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惰眠1.どこでもマイペースな惰眠
6.彼女は占いつつ眠る・後編
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「では、占いの結果を、これに」
昨日、皇帝陛下と謁見した同じ部屋、琥珀は一人、部屋の中央で好奇の目に晒されていた。
「こちらです」
懐から取り出した紙を梁仁侍官に渡す。すると、梁仁侍官はぎょっと驚いて手を止めた。
「どうした、梁仁侍官?」
「い、いえ、何でもございません。思っていたより量が多かったので、よほどの重大事を占われたのかと」
畳まれた紙は全部で6枚あった。
「ほう。それは楽しみだ。さぞ、事細かに記載されているのだろう。早く、これに」
梁仁侍官は皇帝の御簾の前まで歩き、そっと占い結果を中に滑らせる。
(さて、何か一悶着あるか?)
琥珀はぐっと気を引き締めた。
昨晩のことだ。就寝前の紅雪に言い含められたことがある。
『琥珀。わしが声をかけるまで、そこで寝たふりをしていろ。何があっても起きるでないぞ』
琥珀は決して無能な武官ではない。警備の最中に寝落ちするなんてありえないし、そんなことをする人間に外とは言え宮城の警備は勤まらない。
だが、紅雪の命令には従う必要がある。というか、従わなかったら後が怖すぎる。おそらく、警備の手落ちを上司にバレて叱責されるのと比べ、100倍ひどい仕打ちを受ける。
仕方なく、曲者が室内に侵入し、占いの結果を書き換えるのを黙認するしかなかった。とはいえ、もし紅雪に危害を加えようとする素振りがあれば、もちろん剣を振るうつもりだったが。
(とりあえず、このオッサンの手の者で間違いなさそうだ)
自分の都合の良いように内容を改変したのだろう。
ぱらり、と皇帝の手の中で紙が広げられる音がした。女官達のヒソヒソ声がいっそう静かに交わされる。占いの結果もそうだが、占いの対象も謎とあっては想像も膨らむだろう。
「……」
しばらく、無言の時間が過ぎる。
この後の展開も気になるが、あまり宮城の闇に関わりたくない琥珀は、帰らせてくんねぇかな、とこっそり思う。
「ときに、琥珀、と言ったか?」
「は、はい!」
いきなり皇帝陛下直々に名前を呼ばれ、危うく声がひっくり変えるところだった、とヒヤ汗をかく。
「そなたから見て、赤雪姫とはどのような人物だ?」
予想外の質問に、琥珀の目が泳ぐ。真実をそのまま言うのは簡単だが、下手に正直に話すと叱責の対象となりかねない。
「……えぇと、独自の尺度で物事の価値を測るために、理解できないことも多々ありますが、その能力は偽りありません」
とりあえず口当たりの良い言葉で説明してみたが、あながち間違いでもないはずだ。
「この場にいない理由は?」
「それは、惰眠を、いえ、久しぶりの占いをして疲れてしまい、そのような状態で陛下に失礼があっては、と」
何とか取り繕おうとするが、なぜか御簾の向こうの皇帝陛下は笑い声を上げる。
「気を遣わずともよい。赤雪姫殿の飾らない素振りは昨日で知れている。お前の言う通り、独自の尺度を持っているのだろう?」
どうやら、陛下自身は紅雪の奇行を逆に好意的に見ているようだ。雲の上の御方の考えることはよく分からない。
「では、僭越ながら。……寝台の寝心地が良かったので、もう一眠りしたい、と」
琥珀の言葉に「ふざけるな!」「陛下の御前だぞ!」「拝謁できる厚遇を何だと……!」とおそらく几帳の向こうの高官や武官や、とりあえず身分の高い方々が怒りを露にしている。
(これでも、全部は話してないんだけどな……)
食後は寝て過ごすに限るとか発言したこととか、そもそも食事時以外はほとんど惰眠を貪っている生活を変える気がないとか。
彼女の睡眠時間を正直に報告したら、年のいった高官など、ぷちんと血管が切れてしまうかもしれない。
「気に入ったのならば、いつまででも滞在してもらいたいぐらいだが」
陛下、あんな無礼な者を……!と高官がたしなめる。
「残念ながら、本日中に辞去する予定と申しておりました。紅、いえ、赤雪姫の性格を考えても、宮城に留まることはないでしょう」
「なるほど。それでこそ噂の赤雪姫というわけだな。それならばこちらも丁重に礼をしよう。―――琥珀、礼金は当初の2倍届けると赤雪姫殿に伝言を。そして、無事に彼女を送り届けるように」
「御意」
どうやら、紅雪が認めるに足るほどの客、もとい皇帝だったようだ、と琥珀は深々と頭を下げた。
昨日、皇帝陛下と謁見した同じ部屋、琥珀は一人、部屋の中央で好奇の目に晒されていた。
「こちらです」
懐から取り出した紙を梁仁侍官に渡す。すると、梁仁侍官はぎょっと驚いて手を止めた。
「どうした、梁仁侍官?」
「い、いえ、何でもございません。思っていたより量が多かったので、よほどの重大事を占われたのかと」
畳まれた紙は全部で6枚あった。
「ほう。それは楽しみだ。さぞ、事細かに記載されているのだろう。早く、これに」
梁仁侍官は皇帝の御簾の前まで歩き、そっと占い結果を中に滑らせる。
(さて、何か一悶着あるか?)
