悲しい令嬢

岡暁舟

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令嬢

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「悲しみを乗り越えるだ。今回は本当に残念だったな」

「いいえ、そんなことはありません。ありがとうございます」

「そうだ、手紙が残っているから、読んでみれば????」


ズタボロになった彼の手紙……どことなく懐かしい夏の匂いがするのだ。

「私がこのまま行ってしまうのであれば、仕方がないでしょう……」

確かにそうかもしれない。だが、正直言ってわからないのだ。

どうすればいいんだろうか????

誰か、その答えを知っている人はいないのか????

「私ももう終わりでしょうね。あなたがいないのならば……ちょっとだけ触ってみて????」


あなたがいる世界からあなたのいない世界にやって来た私は、ずいぶん楽だと思った。どうして????

それはやっぱり、この世界が不確定だから????

両方の世界を往来して、次はどこに行く????

その明確なゴールが見えないけれど、私は今日も歩いて行く。

「ああ、君はもう一人だよ。さようなら」


みんなからさようならと言われて、それでも私は歩き出すのだ。

明日は近くて昨日が遠い。

そんな時間を今日も過ごして、

「よく来たね」

と彼は言う。

「探しましたよ」

と私が言うと、

「ご苦労様」

と彼は言う。

「ありがとう」

「どういたしまして」

私も笑顔に戻って、ああ、やっぱり生きてて良かったと、新しい人生にケチをつけてみたくもなる。

そんなことを繰り返すうちに、もうすぐゴール。


「ああ、目が覚めてしまったか」


そんな短い夜の物語。
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