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【零和 五章・今、雪崩の如く】
[零5-4・障壁]
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その怒声は逃げてきた生存者の中から聞こえてきた。
一人の男性がこちらへ向かって大股で歩いてくる。
ウンジョウさんへ突き立てるように指差し顔を真っ赤にしていた。
私はその人物の全身を隈なく盗み見る。
噛み跡や血液がかかった様子はない。
ウンジョウさんに組みかかろうというかの勢いで彼は詰め寄り怒鳴る。
「なんでゾンビが入ってきてるんだ! 此処は安全な筈だろうが!」
「搬入口から侵入されました。避難誘導しますので指示に従って」
「今すぐゾンビを何とかしろ! 俺達を殺す気か!」
ウンジョウさんの言葉を遮ってその怒声は続く。
「ゾンビを何とかするのがお前らが役目だろうが!」
「ですから今から上層部と対策を」
「何が今からだ、そもそもゾンビに侵入されない場所だろう! ここは! 侵入されるなんてあってはならない! ましてや感染者が出るだと!」
「あの手の性質のゾンビは想定外でした、初期防衛に失敗した以上速やかに封じ込めを行います」
「ゾンビに感染した人間を直ぐに撃ち殺すべきだったんだ!」
彼の言葉に、怒りに、他の人々も賛同し始めてまるで合唱の如く無数の声が重なる。
私の隣にいたレベッカの表情が歪むのが分かった。
無数の視線が私達の方に向いていた。
怒り、焦燥、絶望、非難、大量の負の感情を向けられながら私は酷く冷静で、そして呆然とそれを見ていた。
何故、この人達はこんなにも感情を剥き出しにしているのだろうか。
私には分からない。
今誰かを責めて憎んでいる余裕があるのだろうか、と。
いや、本当は。
私ではなくこの人達の方が正しい側にいるのだろうか。
目の前で起きた悲劇に感情を動かされ、それを剥き出しにする事の方が。
私の横のレベッカが一歩踏み出した瞬間に、ヘッドセッドに通信が入る。
その内容を聞いて表情一つ変えずウンジョウさんが大声で述べる。
「これより対応に向かいます、指示があるまで此処を動かないでください!」
その声に幾つもの反論と糾弾の声が上がったがウンジョウさんは無視してレベッカと共に今私達が入ってきた方の廊下に向かう。
防護扉に備えられている人一人が通り抜けられるくらいの通用口にウンジョウさんが手をかける。
それを見て生存者達は一斉に部屋の隅へと下がろうと押し合いになった。
逃れる場所はない以上、ゾンビの事を考えてパニックになったらしい。
この広場からの出口は二か所しかなく、もう一か所は封鎖されているようだった。
感染者が混じっている可能性がある以上、封じ込めとしては正しい対処だと場違いな感想を私は抱いた。
レベッカがショットガンを構えて扉に銃口を向け、合図と同時にウンジョウさんが扉を開いた。
レベッカが銃を構えたまま中に突っ込み、それに続いてウンジョウさんも滑り込む。
扉が勝手に閉まっていく所に私も身体を滑り込ませた。
廊下は静まり返っていた。
ゾンビの気配はない。
こうして見て気が付いたが、ビルの通路や部屋に物や柱がなく、死角が出来づらい設計になっている。
此処から食堂までのルートが一直線に見える。
「それで、これからどうするんですか?」
銃を構えたまま足早に進む二人の背中に私は問いかけた。
驚いたように二人は振り返る。
「何故此処に」
「あの場所に残れとも言われてません」
時間経過的に感染の可能性は低いかもしれないが、少なくともゼロではない以上、あの場に留まるのは避けたかった。
今の私には魔法の能力もない。
となるとゾンビ感染に対する免疫はどうなるのだろうか。
この世界のゾンビは私の知っているものとは違うようではあるし、ウィルスの性質自体も変わっているのだろうか。
「あとハウンドのメンバーだと思われてるので、あの場所に居たら居心地悪そうですし」
私の言葉にウンジョウさんが溜め息を吐いた。
「素人を連れまわす余裕はない、今すぐ戻れ」
「必要ならこの場で入隊でも何でもします」
「……食堂からの出口三箇所はそれぞれ別のホールに繋がっている。今俺達がいた場所をAホールとしてBとCのホールはゾンビによる感染拡大が起きている可能性が高い。封じ込め自体は成功したが、これを解決できる術がない」
「二つのホールにいた生存者は見捨てるんですか」
それは謗りではなく確認だった。
あまりにも平坦な声が出て正直私でも驚いた。
ヘッドセッドから聞こえてきた通信は二つのホールと繋がる防護扉は機能して閉鎖されているものの、内部で激しい物音がしているという報告だった。
つまり食堂から二つのホールまでは繋がっている者の、ホールから別のセクションに向かう事は出来ない。
防護扉の仕組みは一度ロックすると、ロックした側の操作でしか解除できないらしい。
防護扉はゾンビの襲撃を防ぐものではあったが、それは同時に何人もの人を安全のために切り捨てる仕組みでもあった。
「今から救援に行っても難しいだろう。少なくとも武装した人間が二人しかいない。兵力を集めてBCホールと繋がっている通路に集結、扉を解除と同時にゾンビを撃ち殺すしかない」
「でもそれは」
