繋がる夜と新しい朝

こうたろ

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繋がる夜と新しい朝

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 朝6時30分。アラームが鳴る前に目が覚めた。

 ベッドから起き上がり、カーテンを開ける。まだ薄暗い春の朝空。昨日と同じような一日が始まるのかと思うと少し憂鬱になる。

「さてと……」

 洗面台に向かい、顔を洗う。冷たい水で意識がはっきりしてきた。

 朝食は簡素だ。冷蔵庫から出した食パンにマーガリンを塗り、インスタントコーヒーを淹れる。テレビをつけながら黙々と食べ進める。

 8時過ぎ、大学へ向かうバスに乗り込んだ。座席はほぼ埋まっており、立ち客も多い。スマホを見つめる若者たちの群れの中で、自分も例外ではない。

 9時からの授業は「作物育種学」。農学部植物化学科の専門科目だ。教室に入ると既に数人が机に向かってノートを広げていた。

「おはよう、直人」

 同じ学科の佐藤が声をかけてくる。

「おはよう」
「先週の実習どうだった?」
「まあまあかな」

 軽く返事をしながら席に着く。教授が入ってきて授業が始まった。



 昼休み。学食は混雑していた。A定食を買い、空いているテーブルを探す。

「あ、山田くん!」

 振り返ると別のゼミの女子学生が手を振っていた。

「よかったら一緒どう?」
「えっと……」

 断る理由もないが、特に話題も思い浮かばない。適当に相槌を打ちながら食事は進む。

「それでさ、今度のパーティーに来ない? 高橋くんも来るよ」
「いや、俺はそういうの……」

 社交辞令で断ろうとしたとき、ふと昔の記憶が蘇る。

『直人はホント地味だよね』

 中学時代、クラスメイトに言われた言葉。あの時は悔しくて、何か変わるきっかけを探した。でも結局変えられなくて……



 午後のラボ作業は比較的集中できた。遺伝子解析の結果を整理するのは単純作業だが、間違いが許されない分神経を使う。

 夕方5時すぎ。実験データを持って指導教官のもとへ。

「先生、これどうですか?」
「うーん、もう少しサンプル数増やせたら信頼性が上がるんだけどね」

 厳しい指摘に少しへこむ。課題が増えたことは喜ぶべきなのか悩みどころだ。

 帰り道、スーパーで夕飯の材料を買う。野菜炒め用の具材と豆腐。一人暮らし二年目ともなると料理スキルも上がってきた。



 19時過ぎに下宿に到着。シャワーを浴びた後、簡単な夕食を作る。

 ニュース番組をつけながら箸を進める。世の中は様々な問題で溢れている。農業の未来はどうなるんだろう。環境問題に貧困問題。考えるだけで気が重くなる。

 食べ終わるとレポートの続きにとりかかる。教授が出したテーマは「持続可能な農業システムの構築について」。資料集めに時間がかかりそうだ。

 23時前。明日も早く起きなければいけないので就寝準備をする。ベッドに入って天井を見つめながら考えた。

(俺は何を目指してるんだろう)

 最近そんな自問が増えた。将来のビジョンはある。だけど時々不安になる。「今のままで本当にいいのか」と。

 スマートフォンがメッセージの受信を知らせた。画面を見て思わず目を見開く。

『明日会えない? 』

 それはまさかのアリサからの連絡だった。

 一気に緊張感が高まる。五年ぶりの再会。何を話せばいいんだろう。それよりなぜ今?

