【完結】それでも僕は貴方だけを愛してる 〜大手企業副社長秘書α×不憫訳あり美人子持ちΩの純愛ー

葉月

文字の大きさ
101 / 202

内藤昴 ②

しおりを挟む
「この書類に目を通していただけましたら、とりあえず午前中の予定は完了です」
「やっとか……」
「やっとです」

 ここ最近の激務に、昴と晴人の疲労は限界。
 もうフラフラだ。
 だがそれでも昴はpcに送られてきた書類に目を通す。

 どんなに疲れていて倒れそうになっていても、仕事は手を抜かない。
 歳のせいでバカにされるのが嫌で、昴は頑張ってきた。
 その頑張りが徐々に認められ、役員達からも一目置かれるようになってきた。

「この書類ちょっとわかりずらいから、後で担当の人呼んでくれる?」

 眼精疲労からの頭痛なのか、昴は右手の指でこめかみを押さえた。

「じゃあ今から声掛けに行ってきます」

「あ、ああ。頼んだ……」

「すぐに戻ります」

 仕事中の晴人はいつも真剣な表情なのに、今は無意識に笑みが溢れる。

「時間は気にするな」

 昴は晴人が手に紙袋を持ちながら部屋を出ていくのを見送った。

「……。はぁ~……」

 両手を頭の後ろで組み合わせ、昴はそのまま椅子の背もたれにもたれかかる。
 晴人は毎日午前中の仕事を終わらせると、小さめの紙袋を持ち急いであるところへ向かう。

「晴人はいいな。毎日会えて……」

 昴がぼやいた。
 晴人が毎日向かう先。
 それは瑞稀のところ。
 出社している日は毎日、晴人は瑞稀や千景たちが喜びそうなお菓子を届けに行っている。

「羨ましい……」

 ポツリと呟く。
 昴は晴人が瑞稀に贈り物・・・を渡す様子なんて見たことはないのに、2人が見つめ合い笑顔で話す様子を勝手に想像してしまい羨んでしまう。

「俺も会いたいな……」

 またポツリと呟いて、そんなことできないと1人で落ち込む。
 自爆だ。
 自分の中に生まれて初めて芽生えた『羨ましい』という気持ち。

 人に羨ましがられることはあっても、羨むことのなかった昴は、この胸のもやもやした気持ちとどう付き合えばいいかわからなかった。

 昴はデスクの引き出しを開ける。
 そこには渡すことはないであろう、瑞稀と千景のために用意してしまった・・・・・・百貨店の期間限定の人気チョコレート菓子が入っている。
 たまたま見つけた期間限定ショップ。
 今流行りだとネットニュースやテレビでもしていた。

 プレゼントできる日なんて来ないとわかっているのに、チョコレート菓子を渡した時、喜んでくれる瑞稀の顔が目に浮かび、つい買ってしまった。
 
俺が知る瑞稀くんの好物なんてチョコチップクッキーとカフェオレぐらい。
他にどんなものが好きで、何に興味があるかなんてわからないし……知るすべもない。
これから、瑞稀くんと話す機会なんてできるんだろうか?

 昴だって瑞稀に会いたいし、一緒にコーヒーを飲みながらたわいもない話もしたい。
 いつもの昴なら即座に行動に移していたのに、今回はしていない。
 正確に言えば『行動に移せない』のだ。
 
恋敵が晴人でなければ……。

 何回思っただろう。
 相手が晴人でなければ何がなんでも、どんなことをしても瑞稀のそばにいられるようにしていた。
 だが何度考えてもそれはできない。

 瑞稀を失ってからの晴人を一番近くで見てきて一緒に過ごした昴だからこそ、瑞稀との関係を進めるための一歩が踏み出せない。
 それでも咄嗟に昴が晴人に、自分が一目惚れしたのは瑞稀だと言うことを伝えたのは、自分の気持ちと晴人の気持ちにあらがうことだったかもしれない。
 
 昴は椅子から立ち上がり、外の景色を見る。
 愛する人がいなくなって、あんなに衰弱し切った晴人をもう見たくない。
 運命的な再会を果たした晴人の運命の人は、やはり瑞稀だと思う。
 だから晴人には幸せになってほしい……。

ーだったら俺は、自分の幸せのために何の努力もしてはいけないのか?ー
ー何も始まっていないのに諦めないといけないのか?ー
ー諦めたくない……。諦めたくないけど……ー

 昴の行き場のない気持ちだけが、胸を締め付けていった。

しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

巣ごもりオメガは後宮にひそむ【続編完結】

晦リリ@9/10『死に戻りの神子~』発売
BL
後宮で幼馴染でもあるラナ姫の護衛をしているミシュアルは、つがいがいないのに、すでに契約がすんでいる体であるという判定を受けたオメガ。 発情期はあるものの、つがいが誰なのか、いつつがいの契約がなされたのかは本人もわからない。 そんななか、気になる匂いの落とし物を後宮で拾うようになる。 第9回BL小説大賞にて奨励賞受賞→書籍化しました。ありがとうございます。

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

もう殺されるのはゴメンなので婚約破棄します!

