元聖女と望国の王子たち ~きみに選ばれる物語~

藤原いつか

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【共通話】空の楽園

旅立ち前哨戦①

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 “御伽おとぎの国”――フィラネテス。

 国民に知られることなくこの国は、永きにわたり王家の陰湿な呪いに蝕まれていた。
 王子たちの身に宿る呪いを解く為に異世界より召喚されたのが――夜伽聖女、セレナだ。


 国の危機を誰にも知られることなく救った“夜伽聖女”と“呪われた王子たち”の存在がひっそりと消えて一ヶ月と少し。
 先行きへの不安は多々あれど国の表向きは至って平穏な日々を過ごす中、ひと際穏やかでは居られない者たちの集う秘密の部屋が城内にある。
 集うのはこの国の王子たちで、理由は彼らの唯一無二の少女――“元”聖女のセレナについてだ。

 夜伽聖女としての役目を終えたセレナは、現状はまだ彼らの手の内に居る。
 今は、まだ。
 誰のものにもならず、誰を選ぶこともなく。


 ***


「――あれ、絶対ボクが最後だと思ったのに」

 扉を開けて室内を確認したディアナスが、目を丸くしてそう零す。

 既に自分以外が揃っていると思っていた四人の兄弟達の内、室内に居たのはふたりだけだった。
 そのふたりがまるで対照的な表情かおと態度でディアナスを迎える。その様子に僅かながらディアナスはげんなりと肩を落とした。

 ひとりは扉から一番遠い席に座る長兄イリオス。完全無欠の第一王子の仮面を貼り付けたイリオスの、穏やかに見える表情は常に変わらない。金色の髪の隙間から覗く濃紺の瞳が独特でいて異彩な雰囲気を放っている。彼に逆らえる者はそういない。

 もうひとりは体裁など微塵も気にせずありのままを表に出す第二王子のアレスだ。短期で粗野で直情的。今現在も不満をたっぷりと顔に乗せたまま背もたれに身を預けている。

 アレスの僅かな身じろぎに腰に下げたままの剣が小さく音をたてた。王子であるアレスの帯刀は特例だ。王族の正装よりも直属騎士団の制服を普段着とするその恰好も夏仕様へと変わっている。肩元から背中へと長く編みこんだ赤い髪は相変わらず鮮烈だった。同じ色の瞳は憤りに燃えている。

「ふたりは準備もあるから忙しいんだろうね。とはいえ欠席するとの連絡はないからそろそろ来ると思うよ」

 固く広いテーブルの一番上座に座り、主に場を取り仕切るイリオスがやんわりと返してディアナスに着席を促す。ディアナスも黙ってそれに頷いた。そこまで時間に厳しいわけでも緊急性のある議題でもない。

 僅かに距離をとった席に腰を下ろしながらきっちりお詰められていた襟元を緩めてようやく息をつく。咎める者はここには居ない。
 ここは半分血を分けた兄弟だけが集うことのできる特別な部屋だ。誰にも邪魔されずに大事な話をできる場所。不定期に開催されるこの場の議題は自分たち王子に関わるものが主だ。

 学院が終わってその足でこの場に向かったのでディアナスはまだ制服のままだった。初めて男物の制服に腕を通してから季節は変わりその袖は短いものになっている。
 それでも王族貴族子女の通う由緒正しい学院の無駄に畏まった制服がディアナスは未だ苦手だ。

 15歳の誕生日を迎えるまでディアナスは女子生徒用の制服を着て通学していたので違和感が拭えないのは仕方ないのかもしれない。けれどデザインが古臭くてどうにか変えたいと内心制服の改変を割と本気で目論んでいる。
 ただしいくらこの国の第五王子であれど自分にそこまでの権限は無い。
 兄弟の中でただひとり城外で育ち成人を機に城に移ってきてまだ日の浅いディアナスに、王子として持っているものは実に少ないのが現実だ。未だにいろいろ慣れない。

 日々不満と疲弊を募らせているディアナスの耳に、更に不満そうな声が届く。


「……あいつら、本当に三人だけで行くつもりなのか……?」

 憮然とした態度のまま口を開いたのはアレスだった。
 基本的に思ったことをそのまま口にする後先考えない性格のアレスだが、何も考えていないわけではない。
  今何よりも思考を占めているのはここには居ないふたりの弟とひとりの少女のことだった。


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