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3 美しき母
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私の母は、国王の妾だった。
その前は、旅一座の踊り子だった。
一国の国王が望むほどに、母はとても美しい女だった。
漆黒の波打つ艶やかな髪は目を惹き、純白の肌は陶器のようで、サファイアのような瞳はきらきらと輝き、その豊満な身体付きと整いすぎた顔立ちはまるで女神の像のようであった。
本当に、客観的に見ても美しく、そして艶やかな女性であった。
そんな母の、旅一座の花形の人生は、私を身籠ったことでどんどん狂っていった。
旅一座は身籠ったお母さんを躊躇いなくあっさりと捨てた。
そして、お母さんは私を産むことになった。
生まれた赤子である私は、運悪く“生き残る条件”を満たしてしまっていた。
だからこそ、母は沢山の妃たちから恨まれることになった。子供を産んでも“生き残る条件”に満たさなかった子供を持つ女たちは、例え生き残った子供が女であっても、国を継げる男でなくても、恨みに恨んで、そして私と母を何度も何度も殺そうとした。
何度も命からがら助かって、でも、結局お母さんは死んでしまった。
「フローラ」
お母さんの声は、今も目を閉じれば簡単に思い出せる。
愛おしものを呼ぶ声は、もう10年来私に向けられたことがない。
憎い男と同じ色彩を持った娘なのにも関わらず、お母さんは私を可愛がってくれた。
時々私の髪や瞳を見ながら苦しむ母を見つめながら、私は心苦しく思っていたものだ。でも、髪を長くして瞳を隠すことはできても、髪の色を変えることはできない。髪を染めることは、ディステニー帝国では禁忌に触れてしまうからだ。
「ミドルネームというのはね、ヴァルキリー王国特有のものよ。だから、ちゃんと隠し通さなくてはならないわ。わたくしがヴァルキリーの生まれであると知られてしまえば、あなたがたとえ皇女であったもあなたは死を賜ってしまうでしょうからね」
お母さんは危険を犯すことになるミドルネームを、何故か私に付けた。
心の底から不思議で、何度もお母さんに理由を尋ねた。けれど、お母さんはにっこりと笑って首を横に振るばかりで決して教えてはくれなかった。
神殿に提出する書類の私の名前の欄には、『ワルキューレ・フローラ・ディステニー』と書かれているらしい。母は、そのことをよくよく私に言い聞かせた。それと同時に、何か困った事があったら必ずヴァルキリー王国の神殿を訪れなさいとも言った。
「必ず生き残ってね、フローラ」
お母さんはいつも私に言っていた。
だから、私はたとえ自分の手を真っ赤な血で汚すことになったとしても、戦場に出てたくさんの命を散らさなくてはならなくても、生き足掻いて、生きもがいて、生き残らなければならない。
それがお母さんの願いであり、望みだから。
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