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23.俺、試験される

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「……?」

 俺の目の前で、通魔試験とやらをしてくれているミモさんが首を傾げた。俺と向かい合って両手を繋いでいるから、顔が見えなくても困惑していることは伝わってくる。

『おぅ、何も感じねぇのか?』
「あぁ、悪いがさっぱりだ」

 ミモさんが苛立たしげに舌打ちをして、なんだか俺の手を握る力が強くなった。え、何これ。俺が悪いの?

『あー、ダメだこりゃ。さっぱりだ。エンツォ。もう一度計測』
「はい」

 気がつけば、研究員たちが周囲に集まってきていた。ミモさん自身が何かをしていたからなのか、それとも進展があると期待してなのか、どちらなのかは分からない。
 俺はエンツォさんに促され、測定器の水晶に触れる。すると、集まった研究員たちがどよめいた。なんだろう、この既視感。初日にも似たような状況になった気が。

「主席、これは……」
『予想通りだな。主の流した魔力がほぼほぼ持っていかれた』

 なんか魔力量が半端ないことになっているらしい。それなのに無属性のままなんだとか。そして口々に研究員たちが話している内容を拾い聞きしてみると、ミモさんの魔力の属性がどこにいったのかも不明で問題らしい。
 魔力を水みたいなものと考えれば、右から左に水を通そうとしたら、左から出てこなくてその分が俺の中に溜まっているところまではまだ良い。問題は、色のついていたその水が無色透明になっているということだ。色はどこに行った?

「もしかしたら、吸湿機みたいなもんなのかもねー」

 呟いたのはシンシアだ。ミモさんに顎で促されて、頭の中で立てたらしい仮説を口にする。

「昨日の昼から夕方にかけて、魔力が増えてたじゃん? 昼過ぎにさー、ジジとモイがちょー険悪になってバチバチいってるところに、ミケってば平然な顔して掃き掃除しながら突っ込んでったじゃん?」

 シンシアの言葉に、「あ、あれ怖かったな」「いつ爆発するかと思ったわ」などと同意の声が飛ぶ。っていうか、ちょっと口論になってただけじゃん。確かにジジさんは怖かったけど。
 ちなみに、俺が掃除をしてたのは手持ち無沙汰だったことと、研究室の色んなところにある埃が気になったからだ。

「魔力反発の一つや二つ覚悟してたんだけどー、結局無事だったしー? 今考えてみれば、あれってミケが二人の周囲の魔力を吸い取ってたからじゃん?」

 え、何ソレ。あのとき魔力なんて出てたの?
 困ったように首をめぐらせると、エンツォが小さな声で説明してくれた。
 ジジさんと口論してたモイって人は、魔力の属性が火と氷でまったく逆なんだそうだ。感情の高ぶりによって制御が緩むと、自然に魔力が放出され、空気中で反発し合って、魔力濃度によっては大爆発を引き起こすんだとか。何ソレ怖い。

 俺がエンツォから属性について教わっている間も、研究員の間でああでもない、こうでもないと議論が進んでいく。
 最終的には、殿下の有り余る魔力をちょっくら俺に注いでもらおうというある意味怖い結論になっていた。何が怖いって、マルチアの突き刺さるような視線だよ。きっと「また殿下のお手を煩わせて!」とか思っているんだろうな。
 殿下は今日は午後に来る予定だそうで、俺はひとまず身体の中に溜まった魔力をギリギリまで魔晶石にさせられた。その大半は、供給元であるミモさんに渡るらしい。無属性の魔晶石を取り込むことで、回復に充てるんだとか。

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