アオいハルの練習曲

長野 雪

文字の大きさ
4 / 20

Film04.噂は疾風のごとく ―MINORI’S EYE―

しおりを挟む
 すっごくショックだった。昨日のセンパイのあの発言に涙が出ないのが不思議なくらいだった。いや、涙を出さずにあんなことを言えた自分が嬉しかったのかな。

『オレ、お前のこと何とも思ってないから』

 あの後、午後一発目の授業サボってトイレで泣いちゃったもん。すっごくキツイよ。

『迷惑なんだ。帰ってくれ』

 でも、昨日はああ言われたけど、「二度と来るな」とは言わなかったもんね。
 オッケーオッケー。そうよ、昨日のことをいつまでも、うじうじしてたまるもんかっ、てね。元気が取り柄のあたしだもん。頑張ってセンパイのこと、振り向かせてみせるんだから!
 そういうわけで決意を新たにしたあたしは、自信作のお弁当を持ってセンパイの教室へ急いだ。だって、センパイがお昼のパンを買っちゃったら手遅れだもん。

――でも、結局は手遅れだったのよ。

 センパイの教室は他のトコよりもシーンとしてたわ。お昼休みだから変に思われるかもしれないけど、あの九十九とかいう鬼教師が時々来るもんだから、比較的静かなのよ。でも、何かすっごくイヤな予感がしたあたしは、そぉっと覗いてみたの。

(あっ、センパイはっけーん! ……あれ?)

 あたしはセンパイを見つけたんだけど、センパイに何か話し掛けてるセミロングの女の先輩も同時に見つけちゃったのよ。ここのクラスの人も、あたしと同じところに注目してるように見えたわ。あたしは静かなのを幸いに、そっと盗み聞きすることにしたわ。

「な……三沢くん、これ……」

 聞き取りにくい小さな声で、その女は何か包みを差し出した。まさかあの中身はお弁当? ちくしょー、あの女、おとなしいフリしてヤルじゃないの。

「……弁当、オレに?」

 あの女が顔を赤らめながら頷く。するとセンパイは表情を変えずにそれを受け取った。青い包みの愛妻弁当を。

(ちょっと、そんなのあり? あたしがこれからそれをやろうとしてたってのに!)

 あたしはムカツキまくって、持っていた弁当箱をぐぐぐっと押し潰すように力を込めた。プラスチックのお弁当箱が歪んだのが分かったけど、そんなのどうでもよかった。

(あんなうちき内気ぶりっこに、センパイをとられるなんてぇ……!)
「お昼に購買部のパンを買ってるって言ったら、持って行けって……」
(え?)

 あたしは耳を疑った。何が……何だって? 持って行け?

「おばさんが?」
「……うん」

 この女は一度も顔を上げてセンパイを見ていなかった。真っ赤な顔してうつむきながら話してた。

「お母さんが、ついでに……その、新しい住所と電話番号を聞いてくるようにって……」
(お母さん? ってことは、そのお弁当はあんたのママンのてづく手作りってこと?)

 疑問を持ったあたしがじれったくしていると、いままで今迄不思議と静かだったイッペーとかいうセンパイの友達が話に割り込んで来た。いつも騒がしい人なのに、どうして何も言わなかったんだろう。

「なおりん、ちょっとストップぅっ! その妙に親しい話は何なのかなぁ?」
「あぁ、前にこっちに住んでた時に隣同士だったんだよ」
(え? それにしちゃぁ、なんかよそよそしくない?)
「へぇー、それにしては、全然しゃべってなかったじゃん、なおりん?」

 あたしの心を読んだかのようにピンポイントでイッペー先輩が尋ねた。

「あ……、ごめんなさい。私、何年も経ってて、なかなか話す勇気が出なくって……」
(だーっ! 別にアンタに聞いてるワケじゃないのよ!)

