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32 今日も殺せない

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 部屋に戻ったアザリアは、早速国王と第1王子、そして王妃宛に手紙を書いた。
 内容はどれも季節の他愛もない挨拶から始め、徐々に踏み込んだ内容にしていき、王子への愚痴を書き、わずかに助けを匂わすような文章につなげる。
 悲痛さを滲ませるように数滴目薬を落とせば、お手紙は完成。

 国王はもちろん読んでくれるだろうが、第1王子と王妃は5分5分と言ったところだ。
 第2王子の恋人からのお手紙と言われれば、読む確率は高いだろうと踏んでこのぐらいなのだから、そうでなかった時の未来が危ぶまれる。


「失敗ばかりを考えてはダメ。
 いくつものパターンを考え、材料を用意し、刻み、使える具材だけをお鍋でことこと煮込む。
 しっかりしなくちゃ。この任務は、いつもとは勝手が違うのだから………」


 この任務に当たるにあたって、アザリアは普段のように組織を頼ることができない。

 組織はアザリアが赤の一族に関わる案件に触れることを、ものすごく嫌っているから。

 もしも頼れば、アザリアは間違いなくこの任務から降ろされてしまうだろう。
 そうなれば、赤の一族を調べることはもちろんのこと、もう王子を殺すことも叶わない。

 それは、アザリアの暗殺者人生史上最高の汚点となってしまう。


「意地でもこの任務は達成させる。
 たとえこの案件のせいでこの国が、世界が滅びようとも———」


 ネズミを、否、大きくて格好の餌食を見つけた猫のように、アザリアはエメラルドの瞳すぅっと細める。
 エメラルドの瞳の奥底に渦巻き燃え盛るのは圧倒的質量を持った誓いと決意。


 暗殺姫アザリアは、今日も溺愛王子を殺せない。


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読んでいただきありがとうございます🐈🐈🐈

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