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1章

13.

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レガスとはあの会話の後しばらくしてから別れ、私は父様を探しているところだ。レガスも一緒に探すと言ってくれたのだが、1人残されているセリオス王子の事が気に掛かり、そちらに行ってあげてとお願いすれば渋々了承してくれた。


子どもの背丈なので目線が低く、なかなか父様を見付けられない。何となく人混みに流されているうちに、気付けばパーティ会場からだいぶ離れた所まで来てしまった。

「ええと、ここはどこかしら。あっちから来たわよね?いえ、こっちだったかしら?」
迷子のテンプレのようなセリフを言ってしまった。


迷ってしまったのなら仕方ない。こういう時こそ慌てないのよ、リザベル!

とりあえずベンチがあったので腰掛ける。ずっと歩き通しで疲れちゃったのよね。

ふと空を見上げると、雲一つない晴天だ。
ぼんやりと眺めながら、先程のレガスの言葉が蘇る。
ゲームでの彼は施設を去った後、お城に戻るのよね。でもその後の事はよく分からない。
レイドは攻略対象者ではなく所謂ヒロインのサポートキャラだったから、自分の事はあまり話してくれなかった。

城に突然現れた異世界人に、誰もが不審者だと警戒する中、レイドだけはヒロインの話を親身になって聞いてくれる。
不遇な境遇にもめげず明るく前向きな性格のヒロインに好感を持ち、母親(私の事ね)に囚われているカイルの心を救う手助けをしてくれる。
あの時のレイドは格好良かった。渋いイケオジという感じで。

攻略対象者は全員で4人。

1人目はカイル。国の第一王子って王道よね。

2人目は騎士。年上だけど、可愛らしい感じで女心をくすぐられたっけ。

3人目は私の弟のケイト。格好良いというより、美人系。立派な公爵に成長してて・・・あ、ダメ。姉様泣きそう。



そして、4人目は───




カサッ



誰かの気配がした。
生垣の側で何かが動いている。


近付いて見ると、小さな男の子が蹲っていた。帽子を目深に被り、顔がよく分からない。


「どうしたの?どこか痛いの?それとも、迷子かしら?」
そういう私も迷子なのだけど。


男の子は私の声にビクッと反応し、何も言わずに走り去ってしまった。

「あ、ちょっと・・・」
「リザベル!」

男の子に呼びかけるのと同時に、父様の声がした。

「こんな所にいたんだね。どこを探してもいないから心配したよ。ライアンの息子に聞いても、別れたきり知らないと言うし。」
「ご、ごめんなさい。父様を探している内に、迷子になってしまって・・・。」

父様の息がだいぶ上がっている事から、随分探してくれていた事が分かる。顔色も悪い。
のんびり休憩していた自分に反省する。

「うん、いや、私もすぐに戻らなくて悪かった。ライアンの奴が離してくれなくてね。さあ、もう戻ろう。王妃様がお見えになったよ。」
「はい。」
父様と手を繋いで歩く。


会場に戻ると、王妃様の周りにはすでに位の高そうな貴族達が集まっていた。
なんて言うか、派手?な感じの集団だ。
・・・失言だったわね。煌びやかな集団だ。

父様に気付いた王妃様が優雅に手招いてくれる。その瞬間、集まっていた雅な方達がサッと退いた。父様、何だか私達睨まれてません?

「ニコラス、待っていたのよ。」
「遅くなり申し訳ありません。王妃様、私の娘のリザベルです。」
父様に紹介されて、前に出る。

物凄くゴージャスな見た目!
目がチカチカして眩しい。物理的な意味で。
何とか気合で瞬きを我慢する。

「ご機嫌麗しく存じます、王妃様。リザベル・フォリスと申します。お会いできて光栄です。」
「あら、可愛いらしい子ね。ふふ、やはり息子よりも娘の方が良いわね。セリオスなんて、最近ちっともわたくしと話してくれないのよ。今日は珍しく茶会に来てくれたけれど。」

シャラ・・と王妃様が動くたびに装飾品が揺れ、光が反射する。
何だかセリオス王子とは違う意味でキラキラしているわ・・・。


「息子とはそういうものですよ、王妃様。そうだ、娘が欲しいのなら、うちにもおりまして・・・」
「いや、うちの娘の方が・・・」

王妃の発言を皮切りに、次々と"自分の娘を王子の婚約者に!"と騒ぎだす。
私は押し出されてしまい転びそうになるが、父様が支えてくれた。






「何の騒ぎですか、母上。」





先程までの喧騒から一転、静寂が辺りを包む。


冷たい目をしたセリオス王子が立っていた。



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