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第8話 揺れる世界の狭間で
平和な日々が続いた。エルナは針仕事を終えるとレオンハルトと夕食を共にするのが習慣となっていた。ある晩のこと、いつものように二人で食卓を囲んでいると扉がノックされた。
「領主様。至急の密書が届きました」
フェルディナンドが差し出した封筒には蝋印が押されている。レオンハルトは眉をひそめながら封を切った。
手紙を読み進めるうちに彼の表情が険しくなる。やがて彼はエルナを見つめた。
「クローゼ・ハルトマンからの密書だ」
「……クローゼ・ハルトマン?」
レオンハルトは一瞬複雑な表情を見せたが、すぐに平静を装った。
「帝国軍の特殊情報部門長だ。かつての俺の部下でもある」
手紙の内容は驚くべきものだった。神殿内部に潜入したクローゼは陰謀の証拠を掴んだと言う。
「星詠の儀式を盾に聖女を利用しようとする動きがあるらしい」
レオンハルトは続ける。
「しかし最も衝撃的なのはこれだ」
彼は手紙の一部を指した。
「偽の魔力測定器を使ったという証拠が得られた。つまりエルナが偽聖女とされたのは最初から仕組まれたことだ」
エルナは息を呑んだ。自分の運命が操作されていた現実が急に重みを持って迫ってくる。
「でもなぜ……誰がこんなことを……」
「それはわからない。だが確実なのはお前を殺そうとした勢力が存在するということだ」
沈黙が訪れる。エルナは震える手でグラスを握りしめた。
今まで信じてきた秩序が崩れていくような恐怖を覚える。
レオンハルトは手紙を置き、深く息を吸った。
「まずクローゼに連絡を取る。そして真相究明の協力を求める」
「私も一緒に行かせてください」
思いがけない言葉にレオンハルトは目を見開いた。
「危険すぎる」
「ですが私が関わっている事件です。避けては通れません」
エルナの決意に満ちた眼差しを受け止めきれず、レオンハルトは視線を逸らした。
「……わかった。だが同行する条件がある」
「何でしょう?」
「常に俺の傍にいろ。絶対に離れるな」
エルナは頷いた。恐怖がないわけではない。しかし目の前にいる男への信頼がそれ以上の勇気を与えてくれる。
「約束します」
■
その夜遅く、レオンハルトは館の屋上で星空を見上げていた。エルナはそっと隣に立つ。
「眠れないのか?」
「あなたこそ」
二人はしばらく無言で星を眺めた。やがてレオンハルトが口を開く。
「正直言うと……お前を危険に晒すのは忍びない」
「でもあなたは自ら危険に身を投じるんですね」
「俺には守るものがある」
レオンハルトは遠くを見つめながら続ける。
「父が残したこの領地も、住民も……そして今はお前もだ」
「私も守ります」
エルナの声には確かな力があった。
「私があなたを……そしてこの地を守ります」
レオンハルトは驚いたようにエルナを見た。月明かりに照らされた彼女の顔には強い決意が浮かんでいる。
「ありがとう」
レオンハルトは静かに言った。そして心からの笑みを浮かべた。
「では明日から準備を始めるぞ」
「はい!」
エルナは頷きながら思った。この人は決して冷たくはない。むしろ誰よりも優しく真っ直ぐな人なのだ。そして自分もまた変われる。彼のように強くあれるはずだ。
夜風が二人の間を吹き抜けた。新たな旅立ちの予感を孕んだ風だった。
「領主様。至急の密書が届きました」
フェルディナンドが差し出した封筒には蝋印が押されている。レオンハルトは眉をひそめながら封を切った。
手紙を読み進めるうちに彼の表情が険しくなる。やがて彼はエルナを見つめた。
「クローゼ・ハルトマンからの密書だ」
「……クローゼ・ハルトマン?」
レオンハルトは一瞬複雑な表情を見せたが、すぐに平静を装った。
「帝国軍の特殊情報部門長だ。かつての俺の部下でもある」
手紙の内容は驚くべきものだった。神殿内部に潜入したクローゼは陰謀の証拠を掴んだと言う。
「星詠の儀式を盾に聖女を利用しようとする動きがあるらしい」
レオンハルトは続ける。
「しかし最も衝撃的なのはこれだ」
彼は手紙の一部を指した。
「偽の魔力測定器を使ったという証拠が得られた。つまりエルナが偽聖女とされたのは最初から仕組まれたことだ」
エルナは息を呑んだ。自分の運命が操作されていた現実が急に重みを持って迫ってくる。
「でもなぜ……誰がこんなことを……」
「それはわからない。だが確実なのはお前を殺そうとした勢力が存在するということだ」
沈黙が訪れる。エルナは震える手でグラスを握りしめた。
今まで信じてきた秩序が崩れていくような恐怖を覚える。
レオンハルトは手紙を置き、深く息を吸った。
「まずクローゼに連絡を取る。そして真相究明の協力を求める」
「私も一緒に行かせてください」
思いがけない言葉にレオンハルトは目を見開いた。
「危険すぎる」
「ですが私が関わっている事件です。避けては通れません」
エルナの決意に満ちた眼差しを受け止めきれず、レオンハルトは視線を逸らした。
「……わかった。だが同行する条件がある」
「何でしょう?」
「常に俺の傍にいろ。絶対に離れるな」
エルナは頷いた。恐怖がないわけではない。しかし目の前にいる男への信頼がそれ以上の勇気を与えてくれる。
「約束します」
■
その夜遅く、レオンハルトは館の屋上で星空を見上げていた。エルナはそっと隣に立つ。
「眠れないのか?」
「あなたこそ」
二人はしばらく無言で星を眺めた。やがてレオンハルトが口を開く。
「正直言うと……お前を危険に晒すのは忍びない」
「でもあなたは自ら危険に身を投じるんですね」
「俺には守るものがある」
レオンハルトは遠くを見つめながら続ける。
「父が残したこの領地も、住民も……そして今はお前もだ」
「私も守ります」
エルナの声には確かな力があった。
「私があなたを……そしてこの地を守ります」
レオンハルトは驚いたようにエルナを見た。月明かりに照らされた彼女の顔には強い決意が浮かんでいる。
「ありがとう」
レオンハルトは静かに言った。そして心からの笑みを浮かべた。
「では明日から準備を始めるぞ」
「はい!」
エルナは頷きながら思った。この人は決して冷たくはない。むしろ誰よりも優しく真っ直ぐな人なのだ。そして自分もまた変われる。彼のように強くあれるはずだ。
夜風が二人の間を吹き抜けた。新たな旅立ちの予感を孕んだ風だった。
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