 返信しようとして手が止まる。胸の鼓動が速くなっていく。

 結局返信したのは、「何時に会える?」という当たり障りのない内容だった。送信ボタンを押した途端、なんだか後悔のような感情が湧いてくる。
 そのまま枕に顔を埋めた。何故こんなにも胸がざわつくのか。理由を考える気力はなく、その夜はなかなか眠れなかった。
 アラームが鳴る前に目が覚めた。

 昨日送ったメッセージに対する返信は深夜に届いていた。

「じゃあ10時に中央公園で待ってる。楽しみにしてるよ。』

 短い文章なのに、何度も読み返してしまった。五年ぶりの再会。一体どんな顔をして会えばいいのか。眠れない夜を過ごした末の朝だった。



 洗面台に向かい、鏡の中の自分を見つめる。昨夜ほとんど眠れなかったせいか、目の下に隈ができている。髪もセットしなければ。いつものように後ろに軽く流すだけのスタイルだが、今日は少し時間をかけて整えた。

 クローゼットを開ける。普段着のTシャツとジーンズではなく、数ヶ月前に買った紺色のシャツとチノパンを選ぶ。袖を通すと、妙に肩が凝る。

「こんな格好で大丈夫か……」

 自問自答しながらも着替えを済ませる。スマホと財布をポケットに入れ、最後に腕時計をはめた。シンプルなデジタル表示の時計。中学三年の誕生日に祖父からもらったもので、いつしか大切な時には必ず身につけるようになっていた。

 玄関の鏡で最終チェックをする。少し髪型が決まりすぎていて違和感がある。だがこれ以上どうすることもできない。

「行ってきます」

 誰もいない部屋で小さく呟き、ドアを開けた。



(早く来すぎたかな)

 時計を見つめながら落ち着かない気持ちを抑えようとする。スマートフォンを開いて閉じてを繰り返す。

 九時五十五分。約束の時間まであと五分。

(もし来なかったら……)

 悪い想像が頭をよぎる。実際に東京に来ていない可能性もある。もしくは場所を間違えているとか……

「ねえ、直人?」

 背後から聞こえた声に思わず体が固まる。振り向けばそこに……

「アリサ……」

 久しぶりに見る姿に言葉を失う。制服を着ていた頃より大人っぽくなった印象。化粧をしているせいだろうか。しかし笑顔は確かに中学校以来変わらないものだった。

「ごめん、待たせちゃった?」
「いや全然……ちょうど来たところ」

 嘘をつく自分が滑稽だ。でもそんな些細なことより、今この瞬間が現実であることが信じられない。

「会いたかった」
「俺も……」

 互いにぎこちない挨拶を交わす。その後に続く沈黙が痛い。どうすればいいのかわからない。

「あのさ、どこか座らない?」
「そうだね」

 近くのカフェを提案しようとした矢先、アリサが突然言った。

「実は行きたいところがあるの」
「どこ?」
「秘密」

 悪戯っぽく笑う彼女についていくしかない。

 歩き出す二人。距離感に戸惑いながらも、昔のように自然と並んで歩いてしまう自分に気づく。

(変わったようで変わってないのか)

 そう思うと少し安堵した。一方で変わってしまったことも確かなのだ。あの頃とは全く異なる状況の中で再会したこと。そして自分自身が抱えている複雑な心情。

(どうして突然連絡してきたんだろう)

