赤雪姫の惰眠な日常

長野 雪

文字の大きさ
6 / 42
惰眠1.どこでもマイペースな惰眠

6.彼女は占いつつ眠る・後編

しおりを挟む
「では、占いの結果を、これに」

 昨日、皇帝陛下と謁見した同じ部屋、琥珀は一人、部屋の中央で好奇の目に晒されていた。

「こちらです」

 懐から取り出した紙を梁仁侍官に渡す。すると、梁仁侍官はぎょっと驚いて手を止めた。

「どうした、梁仁侍官?」
「い、いえ、何でもございません。思っていたより量が多かったので、よほどの重大事を占われたのかと」

 畳まれた紙は全部で6枚あった。

「ほう。それは楽しみだ。さぞ、事細かに記載されているのだろう。早く、これに」

 梁仁侍官は皇帝の御簾の前まで歩き、そっと占い結果を中に滑らせる。

(さて、何か一悶着あるか?)

 琥珀はぐっと気を引き締めた。
 昨晩のことだ。就寝前の紅雪に言い含められたことがある。

『琥珀。わしが声をかけるまで、そこで寝たふりをしていろ。何があっても起きるでないぞ』

 琥珀は決して無能な武官ではない。警備の最中に寝落ちするなんてありえないし、そんなことをする人間に外とは言え宮城の警備は勤まらない。
 だが、紅雪の命令には従う必要がある。というか、従わなかったら後が怖すぎる。おそらく、警備の手落ちを上司にバレて叱責されるのと比べ、100倍ひどい仕打ちを受ける。
 仕方なく、曲者が室内に侵入し、占いの結果を書き換えるのを黙認するしかなかった。とはいえ、もし紅雪に危害を加えようとする素振りがあれば、もちろん剣を振るうつもりだったが。

(とりあえず、このオッサンの手の者で間違いなさそうだ)

 自分の都合の良いように内容を改変したのだろう。
 ぱらり、と皇帝の手の中で紙が広げられる音がした。女官達のヒソヒソ声がいっそう静かに交わされる。占いの結果もそうだが、占いの対象も謎とあっては想像も膨らむだろう。

「……」

 しばらく、無言の時間が過ぎる。
 この後の展開も気になるが、あまり宮城の闇に関わりたくない琥珀は、帰らせてくんねぇかな、とこっそり思う。

「ときに、琥珀、と言ったか?」
「は、はい!」

 いきなり皇帝陛下直々に名前を呼ばれ、危うく声がひっくり変えるところだった、とヒヤ汗をかく。

「そなたから見て、赤雪姫とはどのような人物だ?」

 予想外の質問に、琥珀の目が泳ぐ。真実をそのまま言うのは簡単だが、下手に正直に話すと叱責の対象となりかねない。

「……えぇと、独自の尺度で物事の価値を測るために、理解できないことも多々ありますが、その能力は偽りありません」

 とりあえず口当たりの良い言葉で説明してみたが、あながち間違いでもないはずだ。

「この場にいない理由は?」
「それは、惰眠を、いえ、久しぶりの占いをして疲れてしまい、そのような状態で陛下に失礼があっては、と」

 何とか取り繕おうとするが、なぜか御簾の向こうの皇帝陛下は笑い声を上げる。

「気を遣わずともよい。赤雪姫殿の飾らない素振りは昨日で知れている。お前の言う通り、独自の尺度を持っているのだろう?」

 どうやら、陛下自身は紅雪の奇行を逆に好意的に見ているようだ。雲の上の御方の考えることはよく分からない。

「では、僭越ながら。……寝台の寝心地が良かったので、もう一眠りしたい、と」

 琥珀の言葉に「ふざけるな!」「陛下の御前だぞ!」「拝謁できる厚遇を何だと……!」とおそらく几帳の向こうの高官や武官や、とりあえず身分の高い方々が怒りを露にしている。

(これでも、全部は話してないんだけどな……)

 食後は寝て過ごすに限るとか発言したこととか、そもそも食事時以外はほとんど惰眠を貪っている生活を変える気がないとか。
 彼女の睡眠時間を正直に報告したら、年のいった高官など、ぷちんと血管が切れてしまうかもしれない。

「気に入ったのならば、いつまででも滞在してもらいたいぐらいだが」

 陛下、あんな無礼な者を……!と高官がたしなめる。

「残念ながら、本日中に辞去する予定と申しておりました。紅、いえ、赤雪姫の性格を考えても、宮城に留まることはないでしょう」
「なるほど。それでこそ噂の赤雪姫というわけだな。それならばこちらも丁重に礼をしよう。―――琥珀、礼金は当初の2倍届けると赤雪姫殿に伝言を。そして、無事に彼女を送り届けるように」
「御意」

 どうやら、紅雪が認めるに足るほどの客、もとい皇帝だったようだ、と琥珀は深々と頭を下げた。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