 あたしはその消極的な態度にいらいらとしてきたのだが、イッペー先輩はそうでもなかったらしい。

「いや、梶原が悪いとかそういうんじゃなくて……」

 珍しく言いよどんだイッペー先輩を見て、あたしはピーンときた。そういうことか。じゃぁ、さっき黙ってたのも、きっと……

「んん、よし、おれが教えてやるよ。コイツの住所とケータイのナンバー」

 イッペー先輩の声は大きくて、あたしのところにもよく聞こえた。あたしはもちろんメモった。残念ながら、その後に観念したセンパイが教えていた自宅の電話番号は聞こえなかったけど。これだけは、ちょっとあのぶりっこな先輩に感謝かな。

「ありがとう、白石くん。あと、な……三沢くん、お母さんが伺うかもしれないからって、伝えといてね」
「あぁ、分かった。お礼は言っておいてくれ」
「……うん」

 そして、あの女の先輩は自分の席に戻って行った。あたしはその先輩の友達らしき人が――って、なんだかすっごいきれいな黒いストレートの髪。いいなぁ。
 雰囲気もすっごい大人っぽい感じ……。
 あたしはしばらくぼーっと彼女を見た。だが、慌てて我にかえり、その友人らしき先輩が、問題の女を「さゆり」と呼んだのを聞いてから、教室の前を去った。

(あの「さゆり」をどうにかしなくちゃ。今のところ、センパイに一番近い場所にいるわ。……まって、そう――そうよ、別に蹴落とす必要はないんだわ。何とか懐柔して、いろいろとセンパイのことを聞き出せれば……)

 あたしは一人、ほくそえんだ。確か、全校生徒の名簿がいつか配られた筈だ。
 あたしが2-Bの「梶原さゆり」を見つけ出したのは、その晩のことだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

魔王城の清掃係ですが、ラスボスに懐かれて世界を磨くことになりました

由香
恋愛
異世界に転移したら、なぜか魔王城の清掃係に就職していました。 巨大な玉座、血のついた回廊、禍々しい装飾品の数々。 今日も黙々と床を磨いていたら―― 「お前の磨いた床は、よく眠れる」 恐怖の象徴と名高い魔王様に懐かれました。 見た目は完全にラスボス。 中身はちょっと不器用で、独占欲強めの努力型。 勇者は帰還の道を示し、魔王は隣を選べと願う。 光と闇のはざまで、選ぶのは――ただの清掃係。 戦争よりも、まず床。 征服よりも、まず対話。 これは、世界最強の存在に溺愛されながら 世界平和を“足元から”始める物語。 甘くて、少し熱くて、ちゃんと選ぶ恋。

これって政略結婚じゃないんですか? ー彼が指輪をしている理由ー

小田恒子
恋愛
この度、幼馴染とお見合いを経て政略結婚する事になりました。 でも、その彼の左手薬指には、指輪が輝いてます。 もしかして、これは本当に形だけの結婚でしょうか……? 表紙はぱくたそ様のフリー素材、フォントは簡単表紙メーカー様のものを使用しております。 全年齢作品です。 ベリーズカフェ公開日 2022/09/21 アルファポリス公開日 2025/06/19 作品の無断転載はご遠慮ください。

【完】まさかの婚約破棄はあなたの心の声が聞こえたから

えとう蜜夏
恋愛
伯爵令嬢のマーシャはある日不思議なネックレスを手に入れた。それは相手の心が聞こえるという品で、そんなことを信じるつもりは無かった。それに相手とは家同士の婚約だけどお互いに仲も良く、上手くいっていると思っていたつもりだったのに……。よくある婚約破棄のお話です。 ※他サイトに自立も掲載しております 21.5.25ホットランキング入りありがとうございました( ´ ▽ ` )ノ  Unauthorized duplication is a violation of applicable laws.  ⓒえとう蜜夏(無断転載等はご遠慮ください)

