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凛快天逸(Rinkai Tensor)

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北海道本土侵略1

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 その頃、抵抗軍が陣取る北海道では、大いなる緊張に包まれていた。超日本帝国が京都府から東北まで強化IRを進撃させてくるのだ。
 抵抗軍は日本最後の砦である北海道本土を基地として、超日本列島側に防波堤を構築していた。

「元帥!超日本帝国軍のIR機体が今、東北まで到着した模様です!」
「やはり、内戦は避けられないのだろう……」
 元帥は嘆いた。

 

「……」 
 その頃、北海道のさらに北、つまり日本列島の最北端、択捉島で、一人の男が林檎に視線を注いでいた。彼の名前は零千(れいせん)零血(れいじ)。
 極度の変人として知られ、普段は誰とも視線すらも合わせようとしない人間だ。彼は文明から限界まで乖離した場所で、択捉林檎農家として自給自足の生活をしている。

 零血は感情の神童として生まれつき、飛び級をやってのけた。彼が中学校に進級するときには既に高校に入学していたのだ。だがあまりにもEQとIQが高すぎて、彼は人間社会に対して嫌悪感を抱いた。
 結果として、零血は高校を中退して文明社会から最も乖離した日本列島の最北端、択捉島に在住することにしたのだ。林檎を育てる択捉農家として一人だけで生活を築き上げながら、平和に時間を過ごしていた。

 だがしかし、零血でも時には人間たちと意思疎通をする必要性があるのだ。というのも択捉島では生活維持に必要な道具が揃わないのだ。
 だから零血は年に1回だけ南下、北海道本土に渡る必要がある。そこで最低限の日常用品やら電気用品を購入するのだ。
 今日は丁度、その買いだめの時だった。
 林檎農家として択捉林檎の収穫が無事に終わると、零血は遠出する準備をした。



「超日本帝国軍だ!」
 超日本帝国軍の一人が、北海道本土に陣取る抵抗軍に、降参を要求した。
 抵抗軍の最終防衛線である北海道を囲む巨大な防壁。それらはQによる統治の否定を象徴しているのだ。彼が悪であり、国は民主的な方法によって動かされるべきであるという思想の発露である。
 だがしかし、そんな防壁の前に巨大なIR群が立ちはだかる。強化IR一体でも超日本列島を滅ぼしかねない威力を持つのだが、それが何と十倍の数も揃っているのだ。
 
 抵抗軍に勝てる見込みはあるはずもない。けれども抵抗軍は理想に殉じて降参することは絶対にしようとしない。これまでも幾度となくQから白旗を揚げる事を要求したのだ。だがそれらは無視されてしまった。
 そして今、Qから最後通牒が成されようとしていた。
「抵抗軍の者たちよ、もし今、貴方方が降参するならば、全員の命の保証はもちろん、あらゆる下等な条件をも与えずに、超日本の国民としましょう」
 拡声器を使用して北海道全土に響き渡るようにと、宣言した。
 だがしかし結果は残念なものだった。

「ふざけるな!何が超日本だ!」 
 元帥はそんな返事を返してきた。

「愚かな……」
 愛九は失望した。
 愛九は全員の幸福、そして幸せの為に己の危険を犯して、こうやって世界侵略を行っているのだ。それなのになぜ、彼らは抵抗などという無駄な行為に殉じるのだろうか。
 だがしかし愛九は慈悲心を忘れることはなかった。

「分かりました。それでも私は、抵抗を貫き通す貴方方を、殺害することは絶対に避けることを誓います。なぜなら私は、皆さんの幸福を願っているのです」
 さらに続けて、
「ですがもし、貴方方の抵抗軍の基地が完全に壊滅してしまって、どうしても降参したくなったら、そう申してください。私はいつでも貴方方の降参を受け入れます。そして他の国民のように、幸福に満ちた生活を確約しましょう」
 という寛大な慈悲を滲ませた声明を敵軍に送り出すと、愛九は遂に超日本列島内戦を開始させた。


 強化IRは超日本列島から飛び立った。
 IR達が一瞬にして巨大な防衛線である防壁を粉砕していった。複数機が海を飛び越えると、圧倒的な重量を持って踏み潰したのだ。
 そしてIR達は北海道本土を優しく闊歩しながら、抵抗軍の基地を破壊しようとした。