めがねあざらし
BL
婚約者に見向きもされないまま誘拐され、殺されたΩ・イライアス。 目覚めた彼は、侯爵家と婚約する“あの”直前に戻っていた。 二度と同じ運命はたどりたくない。 家族のために婚約は受け入れるが、なんとか相手に嫌われて破談を狙うことに決める。 だが目の前に現れた侯爵・アルバートは、前世とはまるで別人のように優しく、異様に距離が近くて――。

【完結】end roll.〜あなたの最期に、俺はいましたか〜

みやの
BL
ーー……俺は、本能に殺されたかった。 自分で選び、番になった恋人を事故で亡くしたオメガ・要。 残されたのは、抜け殻みたいな体と、二度と戻らない日々への悔いだけだった。 この世界には、生涯に一度だけ「本当の番」がいる―― そう信じられていても、要はもう「運命」なんて言葉を信じることができない。 亡くした番の記憶と、本能が求める現在のあいだで引き裂かれながら、 それでも生きてしまうΩの物語。 痛くて、残酷なラブストーリー。

アルファ王子に嫌われるための十の方法

小池 月
BL
攻め:アローラ国王太子アルファ「カロール」 受け:田舎伯爵家次男オメガ「リン・ジャルル」  アローラ国の田舎伯爵家次男リン・ジャルルは二十歳の男性オメガ。リンは幼馴染の恋人セレスがいる。セレスは隣領地の田舎子爵家次男で男性オメガ。恋人と言ってもオメガ同士でありデートするだけのプラトニックな関係。それでも互いに大切に思える関係であり、将来は二人で結婚するつもりでいた。  田舎だけれど何不自由なく幸せな生活を送っていたリンだが、突然、アローラ国王太子からの求婚状が届く。貴族の立場上、リンから断ることが出来ずに顔も知らないアルファ王子に嫁がなくてはならなくなる。リンは『アルファ王子に嫌われて王子側から婚約解消してもらえば、伯爵家に出戻ってセレスと幸せな結婚ができる!』と考え、セレスと共にアルファに嫌われるための作戦を必死で練り上げる。  セレスと涙の別れをし、王城で「アルファ王子に嫌われる作戦」を実行すべく奮闘するリンだがーー。 王太子α×伯爵家ΩのオメガバースBL ☆すれ違い・両想い・権力争いからの冤罪・絶望と愛・オメガの友情を描いたファンタジーBL☆ 性描写の入る話には※をつけます。 11月23日に完結いたしました!! 完結後のショート「セレスの結婚式」を載せていきたいと思っております。また、その後のお話として「番となる」と「リンが妃殿下になる」ストーリーを考えています。ぜひぜひ気長にお待ちいただけると嬉しいです!

ウサギ獣人を毛嫌いしているオオカミ獣人後輩に、嘘をついたウサギ獣人オレ。大学で逃げ出して後悔したのに、大人になって再会するなんて!?

灯璃
BL
ごく普通に大学に通う、宇佐木 寧(ねい)には、ひょんな事から懐いてくれる後輩がいた。 オオカミ獣人でアルファの、狼谷 凛旺(りおう)だ。 ーここは、普通に獣人が現代社会で暮らす世界ー 獣人の中でも、肉食と草食で格差があり、さらに男女以外の第二の性別、アルファ、ベータ、オメガがあった。オメガは男でもアルファの子が産めるのだが、そこそこ差別されていたのでベータだと言った方が楽だった。 そんな中で、肉食のオオカミ獣人の狼谷が、草食オメガのオレに懐いているのは、単にオレたちのオタク趣味が合ったからだった。 だが、こいつは、ウサギ獣人を毛嫌いしていて、よりにもよって、オレはウサギ獣人のオメガだった。 話が合うこいつと話をするのは楽しい。だから、学生生活の間だけ、なんとか隠しとおせば大丈夫だろう。 そんな風に簡単に思っていたからか、突然に発情期を迎えたオレは、自業自得の後悔をする羽目になるーー。 みたいな、大学篇と、その後の社会人編。 BL大賞ポイントいれて頂いた方々!ありがとうございました!! ※本編完結しました!お読みいただきありがとうございました! ※短編1本追加しました。これにて完結です!ありがとうございました! 旧題「ウサギ獣人が嫌いな、オオカミ獣人後輩を騙してしまった。ついでにオメガなのにベータと言ってしまったオレの、後悔」

まばゆいほどに深い闇(アルファポリス版・完結済)

おにぎり1000米
BL
グラフィックアーティストの佐枝零は長年オメガであることを隠し、ベータに偽装して生活している。学生時代に世間で作品が話題になったこともあるが、今はできるだけ表に出ず、単調で平凡な毎日を送っていた。そんな彼に思ってもみない仕事の打診がもたらされる。依頼人は佐枝が十代のころ知り合った運命のアルファ、藤野谷天藍だった! ――親の世代から続く「運命」に翻弄されるアルファとオメガの物語。 *オメガバース(独自設定あり)エリート実業家(α)×アーティスト(偽装Ω)ハッピーエンド *全3部+幕間+後日談番外編。こちらに掲載分は幕間や番外編の構成が他サイトと異なります。本編にも若干の改稿修正や加筆あり。ネップリなどであげていた番外編SSも加筆修正の上追加しています。 *同じオメガバースのシリーズに『肩甲骨に薔薇の種』『この庭では誰もが仮面をつけている』『さだめの星が紡ぐ糸』があります。

春風の香

梅川 ノン
BL
 名門西園寺家の庶子として生まれた蒼は、病弱なオメガ。  母を早くに亡くし、父に顧みられない蒼は孤独だった。  そんな蒼に手を差し伸べたのが、北畠総合病院の医師北畠雪哉だった。  雪哉もオメガであり自力で医師になり、今は院長子息の夫になっていた。  自身の昔の姿を重ねて蒼を可愛がる雪哉は、自宅にも蒼を誘う。  雪哉の息子彰久は、蒼に一心に懐いた。蒼もそんな彰久を心から可愛がった。  3歳と15歳で出会う、受が12歳年上の歳の差オメガバースです。  オメガバースですが、独自の設定があります。ご了承ください。    番外編は二人の結婚直後と、4年後の甘い生活の二話です。それぞれ短いお話ですがお楽しみいただけると嬉しいです!

処理中です...