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本編
19. それ、年寄りくさいにゃ~
しおりを挟む誰かさんの入れ知恵だったり、彼女だけの特殊事情だったりではない。
女神様の悪戯が抜けきっていないとか、古の時代に敵対した最凶の邪竜から呪われているとか、人語を間違えて覚えているとか、人間を転がす演技の名残なのだとか、長生きの猫妖精でも色々言われて原因を忘れられるくらいに染み込んでいる。
ちなみに因みに、アイシスの愚痴を聞いてくれているときは、途切れ途切れとなる話し方に付き合い、真面目に慰めてくれるので激減する。
機嫌の良し悪しが読み取りやすいと、彼女は可愛らしい口調や仕草に癒されながら聞き分けている。シリアスなコムギは、それはそれで愛くるしいらしい。
「神聖王国なんかに留まりたいとは思わないから、このまま西を目指そうと思うの。取り敢えずだけど、手っ取り早いし」
下側一部が大地に触れ始めた夕陽を指差して、アイシスが目的地もない計画を打ち明ける。
「ふむふむ、ミフィル教の総本山を目指したら聖女として同じように扱われそうだし、ここより西にあるヤトガン帝国の周辺は自由と活気があって良いらしいにゃ~。有名な料理があって、こっちよりご飯も美味しいとか聞いたのにゃ!」
東側が少々きな臭いことを掴んでいるコムギは、反対側を選択したアイシスの提案に賛同した。
大陸一の大河が抜ける帝国は、東西南北の大街道と水運が交わる要衝だ。
豊富な水量は安定した食料生産を約束する。帝国西の海原、北の山岳、東の草原、南の森林地帯からは、多種多様な農産物や海産物が持ち込まれる。食文化がもっとも華やいでいる地域であることは間違いない。
「それ大事な!」
「にゃ!」
ぽいと差し出されたアイシスの左手のひらに、コムギの鮮やかな肉球が叩き合わされた。にへらと嬉しそうな表情となるのも仕方無いことだろう。
ちなみに、猫妖精は魔力へ変換するように取り込むので、食べられる物は何だって食べてみます。動物には猛毒となる食材だって、美味しいならイケちゃうかもしれません。
消化しきるまで青い顔をして、多少お腹を下してぎゅるぎゅる鳴らしているけど。でも、排泄されたりしないから、ばっちくないのです。
行商人の噂だって興味津々だし、ぽつりぽつりと聞かされていた日本の料理もいつか作ってくれないかにゃと期待を持っているのです。
「何か、お馬鹿王子は北部の国境から放り出してやるとか寝言を言っていたけどさ、そこまで言われたことを聞いてあげる義理はないし、良さげなところを拠点にして、あちこち世界を見て回りたいわね~!」
「お付き合いするのにゃ~」
かじり終えた林檎の芯はそいやーと投げられ、火属性魔法《火球》の練習台されてしまう。そして、燃え尽きたところを見届けたアイシスが、どっこいしょと声にして立ち上がる。
「それ、年寄りくさいにゃ~」
「うっさい」
真似したコムギから追加された的を華麗に撃ち落とし、二人は王都に背を向ける。
「それじゃ、美味しい食べ物を求めて、レッツゴー!」
「仕方無いにゃ~」
元気に右拳を突き上げたアイシスは、夕焼けに染まる銀髪を舞い踊らせて未知なる世界の冒険へ突き進む。
本当に性格は正反対にゃのねと苦笑いを浮かべ、のんびりと右拳を伸ばしたコムギを引き連れて。
★ ★ ★
聖女アイシスの定期治療会が説明なく途絶えてから十日ほど。
北部戦線激励の予定を切り上げた国王の執務室に、事情を知る王子と宰相が集められた。
「ある程度の説明は受けたが急ぎ戻ってきたからの、聖女が大聖堂から消えたという日のことを詳しく聞きたい」
四十代半ば、馬に乗るとき少々お腹の肉が気になってきたサイアント・ジェント・ポシャントが、強行軍の疲れを押しやり質疑応答を始めた。
険しい顔をした国王と向き合うのは、第一王子のサイバードと宰相のガルリゲスの二人。責任を感じているのかいないのか、背筋を伸ばして椅子に座る。
それから、第二王子のセビルンド・ビアント・ポシャントが、兄が叱責されると聞いて護衛の騎士を引き連れて押し掛けている。彼だけは、話し合いが聞こえるかどうかという少し離れた席を与えられている。
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