EQ200

凛快天逸(Rinkai Tensor)

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首相就任

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 今日から日本のトップは僕の父親になった。
「それでは、木戸哀田首相。首相就任スピーチをお願いします」
 進行係の人間が告げる。
「はい」
 首相官邸からの全国民に向けてスピーチを行うのである。
 現在時刻は朝8時で、首相官邸周辺にはメディアやら国民やらが大勢集まっている。謎のQと呼ばれる人間から人質にされて首相が誕生してしまったので、日本の注目は限界まで高まっているのだ。
 自分の父親を操りながら、愛九はスピーチを開始した。

「突然ですが、日本のみなさん、EQという言葉を耳にした事はありますか?」
 哀田首相を操る愛九は、全日本国民に、問うた。
「EQ?」
「なんだ、それ?」
「IQとは違うのか?」 
 が、放送を見ている人間は誰も肯定的に頷くことはなかった。つまり誰も馴染みのない単語なのだろう。IQならば誰でも分かるが、EQという概念は影が薄い。

「EQという概念は、心の知能指数を測る指標のことであり、感情をコントロールして応用できる能力を意味します」
「ふーん」
「初めて聞いたな」
「で、だから、何なの?」

「私は常々こう思ってきました。この世界ではIQが重視されすぎて、EQという概念があまりにも軽視されていると。このような世界は好ましい状況ではありません。なぜなら人間という生き物は知性ではなく、感情によって突き動かされるからです。だがしかし、頭脳を司るIQ、感情を司るEQ、どちらか一つが欠如しても良いのでしょうか?いいえ、そんなはずはありません。社会という複雑に絡み合った世界において客観的な認識を持つこと、それは始まりに過ぎません。そして同時に、社会で生きているというのは、人間であることも忘れてはなりません」

 さらに首相の口から愛九は、世界の否定的な面を羅列していく。
「この世界には問題が多すぎます。上昇傾向が止まらない犯罪率――」
 そして最後にこう結論付ける。
「こういった大きな問題は現状のままでは解決されることは絶対にありません。だからこそ私のような、神に賜われた能力者の存在が必要なのです」

 首相から切り替えて、今度は直接、愛九自身の口を使って宣言した。

 そして愛九は生徒会スピーチを続けていく。
「だがしかし、大きな問題ばかりに目を向けて、小さな問題から目を逸らしては良いのでしょうか?」
 会場は完全に沈黙した。
「いいえ、そんな事はありません」
 
 愛九は同時に二人を操っていた。一人は自分の父親である木戸哀田、そして二人目は自分である。
「こうやって生徒会長に就任したのも、僕自身がEQとIQ、その両方を満たす人物だからです。それら2つが調和して初めて、理想的な生徒会長が務まるのです。問題を客観的にそして感情的にも捉えて、最高の決断を下していきます」 
 愛九はなんと今日、首相になるとともに、生徒会長にも就任していたのだ。

 場所は高校の体育館。生徒会長就任式には既に生徒達や教師陣が揃っている。彼らは熱心に愛九に対して、耳を傾けている。

「確か愛九って、IQとEQが200なんだよな」
「嘘!?」
「まじかよ……」
 生徒達が耳打ちしている。その噂は事実である。愛九は頭脳と心の知能指数両面に於いて、完璧な数値を持っているのだ。

「もしかしたら将来、愛九は首相にでもなったりしてな」
「あ、それあり得るかも」
「だよね」
「僕はそれら巨視的な視点を要する社会的な問題から、学校の出席率そして風紀問題に至る微視的な問題までも見据えた、ミクロとマクロを両立させたバランスの良い政策を行っていきます」
 
 発言する人間を切り替えて、愛九は、首相の口から意見を述べる。
「普通の人間なら、このような夢物語はただの幻として霧散していくでしょう。ですが、私は例外です。先程も述べたように、私はIQとEQを最高峰に所有する完璧な人間、そして神から授けられた特別な能力をも、持ち合わせているのです」
 そして愛九は、最後に約束を添えて、スピーチを終えた。
「安心してください、みなさん。僕はここに約束します。悪を断絶して、心の清らかな人間が栄える社会を創り上げる事を」
 
 パチパチパチ。
 そしてスピーチが終了した。
 高校の体育館には大きな拍手喝采が響き渡った。校長先生から生徒まで全員が揃って応援している。愛九は全投票を獲得して生徒会長になったのだ。

「少しだけ強引かもしれないが、まあ、あの天才の愛九君だしね」
「だよね。彼のような努力家の人が発言するんだから、説得力ある」
「それに、カリスマ的だし!」
 という賛成的な態度を取っている者も多いが、もちろん、否定的な意見を見せる生徒もいた。


 就任式が終了すると、授業の為に生徒達は各々教室に戻っていった。

「かっこよかったよ!愛九君!」
 理沙が褒めてくれた。
「えっと、どうだったかな、僕のスピーチ……」
 頭を掻きながら、愛九は純粋な心から訊ねてみた。
「ちょっとかなり理想的だけど、私はまあ……賛成かな……?」
「あ、ありがとう!」
 愛九は心の底から嬉しかった。

 例え世界侵略に羽根を伸ばしても、足元を疎かにしてはいけない。愛九はそう信じている。大きな世界と小さな世界、それらは聯密に結び合い、一つの世界を成しているのだ。
 僕はみんなを幸せにしたいんだ。世界中の人々はもちろん、社会の底辺でもがき苦しんでいる、光さえも照らされない貧しい人々、少数派の人々、理解されない人々をも。彼らはみんな人間なのだ。一体どうして、幸福になれない権利などあるだろうか?いいや、みんな幸福になるべきだ。

「それじゃ、この問題は、今日生徒会長に就任した愛九君に解いてもらいましょう!」
 数学教師は親切なのか意地悪なのか、愛九に問題をぶん投げた。
「i=9です」
 愛九は即座に回答していった。
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