 疑問が尽きないまま、二人は街中を歩いていく。



 目的地に到着した時、思わず目を見開いた。

「ここって……」
「そう。覚えてるでしょ? 中学の時に一緒に行った場所」

 そこは植物園だった。校舎が近かったので放課後に何度か訪れたことがある。夏になると蓮の花が咲く池があり、秋になると紅葉が美しいことで有名な場所だ。

「なんでここに?」
「だって……」

 アリサは言葉を詰まらせた後、俯いて小さく言った。

「直人と一番思い出のある場所だから」

 その言葉に胸が締め付けられる感覚を覚える。彼女にとっても特別な場所だったなんて。

 中に入ると意外と多くの人がいた。休日とはいえこんなに賑わっているとは思わなかった。

「どっち行こうか?」
「まず温室の方に行かない? サボテンみたいと思って」

 彼女の提案に従い、まずは温室へ向かう。ガラス張りの建物に入ると南国の暑さを感じるほどだった。

 さまざまな多肉植物や蘭などが栽培されている。どれも見たことのない珍しい品種ばかりだ。

「ねえ、これなんて読むの?」
「バオバブじゃないかな」
「詳しいね」
「大学で習ったから」
「ふぅん……」

 アリサの目が少し細くなった。何か探るような視線を感じる。

「農業大学楽しい?」
「え? まぁ普通だと思うけど」
「普通……か」

 何か言いたげな様子だが、それ以上は追求してこない。代わりに別の質問をしてきた。

「好きなことしてる?」
「それは……」

 答えに窮する。毎日勉強や実験に追われる日々は充実していると言えるかもしれない。でも心の底から楽しんでいるかといえば……

「正直言うと、悩んでることがあってさ」

 思わず本音が出てしまう。こんな話を初めて人にすることになるとは。

「何に悩んでるの?」
「将来のこと。やりたいことはあるんだけど自信がないっていうか」
「具体的には?」
「まだ研究段階なんだけど……持続可能な農業システムの構築とか……」

 詳しく説明し始めると止まらなくなってしまう。彼女は真剣な眼差しで聞いてくれた。

「すごいね、 私には全然わからないけど」
「いやそんな大したものじゃないよ」
「でも熱心に話してる姿が素敵だと思った」

 急に褒められて顔が火照る。最近は周りの人間関係があまりうまくいっていないだけに新鮮な気持ちだった。



 温室を出て庭園エリアを散策する。春とはいえ暖かい陽気の中、桜も少し遅い開花で見頃を迎えている。

 ベンチを見つけた二人は腰掛けた。風が吹くたびに舞い落ちる花びらを見つめながら沈黙が流れる。

「あのさ」
「うん?」

 沈黙を破ったのはアリサだった。

「直人は私のこと……覚えてた?」
「忘れるわけないだろ」
「本当?」
「うん。ずっと気になってた」

 直人の告白にアリサの目が潤む。


「嬉しい……」
「俺こそ」

 再び訪れる静寂。だが不思議と居心地は悪くない。

「ねぇ、これからどうする? このまま別れたくないんだけど……」
「俺もそう思うけど……」
「じゃあさ」

 アリサが鞄から取り出したものは新幹線のチケットだった。
 けれど、その帰りのチケットは明日のものになっている。

「これ……」
「今夜泊まるところ……家族には友達の家に泊まるって言ってるから大丈夫」
「え?」

 驚きを隠せない直人に対して微笑むアリサ。
 その表情からは期待と不安が入り混じっていることが伝わってくる。

「実は……」
「うん」
「会社辞めたんだ」

 唐突な告白に思考停止する。
 一体どういうことなのか理解するまで時間が掛かった。

「一年くらい働いたけどどうしても合わなくて。上司との意見衝突が多くて……精神的に参っちゃって」

 そう語る彼女の顔には疲労の影が見える気がした。
 以前の明るさとは違う儚さすら感じる。

「それで退職して、次の仕事を探すために実家に戻ってたんだけど……ずっと直人のことを考えてた。だから思い切って会いに来た」

 突然の訪問にはそんな背景があったのかと納得する。
 同時に自分のことばかりで他人への配慮が欠けていたと反省する。

「そっか……大変だったんだな」
「うん。でも直人に会えて救われた気がする」

 お互い寄り添うように肩が触れ合う距離で座る。
 周囲を行き交う人々の視線など気にならないほど近くにいることに気付く。

(このままではいけない)

 本能的な危機感を覚えつつも離れ難い気持ちが芽生える。
 そしてアリサの言葉が核心に迫る。

「ねえ…… 私のこと受け入れてくれる?」
「どういう意味だよ?」
「文字通りよ」

 アリサが上目遣いで見つめてくる。
 その瞳には確かな覚悟が込められているように思えた。

「こんな時に聞くのも変だけど……付き合ってくれないかな?」
「アリサ……」

 今ここで即答できる自信はない。
 しかしこんな状況を作り出した責任はあると感じている。

「すぐには決められないけど……」
「それでもいいよ。私は待つから」

 再び訪れる沈黙。
 しかしそれは先程までの気まずさとは全く異なり互いの意志を尊重し合う沈黙となった。



 植物園を出て次の目的地へ向かう途中も会話は自然と増えた。
 過去のことや現在の仕事についても含めて互いの近況報告に花が咲く。
 そしてある店の前で立ち止まったアリサ。

