ほたる祭りと2人の怪奇

飴之ゆう

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3章:水無月神社

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曰く、こちらの世界に来る人間の八割はこちらの世界の養分になるとのこと。
境界は『逢魔時おうまがどき』のみ、必要に応じて緩むモノで、毎日緩くなることは無い。適合した人間がこちらの世界に来てしまうことはあるがそれもまれ。
そして残りの二割はこちらの世界の住人になってしまう。適合条件は妖怪や幽霊等との繋がりがある者のみ。
水無月は、自分に会い、ここから出してほしいと言われれば向こうの世界に帰すと言ったが、こちらも生きるためであるから、この神社はこの世界の者でないと見えないと──。帰ろうと動き、こちらの住人の助けがあって初めて出ることができるのだ。だから、二人は望めば帰れるという。

しかし水無月は二人の顔色を見て言葉を止めた。

「顔色が悪いな……この話は酷であったか」
「いえ……驚いただけなので大丈夫です。続きをお願いします」

水無月はそうか、と言うと話を続ける。

螢と信乃がこの世界に来て目撃したあの大きな穴はふるい分ける為のもので、脳に干渉し意識を混濁させ穴に自ら落ちるよう仕向ける。落ちてしまった者は……お察しだ。
しかし、救済もある。三度鐘を鳴らし、そこで正気を取り戻せばこちらの世界に馴染み始める。昔とはシステムが変わったのだと場違いに懐かしむ水無月に黒曜が咳ばらいをすることで話をもどす。
鯉達に言われたように、こちらの世界の食べ物を口にしてしまうと一瞬でこちらの世界に体が馴染んでしまい、住人になってしまう、と続けた。

「そして信乃、お前が気にしていることの答えを言おう。ここ、幽明ヶ原はあの世と言っても差し支えない。そなたらも薄々感づいているだろうが……あの影達は、養分になった人間の魂の残痕だ。こちらの世界の住人になった者は、たとえ向こうの世界に戻ったとしても肉体が崩壊し直ぐに死ぬだろう」
「そう、なんですか……」
「そんな……私達は大丈夫なんですか?」

螢の問いに水無月は頷く。
螢と信乃は手遅れな程馴染んでいる訳ではないため、今はまだ問題ないと告げる。が、螢と結びつきが強い影を何とかしない限り向こうの世界への帰還を許可したとしても何度でも繰り返されると言う。

「影を断ち切るにはそなたの記憶を探らねばならない」
「なるほど……ここまでは分かりました。」
「それで、なぜ記憶を消すのかだったな。……記憶を消されると、自分が何者か曖昧で分からなくなるだろう?そうなると、自身の目的や生きる術すら消え、残るのは虚無感や負の感情になる。それが行き場を無くし溢れ、支配される。人間は強かだが、何も無くなると途端に脆くなってしまう。しかも、こちらの世界に止める者は誰もいない。自ら落ちていく、自殺だ」

手引きは我々だがな、と水無月は静かに告げる。
水無月自身、幽明ヶ原を全て見通せ、何があったかは知ることが出来る。が、そこに居合わせた当事者に一任し自分は傍観していた。だが、対面し聞かれたら答え、願われたらできる限り叶えたいと思っている。もちろん全部は無理だが。

「儂は曲がりなりにも神であるからな。幽明ヶ原には幾つか規約はあるが……そこまで気にしなくて良い。ある程度疑問は解けたか?」

曖昧に頷く螢達。なんとなく分かりはしたものの理解はまだ追いついていないようだった。

「それでは、そなたらの記憶を戻そう。何かあればまた後で」
「え! あっ、わ、分かりました」
「唐突……じゃない、か?」
「別にもう、答えないと言った訳ではないから良いだろう」

満足げに話を切り上げた水無月は二人の戸惑いを意に介さず、右手をかざした。

「心を静め、儂が声をかけるまで目を閉じよ」 

螢と信乃はそれに従い目を閉じた。
すると、水無月のかざした右手から淡く青い光が蝶になり、二人の額に入っていく。



脳裏に蝶がとんでいる──。身を委ねるように心を静めた。
スルスルと水が流れるように記憶が戻ってくる。

「良い、目を開けよ」

水無月が静かに告げる。信乃は安堵し大きく息を吐きゆっくり目を開ける。隣にいる螢に、やっと戻ったな、と声をかけたが、反応がない。螢?と肩を軽く叩くと彼女はそのまま重力に従い倒れてしまった。
直ぐに立ち上がり、抱きかかえる。螢はぐったりとしていたが眠っているだけのようにも見える。水無月に助けを求めるように顔を上げると水無月はすでに近くまで来ており、しゃがみこむと螢の額に手を当てる。

「……問題ない。安静にしていれば直ぐに目覚めるだろう。……黒曜」
「心得ました。信乃くん、螢さんを社務所に移します。来て下さい」
「分かりました……」

信乃は螢を抱え直し立ち上がると黒曜の後を追う。菊鯉がパタパタと駆け寄って「付キ添ウ!」と付いてきた。そんな菊鯉を見て兎達も向こうで話そうということで、連れ立って社務所に向かった。
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