実質売られた私は次期侯爵の婚約者になりました?

長野 雪

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18.初デート……?

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(こ、これはなんだか、気恥ずかしい……っ!)

 月に照らされた庭園を、私はライと手を繋いで歩いていた。

(いや、年齢差を考えたら、弟とちょっと散歩する程度だと――――)

 私はちらりと隣で歩くライを見た。ライは私の視線に気が付いたのか、こちらを向いてにこりと笑った。

(そんな風に思えるかーいっ!)

 表面上は平静を装っているが、心の中では動揺が狼狽と羞恥を誘って輪になってダンスを踊っている。何を言っているか分からないと思うけれど、それぐらいやばいのだと理解して欲しい。

「えぇと、昨日ジェインに案内してもらったときは、バラしかないと聞いたのだけど」
「そうだね。先祖代々バラが好き……ということで、こんな感じの庭になっちゃってるんだよね。アイリはどんな花が好き?」

 うぅ、美少年に上目遣いで尋ねられるとか、どれだけ人の心を騒がせたら気が済むの……。

「そ、そうね。言われてみれば好きな花とか、あまり考えたことはなかったかも」

 もしかしたら、街に住んでいた頃は、まだ夢見がちな頃だったから、思いつくままに言えたかもしれない。けれど、今の私にとって花と言えば、農作物の花しかない。お芋や人参なんかの花が咲くのを見て、ほっと一息ついた日もあった。

「前はバラやユリが好きって言ってたんだけど、やっぱり好みは変わるよね」

 ライが並べた花は、花をそもそもあまり知らない子が、憧れとともに並べる花じゃないか、と思う。

「そうね、今はそういう艶やかな花よりはもっと……たとえば、スズランとかのもっと控えめな花の方が好みかな」
「あぁ、いいね。可愛らしくて。スズランをモチーフにした髪飾りとか似合いそう」

 髪飾り?と私が首を傾げたのに気が付いたのだろう。ライは繋いでいた手を軽く持ち上げて、突然、手の甲にキスをした。

「アイリを飾るドレス一式を送らせて欲しいんだ。いいよね?」
「……っ!」

 年下の醸し出す色気ではないと思う。鏡を見なくても分かる。ライの色気にてられて、私の顔は絶対に真っ赤になっている。

「アイリ? いいよね?」
「いい……です」

 蚊の鳴くような私の返事がちゃんと聞こえたようで、ライは満面の笑みで「良かった」と言った。

「採寸の人は明日の昼前に来る予定だから。あぁ、断られなくて良かった」
「えぇ!? 聞いていないのだけど!」
「だから、今言っただろ? せっかくだから、俺の好みのドレスがいいなぁ、って思ってたんだ」
「でも、持ってきた服があるし」
「だめだよ。他の男のために用意されたものなんて」

 確かにドラ息子――ザナーブへの輿入れ準備で作った服だけど、新品ばかりだから勿体ない気もする。

「今は他にあまり服がないから見逃しているけど、数が揃ったら燃やすからね」
「え!」
「アイリのことだから、新品なのに勿体ないとか、せめてリメイクを、とか考えてるかもしれないけど、俺がいやなんだよ。他の男の手のついた服なんてさ」

 これが話に聞く独占欲というものか、と私はついまじまじとライを見つめてしまった。

「あぁ、あと、採寸のときは、絶対にリュコスかジェインのどちらかは傍に置いて。この邸は基本的に外部から人を受け入れることはないんだ。万が一のことがあると困るからね」
「ジェインはともかく、リュコスさんは問題があるんじゃないの? 男性だし……」
「そうか、採寸だと薄着になるよね。忘れてた。撤回。ジェインを必ず傍に置いて。あれでも最低限の身の守りになるから」
「え、でもメイドよね?」
「そうだね。腕の立つメイド、とでも思っておいて」

 確かに無駄のない動きはするけれど、感情の起伏がないせいだと思ってた。すごいな、貴族の邸に努めるメイドって。

「基本的に外部から人を入れない……って、どうしてなのか聞いてもいい? 普通は領民との交流とかあったりするものじゃないの?」
「あぁ、そうか。アイリにとっての貴族って、そういうイメージなんだ」
「貴族って、国王からもらった領地を運営していくものだと思ってたんだけど、ライの言い方だと何か違うの?」

 私の質問に、ライは「基本的な認識はあってるよ」と肯定してくれた。

「ただ、アイリの考えるような貴族の他に、国にとって特別な役目をする人や、功績を残した人に対しても爵位を与えることがあるってだけ。俺の家の場合は、特別な役目――職能貴族って言ったり、法服貴族って言ったり、呼ばれ方は様々だけどな」
「つまり、土地を治める代わりに、特別な仕事をしているってこと?」
「そういうこと。今は俺の父親が実務のほとんどを担ってて、書類仕事を俺に押し付けてる」
「でも、いつかは、その仕事を受け継ぐのよね?」
「可能なら、今すぐにでも奪い取りたい。……なんてな」

 ぞくりとするほどの酷薄な表情を見せたかと思えば、緊張を緩めてにやりと笑う。そのギャップに心臓が冷たく凍ったり、ドキっとさせられたりで、私の寿命が心配だ。

「お父さんと、その、仲が悪い、とか?」
「仲が悪い以前だな。向こうから嫌らしいちょっかいばっかりかけてくるから。仕事でヘマして死んでくれないかな、とは思う」

 冗談めかして言うライの言葉は、とても冗談には思えない。それほど父親に対して「死」という言葉を使い慣れているようだった。

「ちょっかいを出すのは、いずれ自分の後を継ぐ子に対して、成長するための試練だったり、とかは……」
「ないな。そんな殊勝な性格はしてない。大方、俺に一人前になられると、今の地位が脅かされると思ってるんだろ。――――実際、脅かす予定だしな」

 なんだろう。実の父と息子で、こんな殺伐とした関係があってもいいのだろうか。それとも、貴族の世界というのは、これほどまでに過酷なものなんだろうか。

「まぁ、あんな奴のことはどうでもいい。あっちにちょうど見ごろのバラがあるんだ。行こう」
「うん……」

 何となく、ライの父子関係に歪なものを感じつつ、私はライに手を引かれるようにして歩き出した。

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