの火炎魔法により両ハサミは炎上。

「魔力で強力された炎だからちょっとやそっとじゃ消えないよ」

レフトは冷酷に言い放つ。
バタバタと暴れ、室内のあちこちが破壊される。
火はさそりの全身から部屋内部に燃え移った。

「シフ、脱出しよう」

レフトはシフに駆け寄る。

「彼女はどうする…」

カレンに視線を向けるシフ。

「一緒に脱出しよう。いろいろ聞きたいことがある」

シフとレフトはカレンに駆け寄り脱出を告げる。

「火の勢いがはやくて、ここはもうもたない。カレン、歩けるだろ?脱出するよ」

火は燃え広がり、さそりはついに倒れた。
焼き崩れたところに光る物体が確認できる。

…あれはなんだ?
この炎でも無傷で光輝くとは、
なんらかの魔法が付呪されている可能性がある。

レフトは正体を暴く必要があると判断するが、
この燃え盛る状況に負傷者二名。

「さあ急いで脱出だ」



脱出中、墓地内部は魔法が解除され、荒地のような光景になっていた。

「ソサリの魔力とこの場所に特別なパワーがありそうだね。見えていた墓地の半分以上は幻術によるものだろう」

「…気づかなかった…全くわからなかった」

「大規模な結界と考えられ、破るのは難しかった。詳しく調査したいが今はとにかく脱出しよう」

構成員も脱出しており、三人は無人の荒れ地をひたすら走っている。
後方からは爆発音がしたり、墓地は文明崩壊してわずかにもかかわらず再び崩壊した。


正面入口には救護班がスタンバイしており、国家と復興機関のメンバーが協力して負傷者の対応をしている。
また、行き場を失ったモンスターが入口に集まるなどの事態が発生しており、国家の軍がこれに対応している。鋼鉄のさそり残党も動ける者は軍と協力してこれにあたっている。

カレンとシフを救護班に頼み、レフトは崩壊していく墓地を眺めていた。

「これでシーキヨは落ち着くだろう。後はゼットの行方だ」

カレンが何か知っていればいいのだが…。
情報の提供や機関になんらかの貢献をしないと除名処分は確実だろう。
確か既に処分が告げられていたはずだ。
シフは本人次第だが、機関に属し、情報課か派遣課に配属が望ましい。


唐突なシーキヨ支部救援はいちょうこれで目処がついたと言えるだろう。
…とレフトは勝手に思っていた。

気になることは多いがさそりの擬人化と光る物体、そしてゼットの行方。
謎は残っているが終戦して、
みんなが協力し合っている姿にレフトは安堵した。

次回へ続く。
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