「ここ入ってもいい?」
「ジュエリーショップ? オシャレだなぁ」
「私だってこういうお店好きよ?」

 店内に入るとアクセサリー類が多く陳列されていた。
 女性客中心と思われたが男性もちらほら見受けられる。

「何探してるの?」
「ペアネックレスとかないかな~」

 冗談めかして言うアリサだが本気かどうか判断しづらいところもある。

 いくつか商品を見比べた末選んだのはシンプルなデザインのリングだった。

「これ……二人でお揃いにしない?」
「マジで言ってる?」
「もちろん。初デート記念みたいな感じで」

 迷っているうちに会計に向かうアリサ。
 制止しようと手を伸ばしかけたものの結局買ってしまったらしい。

 紙袋を持った状態で店から出てくる彼女。
 少し得意げな表情を浮かべている。

「はいどうぞ」
「ありがとう……でも高いんじゃない?」
「値段なんて関係ないでしょ」

 渡された小箱を開けると輝く金属製リング。
 確かに高価そうではあるもののデザインとしては非常に控えめなものであった。



 日没間近となり空は茜色に染まっている。
 河川敷沿いを歩きながら他愛もない話題に華咲かせる。

「それで……うちの来るの?」
「駄目……?」

 直人のマンション住所まで把握している様子なので拒否権は無いも同然だ。



 18時過ぎに帰路についた。
 徒歩圏内のマンションへ着く頃には照明灯が点いていた。
 エレベーター内で密室状況になる間、会話が皆無だった点も気まずかったかもしれない。
 扉開けば我が家玄関ドア。

 鍵を開けて入室、進むと後ろから靴擦れ音が続いて来た。
 振り返ればコートを脱ぎ始める姿があった。

「あ…… 先にお風呂使ってくれ」
「了解」

 浴室へ消えた途端どっと押し寄せ倦怠感襲う。
 椅子深く腰掛ければ疲労感が漂ってきた。
 色々ありすぎて消化不良を起こしそうだがここまで来た以上回避不可能事態となってしまっているだろうか……

(いったいこれからどうなるんだろう)



 アリサがシャワーを使っている間、直人はキッチンで湯を沸かしていた。ハーブティーの葉っぱを棚から取り出す手が僅かに震えているのを感じる。

(落ち着け……)

 自分に言い聞かせながらお湯を注ぐと、爽やかな柑橘系の香りが室内に広がった。カップに移し替えてダイニングテーブルに運ぶ。

 数分後、浴室から出てきたアリサを見て直人は思わず息を飲んだ。パジャマは彼女の細い体型には少しだぼつき過ぎていて、逆にどこか脆さを感じさせる。

「あっ!お茶淹れてくれてたんだ?」
「うん。ハーブティだけど……」
「ありがとう。ちょうど飲みたかったんだ」

 彼女が隣の椅子に座る。距離が近すぎて緊張してしまう。

「美味しい……」

 アリサが一口飲んでから言った。その横顔を見つめながら直人は内心葛藤していた。今日一日を振り返ると、勢いで行動してしまった感が否めない。しかし後悔はしていない。むしろ心のどこかでこれを望んでいたような気さえする。

