ファンタジー/ストーリー3

雪矢酢

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第一章

十一話 鳥人

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「ベルーナか……どこかの販売店みたいな名前だね…」

「えっ」

「いや……ごめん。それより鳥人と話すのは初めてだよ」

「みたいね、実際はホープも言ってたように人と変わらないわよ」

アレサとレフトは荷造りをして集落を出ていた。
目指すはベルーナという鳥人が運営する宿だ。戦闘を離れ久しぶりに二人の時間を楽しんでいる。アレサはもじもじとレフトの手を眺めている。

「ベルーナさんは女性なのかな…」

レフトのその言葉にピクリと反応するアレサ。

「さあ、そんなの知らないわよっ」

急に不機嫌になるアレサ。
その様子に戸惑うレフト。
よく見かける夫婦の光景である。

「え…どうしたのアレサ?」

「もう、いいわよ…」

ふてくされるアレサだったが、宿が見えてきた瞬間に顔色が変わる。

「…アレサ…ごめんね、機嫌を…」

「静かに…宿の様子がおかしいわ」

「えっ…おかしいって…」

レフトは嫌な予感がした。
またトラブルか。
二人は宿と距離をとりつつ周囲を警戒する。

「…見張りがいるわね。どうやらトラブルみたいだわ」

「……」

レフトは無言で剣に手を置く。

「待ってレフト、ほらみて」

宿から強面の男性と清楚で物静かな印象の女性が出てくる。

「あの女性が鳥人だわ」

「…そうなの?」

「うん。男性は…人だわ。つまり女性がベルーナね」

「…」

見分けができない…。
とはいえ今、宿は非常事態。
盗賊らしき数名が男性を痛めつけている。
女性は拘束され身動きがとれない。

「助けよう」

「いえ、大丈夫。あの女性…」

すると女性の目つきが変わる。
男性を痛めつけていた盗賊たちは手を止めて女性をみる。
なんと拘束を自力で解き鋭い眼光で盗賊たちを睨む。

「強いわ、あの女性」

腕を組み様子を見ているアレサ。
襲いかかる盗賊を次々と倒す女性。
最後の一人になると、盗賊は小さな角笛を取り出し、ニタニタ笑いながら吹いた。
すると宿から獣人が現れる。

「あら獣人じゃないの」

「あの獣人…どこかで…」

ガーデンにそっくりな獣人が女性の前に立ちふさがった。

「ほう浮遊剣のベルーナか。その実力をみせてもらおうか」

この女性はやはりベルーナだった。
どうやら二つ名があるようで、それは浮遊剣らしい。
剣を使うらしいがベルーナは剣を持っておらず体術で獣人と戦っている。
屈強な獣人に華奢な女性の体術では効果がないように見える。

「浮遊剣を見せろと言って、普通丸腰で戦わせるかな…」

レフトは獣人のとんちんかんな発言にツッコミを入れていた。
アレサはそんなレフトのツッコミはスルーし戦局を分析。

「レフト、このままだと宿泊できない…ベルーナが不利よ」

「宿泊って…ベルーナさんは剣がないと…」

二人は宿へ走った。
レフトは剣ならば…とゾルムの剣をベルーナへ投げた。

「ベルーナさん、この剣をっ」

「えっ」

ベルーナは剣を受け取った。
獣人はレフトたちを睨みつけたが、すぐにベルーナが攻撃し激しい戦いが始まった。
アレサが盗賊を無力化しレフトは男性に回復魔法をかける。

「あ、あなた方は…」

「あの、これが済んだら宿泊を…」

このような事態なのだが申し訳なさそうにレフトは伝える。
宿泊と聞いて大笑いする男性。

「これは失礼しました。お客様でしたか」

「はい、部屋が空いてますか…」

「空いてますよ、ぜひ宿泊を」

意気投合する男性とレフト。

「ちょっと二人ともっ」

そんな二人を注意するアレサ。
ベルーナは受け取った剣を何故か抜刀しない。

「あれ、何で剣を抜刀しないのかな?」

「んっ…あの剣は…」

追い込まれるベルーナ。
レフトの方をみて、剣を指差し抜刀できない素振りをした。

「おそらくあの剣は幻獣から譲り受けた者しか抜刀できませんよ…」

「…そうなの…」

ベルーナは剣をレフトに投げ返した。
茶番劇のような動きに獣人は激昂しさらに戦闘力をアップさせた。
見かねたアレサが動くがレフトはそれを止める。

「レフト…」

「たまには前に出させてくれるかい?」

「ふふっ」

「ありがとうアレサ…って」

「ダメよ、あなたは後ろ」

「…」

沈黙するレフトと男性。
アレサはすっとベルーナの前に立ち獣人の攻撃を受け止めた。

「き、貴様…邪魔するのか」

「あなたは…」

突然の仲裁に戸惑う二人。

「獣人よ、お眠り」

そう言うとアレサは獣人の腹部にきつい一撃入れた。
腹をおさえ苦しそうに後退する獣人。
やがて立っているのが困難になり座り込んでしまった。

「あなたはベルーナね?」

「えっ…はい、私はベルーナですが…」

「しばらく宿に泊めてくれる?」

「お、お客様でしたか…」

盗賊たちは獣人を担ぎどこかへと撤退した。
ベルーナは宿の中を片付けるといい、レフトたちをテラスらしき場所に案内し待機させた。
ひと息つく二人。

屈強な男性の名はダン。
やがて彼もベルーナをフォローするため宿へ入っていった。

「浮遊剣か…」

「ああ、みてみたかったね」

「ベルーナは強いのだけど強さの本質がわからないわ」

「えっ…」

「得意な戦闘スタイルというか…」

「ああ、そういうことね。浮遊剣ならやっぱり剣士なのかも」

「そうね…まあ詮索は止めましょう。ここには静養に来たのだし」

「わかった」

のどかな場所にあるこの宿は、旅人に人気がある。また、人ごみや社会に疲れた方が静養するにはもってこいである。


次回へ続く
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