ウンジョウさんの言葉にレベッカが反応した。何が問題なのか分からず私はレベッカの顔を見つめた。
「ハウンドの全メンバーは今此処にいるだけです」
一人の男性がこちらへ向かって大股で歩いてくる。
ウンジョウさんへ突き立てるように指差し顔を真っ赤にしていた。
私はその人物の全身を隈なく盗み見る。
噛み跡や血液がかかった様子はない。
ウンジョウさんに組みかかろうというかの勢いで彼は詰め寄り怒鳴る。
「なんでゾンビが入ってきてるんだ! 此処は安全な筈だろうが!」
「搬入口から侵入されました。避難誘導しますので指示に従って」
「今すぐゾンビを何とかしろ! 俺達を殺す気か!」
ウンジョウさんの言葉を遮ってその怒声は続く。
「ゾンビを何とかするのがお前らが役目だろうが!」
「ですから今から上層部と対策を」
「何が今からだ、そもそもゾンビに侵入されない場所だろう! ここは! 侵入されるなんてあってはならない! ましてや感染者が出るだと!」
「あの手の性質のゾンビは想定外でした、初期防衛に失敗した以上速やかに封じ込めを行います」
「ゾンビに感染した人間を直ぐに撃ち殺すべきだったんだ!」
彼の言葉に、怒りに、他の人々も賛同し始めてまるで合唱の如く無数の声が重なる。
私の隣にいたレベッカの表情が歪むのが分かった。
無数の視線が私達の方に向いていた。
怒り、焦燥、絶望、非難、大量の負の感情を向けられながら私は酷く冷静で、そして呆然とそれを見ていた。
何故、この人達はこんなにも感情を剥き出しにしているのだろうか。
私には分からない。
今誰かを責めて憎んでいる余裕があるのだろうか、と。
いや、本当は。
私ではなくこの人達の方が正しい側にいるのだろうか。
目の前で起きた悲劇に感情を動かされ、それを剥き出しにする事の方が。
私の横のレベッカが一歩踏み出した瞬間に、ヘッドセッドに通信が入る。
その内容を聞いて表情一つ変えずウンジョウさんが大声で述べる。
「これより対応に向かいます、指示があるまで此処を動かないでください!」
その声に幾つもの反論と糾弾の声が上がったがウンジョウさんは無視してレベッカと共に今私達が入ってきた方の廊下に向かう。
防護扉に備えられている人一人が通り抜けられるくらいの通用口にウンジョウさんが手をかける。
それを見て生存者達は一斉に部屋の隅へと下がろうと押し合いになった。
逃れる場所はない以上、ゾンビの事を考えてパニックになったらしい。
この広場からの出口は二か所しかなく、もう一か所は封鎖されているようだった。
感染者が混じっている可能性がある以上、封じ込めとしては正しい対処だと場違いな感想を私は抱いた。
レベッカがショットガンを構えて扉に銃口を向け、合図と同時にウンジョウさんが扉を開いた。
レベッカが銃を構えたまま中に突っ込み、それに続いてウンジョウさんも滑り込む。
扉が勝手に閉まっていく所に私も身体を滑り込ませた。
廊下は静まり返っていた。
ゾンビの気配はない。
こうして見て気が付いたが、ビルの通路や部屋に物や柱がなく、死角が出来づらい設計になっている。
此処から食堂までのルートが一直線に見える。
「それで、これからどうするんですか?」
銃を構えたまま足早に進む二人の背中に私は問いかけた。
驚いたように二人は振り返る。
「何故此処に」
「あの場所に残れとも言われてません」
時間経過的に感染の可能性は低いかもしれないが、少なくともゼロではない以上、あの場に留まるのは避けたかった。
今の私には魔法の能力もない。
となるとゾンビ感染に対する免疫はどうなるのだろうか。
この世界のゾンビは私の知っているものとは違うようではあるし、ウィルスの性質自体も変わっているのだろうか。
「あとハウンドのメンバーだと思われてるので、あの場所に居たら居心地悪そうですし」
私の言葉にウンジョウさんが溜め息を吐いた。
「素人を連れまわす余裕はない、今すぐ戻れ」
「必要ならこの場で入隊でも何でもします」
「……食堂からの出口三箇所はそれぞれ別のホールに繋がっている。今俺達がいた場所をAホールとしてBとCのホールはゾンビによる感染拡大が起きている可能性が高い。封じ込め自体は成功したが、これを解決できる術がない」
「二つのホールにいた生存者は見捨てるんですか」
それは謗りではなく確認だった。
あまりにも平坦な声が出て正直私でも驚いた。
ヘッドセッドから聞こえてきた通信は二つのホールと繋がる防護扉は機能して閉鎖されているものの、内部で激しい物音がしているという報告だった。
つまり食堂から二つのホールまでは繋がっている者の、ホールから別のセクションに向かう事は出来ない。
防護扉の仕組みは一度ロックすると、ロックした側の操作でしか解除できないらしい。
防護扉はゾンビの襲撃を防ぐものではあったが、それは同時に何人もの人を安全のために切り捨てる仕組みでもあった。
「今から救援に行っても難しいだろう。少なくとも武装した人間が二人しかいない。兵力を集めてBCホールと繋がっている通路に集結、扉を解除と同時にゾンビを撃ち殺すしかない」
「でもそれは」
ウンジョウさんの言葉にレベッカが反応した。何が問題なのか分からず私はレベッカの顔を見つめた。
「ハウンドの全メンバーは今此処にいるだけです」
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