「直人」

 突然呼びかけられて慌てる。

「なに?」
「私のこと…… 嫌じゃなかった? 急に来たりして……」
「嫌な訳ないよ」

 本心からの言葉だった。

 しばらく二人は黙ってお茶を啜った。時折聞こえる雨音が静寂を演出している。

「あのさ……」

 アリサが意を決して切り出す。

「……スる?」

 そう言いながら、胸を寄せて強調する仕草をする。胸元が見えそうで見えないギリギリのライン。直人は彼女から目が離せなくなった。

「うん……」

 言葉少なに答えると、アリサは満足げに微笑む。そのまま立ち上がり直人の方へ近づく。彼の横に座り直すと肩が触れ合う距離になる。

「実はさっきからドキドキしてた」

 小声で告げるアリサの頬は朱色に染まっている。その艶やかさに煽られたように、直人も血が滾ってくるのを感じた。

「アリサ……」
「ん?」
「好きだよ」

 初めて口に出した想い。しかし躊躇うことなく出てきた。アリサの目が潤んでいくのが分かる。

「このタイミングは、エッチしたいだけじゃん」

 苦笑しながらも嬉しそうな表情を浮かべる彼女。その矛盾した心境が垣間見える。

 直人は彼女の頬に手を伸ばし優しく撫でる。滑らかな肌触りに魅了される。互いの視線が絡み合い、どちらからともなく唇を重ねる。最初はソフトだったキスも次第に情熱的なものへと変化していく。

「んっ……」

 舌を絡ませ合う水音が響く室内で、体温が上がってゆくのを感じ取れる。アリサの手が直人のシャツ裾から侵入してきて直接腹部に触れる。彼も負けじと彼女のパジャマトップスを捲り上げブラジャーに覆われた胸部へ手を這わせる。

「あぁ……んっ」

 甘い吐息と共にアリサが反応する。カップ越しでも分かる柔らかな感触に酔いしれる直人。指先で円を描くように揉みしだくと彼女の身体が小さく震えた。

「気持ちいい?」

 聞きながら背中に手を回してホックを外す。開放された双丘は重量感たっぷりでプルンッという擬音付きで露出した。ピンク色の頂点は既に固くなっており誘うように主張している。

「もう…… 悪趣味」

 抗議の声は弱々しく説得力皆無である。むしろ行為を肯定しているようにも解釈可能であろう。直人はそのまま口づけしながら乳房全体を揉み続ける。

「はぁ……あっ……んん……」
「可愛いよ……」

 耳元で囁かれゾクゾク震えるアリサ。更なる刺激を求め自ら腰を揺らす様子が扇情的だ。一方直人の方も股間部分に隆起してきており窮屈さを感じていた。ズボン内では先走り汁により下着内が湿って不快になってきている段階となっているようだ。

「直人…… もう我慢出来ないかも……」

 懇願する眼差しを投げ掛けてくる姿を見てしまえばこちらも限界突破寸前になってしまうわけで……

「分かったよ。ベッド行こうか」

 促されて立ち上がった直人は彼女の手引いて寝室へ案内した。
 アリサの唇が離れると、二人は同時に息を吐いた。
 部屋の中の空気が一気に濃くなったような気がした。

「ねえ、直人……」

 アリサが耳元で囁く。

「私たち、本当にするの?」

 質問ではなく、確認でもない。その声には迷いがなかった。
 むしろ何かを待ち望むような響きがあった。

「ああ……」

 俺は言葉を選べずに頷いた。

「ただ、初めてだから……どうしたらいいか……」

 アリサは小さく笑うと、ベッドの上で膝立ちになった。彼女の細い指が自分のシャツのボタンにかかる。一つずつ外れていく様子を見ているだけで、心臓が早鐘を打った。

「私もよ。でも大丈夫」

 彼女は最後のボタンを外し終えると、ゆっくりとシャツを脱ぎ捨てた。

「だって……直人とだから」

 白い肌が蛍光灯の下で浮かび上がる。胸は決して大きくはないけれど、形の良い曲線を描いていた。

 慌ててTシャツを脱ぎ捨てる。大学生になって多少鍛えてきたとはいえ、まだ胸板は薄い。アリサはそれを見て微笑んだ。

「かっこいい」

 その言葉に顔が熱くなる。

「嘘つけよ」
「本当だよ」

 アリサはそう言って、今度はスカートに手をかけた。俺も同じようにベルトを緩める。お互いの呼吸だけが聞こえる静かな空間。まるで世界から二人だけ切り離されたようだった。