「潰せ!」
 愛九は心の中で叫んだ。
 抵抗軍の基地を壊滅する事がだけが任務である。軍事基地などの軍事力に関わる施設だけがターゲットであり、それ以外は絶対に攻撃してはいけない。
 抵抗軍の人々や地元の人間、そして自然も動物も殺傷してはならない。それに北海道の伝統も壊してはならない。出来るだけ優しく、そして優雅に作戦を決行するのだ。

 また人々にトラウマを与えないようにと、出来るだけ配慮も入れなければならない。やはりこういった戦争のような経験は精神的なダメージを生んでしまうのだ。
 それらの点を踏まえて、首相の身体を通じて、愛九がIR操縦者に命令を下した。
「絶対に優しく侵略するんだ!けが人を出さないことはもちろん、動物や自然にも配慮しろ!北海道本土の伝統も絶対に穢さないように、手一本触れるな!」
「「「了解!」」」
 超日本帝国軍のIR操縦者が同意を示すと、北海道本土を進撃していった。



 午前が終了して、午後に突入。
 愛九は勉強を教える事にも天才的であった。だがそれは考えても見れば、当然のことでもあった。なぜなら愛九の頭脳には、EQとIQが完璧な調和を持って同居しているのだ。
 科目を理解する能力、そしてそれを、感情を持った人間に教える、という作業に於いて、むしろ彼ほど適している人物は理論上いないのだ。
 だからリビングで数人程度の妹の友達に勉学を享受するという規模では、彼の才能は収まりきらなかった。
 それでは愛九はどうなったか。

「これから先生になる木戸愛九です。よろしくお願いします」
 愛九は学習塾の講師に抜擢された。
 有名進学校の進学塾として府内で最も有名な教室であり、そこで今、教師をしている。小学生から高校生までの塾なのだが、愛九は府内で最もエリート校に通学しているので、講師として採用された。受験生でもありながら、愛九は余裕でバイトをしているのだ。
 ちなみに愛九の妹もここに通っている生徒の一人である。というよりも先日愛九の自宅で勉強会に来ていた妹の友達がほとんどである。

「あの人、京心付属生らしいぜ!」
「まじかよ!」
「それにイケメンだ!」
 早速、愛九は塾生たちの話題になっていた。
 
「……」
 愛九は学習塾から配布されたタブレットではなく、自宅から持ってきたタブレットを持参した。それは普通のタブレットではなく、世界侵略の為のアプリケーションが搭載されているものだ。
 ここで忘れてはならない。愛九はもちろんだがマルチタスクをしている。受験生、塾講師、IR機体複数操作、世界侵略など、あらゆる系統の作業を複数同時にこなしているのだ。
 塾講師はその中でもあくまで一つなのである。だがしかし愛九にとってそれぞれの行為の熱量は平等であり、どんな行為でも蔑ろにしない人間である。

 タブレットを使用し複数のIR機体を操作しながら、複数の進学塾のクラスを統制していく。
「愛九さん、ここ分からないから教えて!」
「わかった、今行くね!」
 愛九は中学生に大人気だった。勉強も出来るし、教え方も才能があり、それにイケメンだし、とにかく何事にも長けていた。



 新日本列島で、内戦が繰り広げられた。
 秘密裏に愛九が率いる超日本軍に対して、北海道を拠点とする抵抗軍。これら2つの勢力が真っ向から衝突していったのだ。
 軍事力などを始めとして、超日本軍はあらゆる側面に於いて、抵抗軍に対して格上であるという事実は明らかである。

 愛九は偉大なる慈悲の心を持って、最も寛大な世界侵略を敢行しているのだ。人間にも自然にも動物にも、あらゆるものに寛容を見せる。
 そして抵抗軍の基地の壊滅作戦を着実に進めていく。

「あ、ロボットだ!」
 と興奮しながら、ある一人の男児がIRに接近してきた。普通ならば、彼は一瞬にして蹴散らされて死亡してしまうのだが、愛九は全く対照的な反応を見せた。

