夕焼けの降る街

ゆた

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降る街

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空を眺めていた。
ふと、今日見ていた夢を思い出した。

淡い夢だった。
いつもと変わらない街並みをただ歩く夢だった。

ただ、違っていたのは

夢の中には彼と私以外の、誰一人いなかったこと。

私たちが住むこの街は、夕焼けが降るという迷信がある。
それが、本当なのか嘘なのかは誰も知らない。
ただ、夕焼けが降るところを見てはいけない、というのがこの街のみんなが知っていることで、年に一度の夕焼けの降る時期になると、みんなこの街の地下に閉じこもる。
夕焼けが降っているのを見るとどうなるのか、そもそも夕焼けが降るとはどうゆうことか、誰も知らないのだ。
その秘密を知ろうと、解明しようとした者がいたらしいが、その者は帰ってこなかったというらしい。

「そろそろ、夕焼けが降りそうね」
ふと、晩御飯を作る手をとめて、曇り空を見上げながら母が言った。
「また、地下室に?」
「食べ物を買ってこないと」
当然の事だというように、母はまた晩御飯を作る手を動かした。

「神様がいるんだってよ」
背後から弟の声がした。
「神様?」
「お姉ちゃん、知らないの?」
「夕焼けが降るのって神様せいなの?」
「うん」
「へえ」
心底どうでもよかった。
ただ、またしばらく外に出れなくなるのが嫌だなと思った。
神様のせいなら、なんためにこんなことするのか聞かせて欲しいものだ。

それから数日経って、案の定地下室にこもらなければならなくなった。
「お姉ちゃん、はやく」
「わかってる」
弟に急かされて、私は階段を下っていく。
「あ」
「どうしたの?」
「ぼく、忘れ物しちゃった」
弟がうつむいた。
数日すれば出れるのだから、別にいいだろう。
「別にいいでしょ、またすぐ戻ってこれるんだし」
「だめだよ、。だって、お母さん持ってきてって言ってたから」
「じゃあ私が取りにいってくるから」
「でも、もう夕焼けが降ってくるよ」
「大丈夫よ。で、何を忘れたの?」
「えっとね、」

弟が忘れたものを、取りに地下室へと続く階段をのぼる。
そろそろ夕焼けが降る頃だ。
なんなら、見てやろうじゃないか、そんな気持ちが湧いてきた。
多少の罪悪感というか、恐怖はあったものの好奇心の方が勝ってしまい、私はリビングから窓の外をみた。

嘘みたいに、綺麗だった。

夕焼けが、降ってくるのだ。
嘘みたいに、。
言葉も出ない、形容し難い感情を刺激されて、私はその景色に釘付けだった。
外に飛び出した。
抑えられない衝動と、もっと、もっと、もっと近くでみたい、刻みたい、そんな欲望が私の中を駆け巡って、私は外へと飛び出した。



夕焼けが降り始めた街に。
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