 下着一枚になって向かい合うと、急に恥ずかしさがこみ上げてきた。

「なんか変な感じだな」
「そうだね」

 アリサも少し照れた表情を浮かべる。でもすぐに彼女は表情を変え、真剣な眼差しで俺を見つめた。

「直人、私、ずっと好きだったの」

 突然の告白に息が止まりそうになる。

「小学生の頃から、いつも一緒に遊んでくれて……中学でも高校でも変わらず接してくれて……私だけ特別扱いしてくれるのが嬉しかった」

 彼女の瞳が潤んでいる。いつもの強気な態度とは違う、弱々しい姿。

「でも卒業してからは疎遠になっちゃって……今日こうやって会えて、やっぱり私の気持ち変わってないって分かったの」

 胸が締め付けられる。自分の中にも同じ想いがあることに気づいていた。ただ言葉にしてこなかっただけだ。

「俺も……」

 喉が渇いて声が出にくい。

「俺も、アリサのこと、ずっと好きだった」

 その瞬間、彼女は飛びつくように抱きついてきた。柔らかい身体の感触が全身に伝わる。女の子の匂いと温もりに包まれて、理性が崩れそうになる。

「直人……優しくしてね」

 その言葉に我に返った。自分が彼女の肩に手を置いていることに気づく。無意識のうちに力が入っていたようだ。

「ごめん!痛くなかった?」
「大丈夫。ちょっと驚いただけ」

 アリサは小さく笑うと、自分でブラジャーを外し始めた。その仕草に思わず目を逸らしてしまう。

「見てよ、恥ずかしいけど……見て欲しい」

 彼女に促されて視線を戻すと、目の前にあるのは想像していたよりも美しい形の膨らみ。その頂点にある小さな突起が、既に硬くなり始めていた。

「綺麗だ……」
「ありがとう」

 アリサは少し頬を赤らめながら言うと、今度は俺のパンツに手を伸ばしてきた。

「ここ……触ってもいい?」

 震える声での問いかけに、何も言えなくなる。ただ首を縦に振ることしかできなかった。

 彼女の細い指が布越しに触れる。今まで誰にも触れられたことのない部分。その刺激だけで背筋に電流が走ったような感覚になる。

「硬くなってる……」
「当たり前だろ」

 思わず反論すると、アリサは満足げに微笑んだ。

「直人も私で興奮してるんだね」

 彼女の指が優しく上下に動くたび、腰が勝手に動きそうになる。必死に堪えようとするが、そんな努力は無駄だとわかっていた。

「私も触ってほしいな……」

 その言葉に導かれるように、恐る恐る手を伸ばす。アリサの胸に触れた瞬間、彼女が小さく喘いだ。

「あっ……」

 柔らかくて、でも弾力があって、不思議な感触だった。触れているだけで心地よい。

「もっと強くても平気だよ」
「こう?」

 言われるままに少し力を入れると、アリサの身体が跳ねた。

「そう……そこ……」

 彼女の反応に勇気づけられ、もう片方の手も使って両方の乳房を愛撫する。乳首を軽く摘まんだり、押し潰したりするたびに、アリサの口から甘い声が漏れる。

「すごい……直人、上手……」

 褒められて調子に乗ってしまったのか、舌を使って舐め始める。アリサの反応はさらに大きくなった。

「あぁっ!ダメ……そこ……」

 彼女の手が俺の頭を押さえつけてくる。嫌がっているわけではないことがわかって安心する。むしろもっとと求めるような動きだった。

 しばらく胸への愛撫を続けた後、顔を上げると、アリサの瞳は完全に欲情で濡れていた。

「ねえ……そろそろ……」

 彼女は自らショーツに手をかけて引き下ろしていく。露わになった秘所は、予想通り濡れて光っていた。

「恥ずかしい……でも、待てない……」

 その言葉に我慢の限界を迎えた俺は、自分も残っていた下着を脱ぎ捨てた。勃起したものが解放され、勢いよく天井を向く。

「大きい……」

 アリサの視線を感じてさらに硬くなる。

「怖い?」
「少しね……でも大丈夫」

 彼女は深呼吸をしてから言った。

「直人なら信じられるから」