「ほら、こんな所で遊んでいたら、危ないよ」
「でもこんなかっこいい」
 すると男児は限界までIR機体まで寄ってきた。
「今回だけは特別だぞ」
 愛九はもちろん罪なき人々を意味もなく殺害することはしない。むしろ、楽しませようと子供をあやしていくのだ。

「うわ!凄い!ロボットってスゲー!」
 IRから担がれながら、男児は興奮を抑えきれず叫んだ。
「どうだ!?面白いだろ!?」
 愛九は時折、抵抗軍に属する子供をIRの機体に乗せて楽しませる。軍事的に強化された産業ロボットに乗った子供はまるでアトラクションを楽しむように目をキラキラさせる。

「よしこれで抵抗軍の軍事基地の半分は壊滅したな」
 そんな優しい一面を見せる一方で、他の機体では北海道にあった軍事施設を既に半分粉砕した。これで軍事力は半減した。
 
「ロボットに乗せてくれて、ありがとう!」
 愛九は男児をIRに乗せたまま、保護者に返してやった。
「それじゃ、危ないから出来るだけ遠くで見てるんだぞ」
「分かった!」
「約束だ」
「うん!」
 愛九は男児と約束を交わすと、IRを操縦して、残る抵抗軍の基地を潰しにかかる。


「だりーな」
「勉強とかやめて、はやくゲームしようぜ」
「おう!」
 学習塾では騒ぎが起きていた。どうやらみんなのやる気がなくなってきて、遊び始めているのだ。中にはゲームを出している生徒も見られる。

 そこで愛九は一度喝を入れた。
「みんな、ほら、集中集中!」
 愛九の鮮烈な注意で、学習塾は一気に沈黙に包まれていった。
「お兄さん、厳しんだね……」
 と先程の優しい愛九からは想像も出来ないほどの苛烈な声を聞いて、妹の友達は囁きあう。
「うん、お兄ちゃんは優しいだけじゃないんだ」
「い、意外……」



「よーし!抵抗軍の軍事基地は崩壊寸前に近いぞ!」
 抵抗軍の基地は既に壊滅的な被害を被った。多くの軍事基地は悉く粉砕されて使用不可に。これではもう超日本帝国に歯向かうことは事実上不可能に近い。
 後残されるのは商業施設である。北海道の全員を降伏させるには、やはり一時的にでも生活手段を破滅させる必要があると思っていたが、何とかそれだけは避けることが出来た。これも極めて残酷な行為だから、どうしても敢行したくなかったのだ。一般市民にまで甚大な被害を被らせるのは、どうも出来ないのだ。
 愛九は安堵を覚えながら、抵抗軍の中枢部である中央基地にIR機体を進撃させていく。

 だがそこで事件が発生した。
 進撃する軍事用IR機体の前に、小さな女の子が立ちはだかったのだ。まるでその光景は無名の反逆者を思わせた。無名の反逆者とは、1989年6月4日に中華人民共和国で起こった天安門事件の直後、天安門広場に通ずる長安大街の路上で撮影された、戦車の行く手を遮る映像に登場する男性のことである。

「お願い……もう争いはやめて……」
 か弱き少女は、狂いゆく国の趨勢に憂い、疲弊していたのだ。

「何をしているんだ!どいてくれ!そこをどくんだ!」
 愛九が心で叫んだ。だがその叫びは、少女に届くことはなかった。
 少女は軍事施設の前に立ちはだかり、そこから動こうとはしないのだ。このままでは一生、日本侵略という夢を叶えることは出来ない。
 ならば自分から優しく移動させる必要があるようだ。そう思って、愛九はIRを慎重に操作していく。



「……」
「愛九さん、社会のここ、わからないから、教えて!」
 愛九はタブレットに集中していたので、少女から問題を訊かれているということに気づけなかった。塾講師としての業務を思い出して、
「……ああ、わかった。えっと、どこがわからないんだ?」
「ここ!」
「そうか……どれどれ……」
 
 愛九は少女の席に近づいていき、広げられた参考書を眺める。科目は社会科だった。
「ふむ、これは暗記問題に近いから、そこまで頭を悩ませる必要はないよ」
「そ、そうなんですか?」
「ああ。それにこうやっておけば、もう二度と忘れることもない」
「あ、凄い!」
 愛九はただ答えを教えるのではなく、工夫を凝らして、彼女に勉強を教えた。
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