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19 王子の一端

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 ふわりふわりと花弁が風に乗って舞うように、アザリアはナイフを振り回し、王子を殺そうと奮闘する。

 殺せないのは重々承知。
 ほんの僅かでも攻撃を通したいという願いから、アザリアは武器を握り続ける。


「………………」

「あら、それでも黙り?」


 王子の行動にいささか呆れを含むアザリアは、艶やかな仕草でナイフを振い、回し蹴りをお見舞いして、けれど全て避けられてしまうという現状に辟易とする。


「………俺、王弟の子供なんだよね」


 ———シャン、


「国王からすると甥にあたる」


 ———シャン、


「あのおっさんさ、自分の女癖が悪いせいで、自分の子供じゃない子供を自分の子供として扱わないといけなくなったんだ。
 しかも、大嫌いな異母弟の子供を」


 彼の顔が苦しそうに歪む。
 アザリアは初めて、彼が演技じゃない表情を見せた気がした。


「国王は俺を恨んでいるんだ。
 だから、俺が大切にするもの全てを壊していく」


 ———がぎいぃぃっ!!


 一際強く振り下ろされた剣に、アザリアの表情が歪む。
 痺れて使えなくなった腕を庇うように下がりながら、どんどん過激になっていく彼の攻撃に、猛攻に、激昂に、アザリアはそれが彼の持つ感情の未だ一端でしかないことを悟る。


(王子さまを突き動かすのは複雑怪奇に絡まり合った復讐の炎………、それがなくなった時、彼は間違いなく壊れる。やっぱり王子さまを王にすることなんてできないわ)


 素早い突きを繰り出したアザリアは、その反動のままにバク転をし、彼から距離を取った。
 彼の猛攻の衝撃をもろに喰らった左腕をだらんと垂らしたアザリアは、穏やかに、安心させるように微笑む。


「国王さまはあなたから何を奪ったのですか?」


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読んでいただきありがとうございます🐈🐈🐈

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