たとえ夜が姿を変えても ―過保護な兄の親友は、私を逃がさない―

佐竹りふれ
恋愛
重なる吐息、耳元を掠める熱、そして——兄の親友の、隠しきれない独占欲。 19歳のジャスミンにとって、過保護な兄の親友・セバスチャンは、自分を子供扱いする「第二の兄」のような存在だった。 しかし、初めてのパーティーの夜、その関係は一変する。 突然降ってきた、深く、すべてを奪うような口づけ。 「焦らず、お前のペースで進もう」 そう余裕たっぷりに微笑んだセバスチャン。 けれど、彼の言う「ゆっくり」は、翌朝には早くも崩れ始めていた。 学内の視線、兄の沈黙、そして二人きりのアパート――。 外堀が埋まっていくスピードに戸惑いながらも、ジャスミンは彼が隠し持つ「男」の顔に、抗えない好奇心を抱き始める。 「……どうする? 俺と一緒に、いけないことするか?」 余裕の仮面を被るセバスチャンに、あどけない顔で、けれど大胆に踏み込んでいくジャスミン。 理性を繋ぎ止めようとする彼を、翻弄し、追い詰めていくのは彼女の方で……。 「ゆっくり」なんて、ただの建前。 一度火がついた熱は、誰にも止められない。 兄の親友という境界線を軽々と飛び越え、加速しすぎる二人の溺愛ラブストーリー。

17歳男子高生と32歳主婦の境界線

MisakiNonagase
恋愛
32歳の主婦・加恋。冷え切った家庭で孤独に苛まれる彼女を救い出したのは、ネットの向こう側にいた二十歳(はたち)と偽っていた17歳の少年・晴人だった。 「未成年との不倫」という、社会から断罪されるべき背徳。それでも二人は、震える手で未来への約束を交わす。少年が大学生になり、社会人となり、守られる存在から「守る男」へと成長していく中で、加恋は自らの手で「妻」という仮面を脱ぎ捨てていく…

王様の恥かきっ娘

青の雀
恋愛
恥かきっ子とは、親が年老いてから子供ができること。 本当は、元気でおめでたいことだけど、照れ隠しで、その年齢まで夫婦の営みがあったことを物語り世間様に向けての恥をいう。 孫と同い年の王女殿下が生まれたことで巻き起こる騒動を書きます 物語は、卒業記念パーティで婚約者から婚約破棄されたところから始まります これもショートショートで書く予定です。

【完結】小さなマリーは僕の物

miniko
恋愛
マリーは小柄で胸元も寂しい自分の容姿にコンプレックスを抱いていた。 彼女の子供の頃からの婚約者は、容姿端麗、性格も良く、とても大事にしてくれる完璧な人。 しかし、周囲からの圧力もあり、自分は彼に不釣り合いだと感じて、婚約解消を目指す。 ※マリー視点とアラン視点、同じ内容を交互に書く予定です。(最終話はマリー視点のみ)

【完結】ひとつだけ、ご褒美いただけますか?――没落令嬢、氷の王子にお願いしたら溺愛されました。

猫屋敷むぎ
恋愛
没落伯爵家の娘の私、ノエル・カスティーユにとっては少し眩しすぎる学院の舞踏会で―― 私の願いは一瞬にして踏みにじられました。 母が苦労して買ってくれた唯一の白いドレスは赤ワインに染められ、 婚約者ジルベールは私を見下ろしてこう言ったのです。 「君は、僕に恥をかかせたいのかい?」 まさか――あの優しい彼が? そんなはずはない。そう信じていた私に、現実は冷たく突きつけられました。 子爵令嬢カトリーヌの冷笑と取り巻きの嘲笑。 でも、私には、味方など誰もいませんでした。 ただ一人、“氷の王子”カスパル殿下だけが。 白いハンカチを差し出し――その瞬間、止まっていた時間が静かに動き出したのです。 「……ひとつだけ、ご褒美いただけますか?」 やがて、勇気を振り絞って願った、小さな言葉。 それは、水底に沈んでいた私の人生をすくい上げ、 冷たい王子の心をそっと溶かしていく――最初の奇跡でした。 没落令嬢ノエルと、孤独な氷の王子カスパル。 これは、そんなじれじれなふたりが“本当の幸せを掴むまで”のお話です。 ※全10話+番外編・約2.5万字の短編。一気読みもどうぞ ※わんこが繋ぐ恋物語です ※因果応報ざまぁ。最後は甘く、後味スッキリ

処理中です...