魔王様は聖女の異世界アロママッサージがお気に入り★

唯緒シズサ

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間違って召喚されたようです

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「召喚は成功しました」

 アルトの心地よい声が聞こえ、レイラはうっすらと目を開けた。

「さすがはシス様」

「聖女様がいらっしゃった!」

 周囲では成功をたたえる感嘆の声と、賛美が飛び交っている。
 
 場所は広い礼拝堂のようで、天井と部屋の奥に大きな極彩色のステンドグラスがある

 レイラのすぐ隣では先ほど公園ですれ違った女子高生が立っており、呆然と一点を見ていた。

「天使様……」

 彼女の視線の先には、二〇代前半ほどの長くて白っぽい衣を着た中性的な美しい青年がおり、ゆっくりと優雅な足取りでこちらに近づいてきている。

 癖のある金の髪に色の白い肌は、確かに天使のような印象を与える。エメラルド色の瞳が宝石のように輝いている。

 白い法衣のようなものを着た本を抱えている女たちや、槍や剣を持った男たちが数人、部屋の隅にたたずんでこちらをみている。

 青年はぴたりと女子高生の前で足を止め、ふわりと天使のような美しい笑みを浮かべた。

「大地を癒す聖女様、異世界より、よくぞ召喚にこたえてくださいました」

 青年は膝をつくと、少女の手を取った。

 本当に異世界なの!?

 少女が公園で叫んでいた言葉を思い出し、レイラはぎょっとする。

 タチの悪いいたずらだと思いたいが、先ほどの奇妙な体験は現実離れしすぎていた。

「お名前は?」

「あ……マヤは、志田真彩っていいます」

「かわいらしいお名前ですね。私のことはシスとお呼びください」

 なるほど、自分のことを自分の名前で呼んじゃうタイプか。

 レイラがのんきなことを考えているうちに、シスと名乗った青年はにこりと微笑み、マヤと共に歩き出した。

「お部屋にご案内します。説明はそちらで」

「ちょ、ちょっと待って!」

 レイラは立ち上がる。

「私は関係ないなら、今すぐ元の場所に戻してくれる? 明日、急ぎの用事があるのよ」

 シスはようやく気づいたといった様子で、レイラを見た。

「みすぼらしいのがくっついてきたな」

「えっ?」

 聞き間違いかと思ったが、ごみでも見るような冷たい目線でレイラを見ているので、間違いではないようだ。

 ぞくりとしてレイラは思わず体をこわばらせた。

「呼びもしていないのに勝手についてきて、図々しい」

 レイラは身勝手な男の言葉に眉宇をひそめる。

「道を歩いていただけの私を勝手に巻き込んだのはそっちじゃない!」

 理不尽に責められることはしていない。

 マヤはくすくすと笑う。

「おばさんて、どこの世界でも図々しいから」

 いや、本当に失礼な子供だな。

 味方をしてくれると思っていたマヤは、あっさりと今の異常な状況を受け入れて、何の承諾もなく自分たちを拉致してきた男たち側に立っている。

 頭おかしくない? それとも世代間の感覚が違いすぎるのだろうか。

 とにかく順応力が高すぎる。

 シスは法衣を着た男性の耳元でささやく。

「この儀式にはサミエール様も関心を寄せておられる。足元をすくわれる不安要素はあってはなりません」

 少し離れているので、口元は見えなかったが、なぜかレイラにはシスの声をはっきり聞き取ること
ができた。

「他の者に気づかれないように年を取った方は、始末してください」

 ぞっとするような冷たい声音だった。

 命じられた男性は、チャキっと音を立てて手に持つ槍を握りなおした。

 これはまずい。

 レイラには元の世界に戻って、やることがある。

 幼いころに離ればなれになった妹と再会して、社長が引退するまでそばで支えていきたかった。

 だから、こんな場所で死ぬわけにはいかない。

 レイラはぎゅっとカバンを抱きしめて、あたりを観察した。

 礼拝堂にいるのは二〇人ほど。

 武装している男たちにはかなわないだろうが、女性ならあるいは……。

 一人の女性の後ろに大きな窓がある。

 その窓に木々が見えることから1階だということがわかる。

 レイラはふっと息を吐いてうつむく。

 いける。

「さあ、聖女様、こちらへ」

 マヤの手を取ってシスが礼拝堂の出入り口に向かって歩き始めた瞬間、みんなの意識が二人に集中した。

 その隙に、レイラは走り出した。

 レイラに気づいた兵士が、レイラを捕まえようと腕を伸ばす。

「待て!」

 自分に向かって走ってくるレイラに驚いて硬直している女を突き飛ばして、その後ろにあるガラスの扉に体当たりをした。

 ガッシャン!

 けたたましい音を立ててガラスが割れ、レイラの体に衝撃が走る。

「うっ!」

 頬と首、そして腕に鋭い痛みが走った。

 レイラは何とかパンプスで踏ん張り、ガラスの散らばったバルコニーで転倒することを免れる。

 血が地面にぽたぽたと落ちた。

 出血はしているが、体は動く。

 ひどい怪我にはならなかったようだ。

「逃がすな!」

 我に返った青年が鋭く叫ぶが、レイラは目の前に広がる森に向かって走り出し、しげみの中に飛び込んだ。

 頬を木の枝がひっかいていくが、痛みはほとんど感じなかった。

 先ほどのガラスの痛みも、興奮状態にあるためか全く感じない。

「追え!」

「捕らえろ!」

 後ろから怒声が聞こえてくる。

 このままではすぐに追いつかれてしまう。

 40歳のレイラは、若いときと違って年々体力は衰え、徐々に体重も増えている。

 それでも立ち止まるわけにはいかない。

 止まったら殺される。

 その強迫観念だけで、木の幹に足を取られながらも走り続けた。

 こんなに長い間、走ったのはいつぶりだろう。

 レイラはしびれる足を叱咤しながら、足を動かす。

 はぁはぁと自分の息が静まり返る森の中に響く。

 逃げた後はどうするのか考えていなかったが、あの場にいたら捕らえられて、殺されていただろう。

 足首に鉛がついているように重い。

 そう考えた瞬間、レイラは足をもつらせて転倒した。

 体を強く打って、息ができなくなる。

 レイラの目の前にある茂みが揺れた。何かいる。

 森の中は昼間だというのに薄暗いので、何がいるか見えない。

 レイラはもがくように立ち上がり、逃げ出そうとした。

 ガサガサッ

 次の瞬間、目の前の茂みから大柄な人影が飛び出し、レイラの首筋にかみついた。
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