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メイドたち、そしてエリザベートとの簡素な茶会を催した翌日、想定外の客人がこの館を訪れることとなった。
「かいもーん!!!!」
威勢のいい、透き通った声が響き渡った。
「誰ですかね、こんな朝っぱらから……」
メイド長のセシリアが首を傾げた。
「ひょっとして……いや、まさかそんなことはないわよね……」私の脳裏にある人物がよぎった。
「誰か……お心当たりでもあるのですか?」セシリアは訊ねた。
「いや、多分違うと思うんだけど、一応見てきてくださる?」
セシリアはお辞儀をして、そのまま玄関へ向かった。
*************************************
「遅いぞ……何分待たせるつもりだ?」
客人はいきなり鬼の形相でセシリアを睨み付けた。
「お前はマリアではないな。マリアはどこに行ったのだ?」
「あの……どちら様ですか?」セシリアは訊ねた。
「どちら様って……お前ひょっとして私のことを知らないのか?見たところメイドの出で立ちをしているが、マリアから何も聞いていないのか?」
「さあ、私どもは公爵家にのみお伝えする立場でございますから、我が女主人のことについては大方把握しているつもりです。そこから推察致しますに……あなた様のような礼儀知らずの殿方は存じ上げませんね!」
セシリアは大部ケンカ腰だった。客人はこの態度を受けて、本気で怒り出した。
「お前……本気で言っているのか?私を知らないと……はあ、そうか。だからこそ、これほどの不敬が働けるのだな!!」
客人はピストルを懐から取り出し、セシリアに向けた。
「一発撃ってもいいか?」
「それは殺人になりますわ……」セシリアはさすがに怖くなったようだった。
「殺人だって?私を裁く権利があるのは、現状皇帝陛下のみだ!」
「皇帝陛下ですって?へえっ……随分と恐れ多い方の名前をお出しになるんですね。それははったりですか?」
「はったりではない。ああ、ここがマリアの住む館でなければ、とっくにお前を殺しているところだが、ここをすぐさま通してくれるのならば、命だけは助けてやってもいいぞ」
「……ですから、お名前を教えていただかないと……」
「お前、本当にめんどくさい奴だな。ああ、分かったよ。じゃあ、こう言えばいいか?マリアの婚約者である王子のスミスだ!」
王子スミス……こう聞いて、さすがのセシリアも狼狽えた。
「あなた様が……スミス様なのですか!?」驚きを隠せなかった。
「ああ、そうだ。婚約者に会いに来たんだ。これでいいか?さあ、早くどくんだ!」
客人はピストルを上空に目がけて一発撃った。セシリアは一歩引き下がった。その瞬間を狙って、客人は館に入って来た。
「マリア!会いに来たぞ!」
客人の正体は予想通り私の婚約者だった。
「スミス王子……どうして?御一人でいらっしゃったのですか?」
本来はあり得ないこと……将来の皇帝陛下になるべく人物が、厳重な警護を引き連れずにやって来るということはあり得なかったのだ。
「ああ、王宮にいてもめんどくさいだけだからな。お前にプレゼントだ……」
スミス王子は、ここを訪問する前にたくさん準備をしているようだった。簡単な挨拶を終えると、私の大好きな花束をプレゼントしてきた。
「この時期はお前の笑顔がひと際映えるものだな……」
感慨深く、色々と考えているようだった。スミス王子が私の元を訪れた理由……冷静に考えれば可笑しな話だった。婚前交渉が禁止されているこの世界で、私の身体を求めることは出来ない。もしも、自らの欲求を満たすことを考えるのであれば、娼館にでも通い詰めるしかない。
「ああ、スミス様じゃないですか!」
私の後からエリザベートが姿を見せた。
「お前は誰だ?」スミス王子は私に尋ねた。
「妹のエリザベートです。以後お見知りおきを……」
「ああ、お前の妹か。そうだな、これから義理の妹になるわけか……」
スミス王子はエリザベートを何回か見つめていた。そう、気付くべきだったのだ。この2人の演技……そして、私は既にこの表舞台から消えているということを……。