 その信頼が嬉しくもあり、同時に責任を感じさせた。絶対に傷つけたくない、大切にしたいという思いが強くなる。

 ベッドに横たわったアリサの脚を開かせ、その間に体を入れる。彼女の入り口はもう十分すぎるほど湿っていて、準備ができていることがわかった。

「行くぞ……」
「うん……来て……」

 先端を当てると、アリサの身体が少し強張るのがわかった。それでも止めることはできない。ゆっくりと体重をかけるように進めていく。

「っ!!痛っ……」

 アリサが歯を食いしばった。思った以上の抵抗感があり、亀頭が半分ほど埋まったところで止まる。

「大丈夫か?」
「うん……続けて……」

 彼女の額には汗が滲んでいた。苦痛と快楽の狭間で揺れているような表情。それでも俺を受け入れようと、懸命に力を抜こうとしている。

「ゆっくりでいいから」
「わかってる……」

 慎重に腰を進めると、何かを破る感触とともに、一気に奥まで入ることができた。

「っああっ!!」

 アリサの悲鳴とも呻きともつかない声。そして同時に、彼女の膣内が激しく収縮した。

「全部……入った……」
「うん……わかる……」

 アリサは涙目になりながらも、幸せそうな表情を浮かべていた。

「痛くない?」
「最初は少し……でも今は……不思議な感じ……」

 彼女の腕が俺の背中に回される。それを合図に、ゆっくりと抽送を開始した。

 初めは痛みの方が強いのだろうと思っていたが、何度か出し入れしているうちに、アリサの反応が明らかに変わってきた。

「あっ……あっ……んっ……」

 漏れる声に甘さが混ざり始め、腰の動きに合わせて自然と腰が動くようになった。

「気持ちいい?」
「わからない……でも……なんか変なの……」

 素直な感想に笑みがこぼれる。それがまた可愛くて、愛情が溢れてきた。

「大丈夫、徐々に慣れていくから」

 そう言いながらペースを上げていく。結合部からは水音が立ちはじめ、次第にスムーズな挿入ができるようになっていった。

「んっ……あっ……直人……これ何……?」

 アリサの疑問に答える余裕もなくなる。あまりの快感に頭が朦朧としてきた。

「イキそう……かも……」
「私も……あっ……来る……っ!」

 彼女の内側が波打つように収縮し、それに呼応するように射精感が高まっていく。

「出る……!」
「出して!私の中に……!」

 最後の一突きを強く打ち込むと同時に、大量の精液が放出された。ドクンドクンと脈打つたびに、脳髄まで痺れるような快感が走る。

 長い時間をかけて全てを注ぎ込んだ後、ようやく冷静さを取り戻した俺は、アリサの顔を見る。

「ごめん……中に出しちゃった……」
「いいの……これが良かったから……」

 彼女は疲れ切った表情でありながらも、満ち足りた笑顔を見せてくれた。

「……私たち恋人同士だよね?」
「もちろん」

 優しくキスをすると、アリサは穏やかに眠りについた。その寝顔を見つめながら、これまでの20年間とこれからの人生について考えていた。

 これからは本当の意味で二人三脚の道が始まるのだということを実感しながら、俺もまた深い眠りへと落ちていった。
 朝6時30分。アラームが鳴る前に目が覚めた。

 窓の外は既に明るく、鳥のさえずりが聞こえてくる。昨夜の記憶が鮮明によみがえり、思わず頬が熱くなる。シーツに残る微かな甘い香りが、あれが夢ではなかったことを教えてくれた。

「おはよ」

 隣で寝息を立てているはずのアリサの声がした。いつの間に目を覚ましたんだろう。

「まだ早いのに」
「今日帰るから……」

 寂しそうに彼女が言う。そうだ、彼女は帰らなければならない。

「次はいつ来てくれる?」

 思わず尋ねてしまった。

「土曜日にまた来るよ」

 そう答える彼女の目に、決意のようなものが見えた。

「約束だからね」
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