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 女嫌いの自分が妻とはいえ、自分から女に触るなんてことが起きるなんて夢にも思っていなかった。
 俺の腕に落ちてきた妻は、とてつもなく軽い。

「………これ、どうするべきなんだ?」

 とりあえずこいつのことを背負った俺は、こいつが握りしめていた資料を丁重に扱いながらアーデルハイト邸付近に転移する。

 こいつはアーデルハイト家を文武両道の家系だと思い込んでいるのだろう。けれど、それは違う。
 アーデルハイト家は魔法使いの家系だ。
 アーデルハイト家に属する家は大なり小なり皆がオリジナルの魔法を有して生まれる。それは有事の際の切り札になり得るために、皆周囲には絶対に漏らさない。特に俺が使うことのできる“転移魔法”は大いなる不自然を引き起こす。今回もおそらく王太子が俺の消えたことに関する火消しに忙しなく動くことになるだろう。

(………こいつもその類い、か………………、)

 ふわふわと高熱にうなされている女を屋敷へと連れて帰りながら、俺は嘆息する。

 多分こいつ本人は気がついていない。
 こいつがアーデルハイト家でも稀有な魔法を有して生まれたことに。そして、それゆえにうまく魔法を扱えないことに。こいつは常時高位魔法を行使している状況下に置かれている。こいつ自身は己が身につけた能力であると自負しているようだが、こいつが人の機微に聡いのは心眼の魔法を有しているからだ。
 物事の真実を暴き、人の思っていることを悟るこの魔法は、アーデルハイト家の直系にまでに現れる魔法だ。数十代前にアイリーン男爵家に嫁いだアーデルハイト家の娘によってもたらされたものだろう。

(厄介なことだ)

 舞踏会の際にもしやとは思っていたが、今日直感だけで宰相殿の悪事の資料を見つけた瞬間に確信に至った。

(さぁて、この資料をどう扱うべきか)

 騒ぎ立てるマーサに妻を預けた俺は、何故か殺気が抑えられない心を無視して、王宮へと足を向ける。

 全ての舞台は、今まさに戦力外となった妻が宝石商時代の人脈を駆使して、俺でさえも動かすことの難しい貴族を動かし、完璧に整えていた。

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読んでいただきありがとうございます🐈🐈🐈

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