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翌日 ②

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「御用があってもなくても、どうぞ私を呼んでやってください」
 あまりにもキラキラとした眼差しで、クロエが僕を見つめてくれたから、この国に来てから初めて緊張が少し緩んだ。

「わかりました。ではクロエ、今日からよろしく頼みます」
 微笑むと、クロエは満面の笑みをうかべながら「ハイ!」と元気に答えた。
それにしてもここが僕の部屋なんて、どういうことだろう?
 石畳の冷たい牢獄のようなところに入れられると思っていたのに、ここは清潔な部屋。それに殺されるからと昨日着て来た花嫁衣装しか持っていなかったのに、どうして今、綿のパジャマなんて着てるんだろう……?
 綿のパジャマからは石鹸のいい香りがした。

「クロエ……パジャマこれって……」
「私も誰からの贈り物か詳しくは知らないのです。でも贈り物はそのほかにも色々ございますよ。近くでごご覧になられますか?」

 クロエが本棚を開けると、小説から実用書までさまざまな種類の本があり、クローゼットにら機能的で動きやすそうな服が数着ある。
 その中に見覚えのある花が刺繍された服があった。
 あ、あれは……。
 服に刺繍された青い花に吸い寄せられ、そっと触れた。
「アズラの花…」
 小さな『アズラ』の花は、中央の花の柱頭ちゅうとうやく・・が淡い黄色で、花びらは目が覚めるような青い花。
 アスファーナ家が治めていた国でしか生息していない花。

 父様、母様、兄様、姉様……。

 笑い合い、広野を駆け回った兄や姉たちを思い出や、いつも笑顔で抱きしめてくれた両親が思い出されては消えていった。

 もう二度と会えないのですね……。
 
 涙が浮かんできそうなのを、我慢した。
「ユベール様、昨日は宮殿に着かれてから、何も召し上がっていませんよね」
「あ、そうだった」
 昨日はずっと緊張しっぱなしで、それどころではなかった。
「なので、今朝は特別な朝食にしてみました」
 クロエがパンパンと手を叩くと、美味しそうな香りを漂わせた食事をのせた、銀色のカートを押した侍女が入ってくる。
 その香につられて、お腹がぐぅ~となった。
「まぁまぁ、可愛いお腹の音だこと」
 クロエがクスリと笑ったので、恥ずかしさで頬が赤くなるのがわかった。
 次々に運ばれてきた食事がテーブルに並ぶ。

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