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30 暗殺者

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 ゆっくりとエメラルドの瞳を開け、うるると揺らしたアザリアは彼の胸に自身の額をぐりぐりと押し付けた。
 ふわっと香るミントの香りが鼻腔をくすぐった。


「………わたくしはまだ死にたくない。
 けれど、わたくしの心は、危機管理能力は、何故かこの件を調べろと叫んでいるわ」


 ———シャン、


「教えなさい、アルフォード・クライシス。
 この件に何が絡んでいるのか。何が潜んでいるのか。
 そして、………何がここまで多くの悲劇を生み出し続けているのか」


 首元にナイフを突きつけたアザリアは、いつもの艶やかな微笑みを微塵も浮かべていない。
 ただただ冷酷に、冷淡に、そして滔々と尋ねる。
 いつもの暗殺姫としての姿ではない声に、表情に、空気に、王子はくちびるを戦慄かせる。

 何かを隠していることが明確な表情に、アザリアは一部の情報の漏れも許さないと言わんばかりに、すうっと瞳を細める。
 妥協を許さない狩人の瞳をしたアザリアに、王子は大きく溜め息を吐く。


「“今は”何も知らない。だが、………この件には父上が関わっていると俺は思っている。ただそれだけだ」


 大きく感情の入った震える声。
 緊張した筋肉に、わずかに痙攣した瞳。


(———………何かを隠している………、)


 アザリアは彼の首にナイフの刃を当て、ちろちろと流れ始めた血液を冷ややかな目を向ける。だんだんと深く食い込むナイフに、王子が抵抗することはない。

 真っ赤な鮮血が彼の身につけている白いシャツを汚す。


 アザリアが手心を加えることはない。
 ただただ無慈悲に、遠慮のかけらもなく相手を追い詰める。


 だってそれが、

 ———暗殺者だから。

 
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読んでいただきありがとうございます🐈🐈🐈

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