琥珀はぐっと気を引き締めた。
昨晩のことだ。就寝前の紅雪に言い含められたことがある。
『琥珀。わしが声をかけるまで、そこで寝たふりをしていろ。何があっても起きるでないぞ』
琥珀は決して無能な武官ではない。警備の最中に寝落ちするなんてありえないし、そんなことをする人間に外とは言え宮城の警備は勤まらない。
だが、紅雪の命令には従う必要がある。というか、従わなかったら後が怖すぎる。おそらく、警備の手落ちを上司にバレて叱責されるのと比べ、100倍ひどい仕打ちを受ける。
仕方なく、曲者が室内に侵入し、占いの結果を書き換えるのを黙認するしかなかった。とはいえ、もし紅雪に危害を加えようとする素振りがあれば、もちろん剣を振るうつもりだったが。
(とりあえず、このオッサンの手の者で間違いなさそうだ)
自分の都合の良いように内容を改変したのだろう。
ぱらり、と皇帝の手の中で紙が広げられる音がした。女官達のヒソヒソ声がいっそう静かに交わされる。占いの結果もそうだが、占いの対象も謎とあっては想像も膨らむだろう。
「……」
しばらく、無言の時間が過ぎる。
この後の展開も気になるが、あまり宮城の闇に関わりたくない琥珀は、帰らせてくんねぇかな、とこっそり思う。
「ときに、琥珀、と言ったか?」
「は、はい!」
いきなり皇帝陛下直々に名前を呼ばれ、危うく声がひっくり変えるところだった、とヒヤ汗をかく。
「そなたから見て、赤雪姫とはどのような人物だ?」
予想外の質問に、琥珀の目が泳ぐ。真実をそのまま言うのは簡単だが、下手に正直に話すと叱責の対象となりかねない。
「……えぇと、独自の尺度で物事の価値を測るために、理解できないことも多々ありますが、その能力は偽りありません」
とりあえず口当たりの良い言葉で説明してみたが、あながち間違いでもないはずだ。
「この場にいない理由は?」
「それは、惰眠を、いえ、久しぶりの占いをして疲れてしまい、そのような状態で陛下に失礼があっては、と」
何とか取り繕おうとするが、なぜか御簾の向こうの皇帝陛下は笑い声を上げる。
「気を遣わずともよい。赤雪姫殿の飾らない素振りは昨日で知れている。お前の言う通り、独自の尺度を持っているのだろう?」
どうやら、陛下自身は紅雪の奇行を逆に好意的に見ているようだ。雲の上の御方の考えることはよく分からない。
「では、僭越ながら。……寝台の寝心地が良かったので、もう一眠りしたい、と」
琥珀の言葉に「ふざけるな!」「陛下の御前だぞ!」「拝謁できる厚遇を何だと……!」とおそらく几帳の向こうの高官や武官や、とりあえず身分の高い方々が怒りを露にしている。
(これでも、全部は話してないんだけどな……)
食後は寝て過ごすに限るとか発言したこととか、そもそも食事時以外はほとんど惰眠を貪っている生活を変える気がないとか。
彼女の睡眠時間を正直に報告したら、年のいった高官など、ぷちんと血管が切れてしまうかもしれない。
「気に入ったのならば、いつまででも滞在してもらいたいぐらいだが」
陛下、あんな無礼な者を……!と高官がたしなめる。
「残念ながら、本日中に辞去する予定と申しておりました。紅、いえ、赤雪姫の性格を考えても、宮城に留まることはないでしょう」
「なるほど。それでこそ噂の赤雪姫というわけだな。それならばこちらも丁重に礼をしよう。―――琥珀、礼金は当初の2倍届けると赤雪姫殿に伝言を。そして、無事に彼女を送り届けるように」
「御意」
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