「かいもーん!!!!」
威勢のいい、透き通った声が響き渡った。
「誰ですかね、こんな朝っぱらから……」
メイド長のセシリアが首を傾げた。
「ひょっとして……いや、まさかそんなことはないわよね……」私の脳裏にある人物がよぎった。
「誰か……お心当たりでもあるのですか?」セシリアは訊ねた。
「いや、多分違うと思うんだけど、一応見てきてくださる?」
セシリアはお辞儀をして、そのまま玄関へ向かった。
*************************************
「遅いぞ……何分待たせるつもりだ?」
客人はいきなり鬼の形相でセシリアを睨み付けた。
「お前はマリアではないな。マリアはどこに行ったのだ?」
「あの……どちら様ですか?」セシリアは訊ねた。
「どちら様って……お前ひょっとして私のことを知らないのか?見たところメイドの出で立ちをしているが、マリアから何も聞いていないのか?」
「さあ、私どもは公爵家にのみお伝えする立場でございますから、我が女主人のことについては大方把握しているつもりです。そこから推察致しますに……あなた様のような礼儀知らずの殿方は存じ上げませんね!」
セシリアは大部ケンカ腰だった。客人はこの態度を受けて、本気で怒り出した。
「お前……本気で言っているのか?私を知らないと……はあ、そうか。だからこそ、これほどの不敬が働けるのだな!!」
客人はピストルを懐から取り出し、セシリアに向けた。
「一発撃ってもいいか?」
「それは殺人になりますわ……」セシリアはさすがに怖くなったようだった。
「殺人だって?私を裁く権利があるのは、現状皇帝陛下のみだ!」
「皇帝陛下ですって?へえっ……随分と恐れ多い方の名前をお出しになるんですね。それははったりですか?」
「はったりではない。ああ、ここがマリアの住む館でなければ、とっくにお前を殺しているところだが、ここをすぐさま通してくれるのならば、命だけは助けてやってもいいぞ」
「……ですから、お名前を教えていただかないと……」
「お前、本当にめんどくさい奴だな。ああ、分かったよ。じゃあ、こう言えばいいか?マリアの婚約者である王子のスミスだ!」
王子スミス……こう聞いて、さすがのセシリアも狼狽えた。
「あなた様が……スミス様なのですか!?」驚きを隠せなかった。
「ああ、そうだ。婚約者に会いに来たんだ。これでいいか?さあ、早くどくんだ!」
客人はピストルを上空に目がけて一発撃った。セシリアは一歩引き下がった。その瞬間を狙って、客人は館に入って来た。
「マリア!会いに来たぞ!」
客人の正体は予想通り私の婚約者だった。
「スミス王子……どうして?御一人でいらっしゃったのですか?」
本来はあり得ないこと……将来の皇帝陛下になるべく人物が、厳重な警護を引き連れずにやって来るということはあり得なかったのだ。
「ああ、王宮にいてもめんどくさいだけだからな。お前にプレゼントだ……」
スミス王子は、ここを訪問する前にたくさん準備をしているようだった。簡単な挨拶を終えると、私の大好きな花束をプレゼントしてきた。
「この時期はお前の笑顔がひと際映えるものだな……」
感慨深く、色々と考えているようだった。スミス王子が私の元を訪れた理由……冷静に考えれば可笑しな話だった。婚前交渉が禁止されているこの世界で、私の身体を求めることは出来ない。もしも、自らの欲求を満たすことを考えるのであれば、娼館にでも通い詰めるしかない。
「ああ、スミス様じゃないですか!」
私の後からエリザベートが姿を見せた。
「お前は誰だ?」スミス王子は私に尋ねた。
「妹のエリザベートです。以後お見知りおきを……」
「ああ、お前の妹か。そうだな、これから義理の妹になるわけか……」
スミス王子はエリザベートを何回か見つめていた。そう、気付くべきだったのだ。この2人の演技……そして、私は既にこの表舞台から消えているということを……。
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