帰国した王子の受難

ユウキ
恋愛
庶子である第二王子は、立場や情勢やら諸々を鑑みて早々に隣国へと無期限遊学に出た。そうして年月が経ち、そろそろ兄(第一王子)が立太子する頃かと、感慨深く想っていた頃に突然届いた帰還命令。 取り急ぎ舞い戻った祖国で見たのは、修羅場であった。

おっさん料理人と押しかけ弟子達のまったり田舎ライフ

双葉 鳴
ファンタジー
真面目だけが取り柄の料理人、本宝治洋一。 彼は能力の低さから不当な労働を強いられていた。 そんな彼を救い出してくれたのが友人の藤本要。 洋一は要と一緒に現代ダンジョンで気ままなセカンドライフを始めたのだが……気がつけば森の中。 さっきまで一緒に居た要の行方も知れず、洋一は途方に暮れた……のも束の間。腹が減っては戦はできぬ。 持ち前のサバイバル能力で見敵必殺! 赤い毛皮の大きなクマを非常食に、洋一はいつもの要領で食事の準備を始めたのだった。 そこで見慣れぬ騎士姿の少女を助けたことから洋一は面倒ごとに巻き込まれていく事になる。 人々との出会い。 そして貴族や平民との格差社会。 ファンタジーな世界観に飛び交う魔法。 牙を剥く魔獣を美味しく料理して食べる男とその弟子達の田舎での生活。 うるさい権力者達とは争わず、田舎でのんびりとした時間を過ごしたい! そんな人のための物語。 5/6_18:00完結!

精霊に愛される(呪いにもにた愛)少女~全属性の加護を貰う~

如月花恋
ファンタジー
今この世界にはたくさんの精霊がいる その精霊達から生まれた瞬間に加護を貰う 稀に2つ以上の属性の2体の精霊から加護を貰うことがある まぁ大体は親の属性を受け継ぐのだが… だが…全属性の加護を貰うなど不可能とされてきた… そんな時に生まれたシャルロッテ 全属性の加護を持つ少女 いったいこれからどうなるのか…

悪役女王アウラの休日 ~処刑した女王が名君だったかもなんて、もう遅い~

オレンジ方解石
ファンタジー
 恋人に裏切られ、嘘の噂を立てられ、契約も打ち切られた二十七歳の派遣社員、雨井桜子。  世界に絶望した彼女は、むかし読んだ少女漫画『聖なる乙女の祈りの伝説』の悪役女王アウラと魂が入れ替わる。  アウラは二年後に処刑されるキャラ。  桜子は処刑を回避して、今度こそ幸せになろうと奮闘するが、その時は迫りーーーー

沢田くんはおしゃべり

ゆづ
青春
第13回ドリーム大賞奨励賞受賞✨ありがとうございました!! 【あらすじ】 空気を読む力が高まりすぎて、他人の心の声が聞こえるようになってしまった普通の女の子、佐藤景子。 友達から地味だのモブだの心の中で言いたい放題言われているのに言い返せない悔しさの日々の中、景子の唯一の癒しは隣の席の男子、沢田空の心の声だった。 【佐藤さん、マジ天使】(心の声) 無口でほとんどしゃべらない沢田くんの心の声が、まさかの愛と笑いを巻き起こす! めちゃコミ女性向け漫画原作賞の優秀作品にノミネートされました✨ エブリスタでコメディートレンドランキング年間1位(ただし完結作品に限るッ!) エブリスタ→https://estar.jp/novels/25774848

【完結】婚約者なんて眼中にありません

らんか
恋愛
 あー、気が抜ける。  婚約者とのお茶会なのにときめかない……  私は若いお子様には興味ないんだってば。  やだ、あの騎士団長様、素敵! 確か、お子さんはもう成人してるし、奥様が亡くなってからずっと、独り身だったような?    大人の哀愁が滲み出ているわぁ。  それに強くて守ってもらえそう。  男はやっぱり包容力よね!  私も守ってもらいたいわぁ!    これは、そんな事を考えているおじ様好きの婚約者と、その婚約者を何とか振り向かせたい王子が奮闘する物語…… 短めのお話です。 サクッと、読み終えてしまえます。

悪役令嬢はヒロイン(♂)に攻略されてます

みおな
恋愛
 略奪系ゲーム『花盗人の夜』に転生してしまった。  しかも、ヒロインに婚約者を奪われ断罪される悪役令嬢役。  これは円満な婚約解消を目指すしかない!

生きるために逃げだした。幸せになりたい。

白水緑
ファンタジー
屋敷内に軟禁状態だったリリアは、宝物を取り戻したことをきっかけに屋敷から逃げ出した。幸せになるために。体力も力もない。成り行きに身を任せる結果になっても、自分の道は自分で選びたい。 2020/9/19 第一章終了 続きが書け次第また連載再開します。 2021/2/14 第二章開幕 2021/2/28 完結

処理中です...